140 元気が出たんだが
「ご馳走様でしたぁ」
結局有咲は弁当を軽く平らげ、満足そうに椅子にもたれかかる。
(あはは…マジか)
優は有咲の食べっぷりを見て七海の手料理の破壊力を知る。
身体に良いものが多く入っていたのもあるが、多分それだけではない。
そうでなければ、今の有咲の元気さに説明がつかない。
有咲は弁当を食べる前とは打って変わって、元気そうな笑顔を浮かべている。
弁当パワーにやって笑顔で溢れている有咲だが、元気をもらったのは有咲だけではない。
(俺もなんか体調がよくなった気が…)
朝まではまだだるさが残っていた優も弁当を食べ終えた今はほぼ普段通りの調子に戻っており、今一度七海に感謝をする。
(明日なんかお礼しないとな)
明日は学校に行く予定なので、何かプレゼントでもしてあげようと考える。
(ん〜何がいいかね…お菓子とか?この前買ってきたちょっと高いチョコでも…いやでもあのお茶も…)
そんな風に考え事をしていると、洗い物を終えた奈々が家を出る支度をしながら2人に話しかけてくる。
「ちょっとお買い物してくるから、2人で仲良くお留守番しててね〜?」
「はーい」
「優、少しの間有咲を任せるわね」
「ああ、任せろ」
奈々はそう言い残して家を出ていき、家には優と有咲の2人だけの状況となった。
(ん〜…何を話せば良いか…)
病人である有咲を前に話題に悩んでいると向こうから話題を振ってきた。
「お兄さん。少しだけ、わがままを言ってもいいですか?」
「ん、ああ。いくらでも言っていいぞ」
「では、お言葉に甘えて…お兄さん、ギュッてしていいですか…?」
「ああ、それぐらいなら全然」
「じゃあ、失礼します」
優は有咲に近づいて目線の高さを合わせると、有咲は少し躊躇いがちに手を広げた。
有咲の脇の下から手を通し、背中でギュッと抱きしめると、有咲も嬉しそうに抱き返してきた。
「ふふふ…あったかいです…」
「そうだな。ま、くっついてるんだから当然だけど」
「もぉ…そういうのはいいんです。今はお兄さんの体温を感じたいのです」
「はいはい」
少し変態っぽい有咲の解説に呆れた顔をしながらも手は緩めない。
次第に有咲の柔らかい部分から心臓の鼓動が胸に伝わってくるようになり、その鼓動が自分よりもかなり速いことに気づく。
それを直接言うと多分恥ずかしくて死んでしまうので、とりあえず間接的に伝えておく。
「身体、さっきよりも熱いな。熱上げてしまったか?」
「いえ、そういうわけでは…」
「ならいいんだけど」
有咲は自分がドキドキして体温が上がっているのがバレたと思い、さらにドキドキが加速する。
そのまま何も考えられなくなり、それからの数分の出来事はよく覚えていない。
気づけば2人は離れていて、有咲は隣にいる優の姿を見つめる。
「ん?どうかしたか?」
「いえ、何も…」
「そっか。あ、薬飲んだか?」
「はい、飲んでます」
「じゃあそろそろ寝といた方がいいんじゃないか?」
「そうですね。寝ておきますね」
さっきよりも暑いこの身体も、寝たらきっと治ってる。
そう祈りながら、有咲は自室に戻って行く。
優も後からついて行き、ベッドに横たわる有咲の手を握る。
「おやすみ」
「おやすみなさい。その…手、握っててくれるんですね」
「ああ、こっちの方が安心するだろ?」
また平気な顔でそんなことを言ってくる。
そういうことろが、また有咲をドキドキさせる。
「そ、そうですね…はい。握っててくれると、安心します…」
「ならこのままでいいだろ?俺はしばらくここにいるから」
「はい、ありがとうございます…」
目を閉じると、大きくて速い心臓の鼓動が自分の耳に飛び込んでくる。
その音が優に聞こえていないことを祈りながら有咲は眠りについた。




