14 高得点は取りたくないんだが
翌日、ついにテストが幕を開けた。
高校最初のテストということもあり、かなり気合が入っている人も多くいて、上位に入るのはかなり難しいだろう。
テスト開始から30分弱経った頃、スピードが速い人はペンを起き、見直しをし始めた。
そうやって生徒達が少しでも高い点を取ろうと努力している中、優はというと
(ふぅーこんなもんか。よし!寝よ!)
半分と少しぐらい解いたところで睡眠についたのだった。
別にわからない問題があったわけではないのだが、あまり目立ちたくはないので高い順位は取らないように調整しておく。
そして隣の席の七海はというと
(ふぅー思ったより簡単だったね。優くんも解き終わったみたいだし、きっと夫婦で同率一位かな)
とか考えていたのだが、それは完全に的外れな考えである。
優は最初から目立たないように点数を調整するつもりだった。
なので実は七海と有咲との勉強は全くの無意味だったのである。
そんな事は全く知らず、七海はテストが終わるのを待つ。
「辞め、後ろから解答用紙回収して」
テスト終了のチャイムが鳴り、先生の合図で全員ペンを置き、解答用紙を回収する。
それが終わり、各々が帰る準備を始め出し、遊びに誘う者や勉強をする為に居残りをする者など様々な行動をしている。
その時、七海は隣の席で眠そうにしている優を遊びに誘う。
「優くん、この後暇?ちょっと遊びに行かない?」
「ん?まぁ暇だからいいけど。」
「やった!優くんは行きたいところある?」
「特に無いから任せるよ」
「じゃあカラオケいこ!久々に優くんの歌声聴きたいな」
「まあいいけど…そんなに上手くないだろ、俺」
「どこの誰なの?趣味で歌のコンクールで金賞取ったの」
「さ、さぁ〜ダレダロウネ〜」
うん、君のことだよ?
紛れもなく優のことだが。
歌に関しては小さい頃本当に趣味感覚でやっていたので、割と楽しかったと記憶している。
なので、歌うことは好きだし、たまには歌いたいのだが、あまり人に聴かせたいとは思わない。
だが、折角聴きたいと言ってくれている人が目の前にいるわけだし、それに応えよう。
「ふふふ…さ、行こ?」
七海はとぼける優に笑みを向けた後、優の手を掴んで足早に教室を出ようとする。
「ああ、行くか」
そう言って優も七海に続く。
それから数分経った後、とある少女が教室を尋ねてきて、近くにいた生徒に声をかける。
「あの、お兄さんを知りませんか?」
「お兄さん?あー如月くんね。えっと確か桜庭さんと一緒に教室を出て行ったような…」
少女の表情が笑顔に変わる。
だが、その笑顔は決して笑っているようには見えない。
その笑顔に、恐怖を覚えた生徒が過半数。
本当に、何人か倒せてしまいそうなほどの笑顔だった。
「それは…本当ですか?」
「え、ええ…本当だけど…」
「ありがとうございます。どこに行ったかはご存知ですか?」
「確かカラオケがどうのこうのみたいな話を…」
「なるほど。ご協力ありがとうございます。それでは」
そう言って控えめに手を振って去っていく少女。
会話の途中で目撃された恐怖の象徴かのような笑顔は、その教室に居た生徒達の心に深く刻まれたのだった。




