138 来ると思わなかったんだが
奈々がリビングに戻ってきて少しした頃に家のチャイムが鳴り、奈々が玄関に出ていく。
「優〜!七海ちゃん来たわよ〜!」
流石に今日は来ないと思っていたので少し驚きながらリビングから出て行く。
「おはよう」
「おはよ。今日は早いな」
「うん、ちょっと2人の様子を知りたくて」
「そっか。見ての通り元気…ゲホッゲホッ…まだしんどくてな…。今日は休もうと思う」
危ない。
奈々が隣にいるのに今元気であることを言ってしまいそうだった。
優は一瞬で軌道修正し、何とかバレずに話が続く。
「そっか。大変だね。あ、その…もしよかったら…これ、食べて…?」
「これって…?」
七海から弁当箱を差し出され、優はポカンとした表情になる。
「えっと…一体これは…」
「その、お昼にでも食べてくれたらって…別にいらないなら別にいいんだけど!!」
「いや、ありがたくいただくよ」
優は弁当箱を受け取り、すぐに礼を言う。
「ありがとう」
「ううん。私もいっぱいしてもらったし。あ、これ、有咲ちゃんの分も」
「マジか…。大変だっただろ」
「ううん。いつもよりちょっと早起きしただけだし、別に2人分になるからってそんなに大変ってわけじゃないから」
「そっか。本当にありがとな。美味しくいただくよ」
「うん!身体に良いものがいっぱい入っているから、よく噛んで食べるんだよ!」
「ああ。跡形も残らなくなるまで噛んどく」
「あはは…そこまではしなくていいよ」
少しボケてみたところで、七海に乾いた笑みを向けられる。
それに釣られて優も笑い、そのまま少しだけ世間話をした。
数分後、話が段落した頃に奈々が間に入ってきて口を開く。
「七海ちゃん、少し上がってく?まだ時間あるでしょう?」
「いえ、流石にそこまでご迷惑をおかけするわけには…」
「いいのいいの。お弁当もいただいたんだし、私からも少しお礼がしたいの」
「…そういうわけなら…少しだけ」
七海もあと30分ぐらいは時間に余裕があるので家に上がってお茶を飲みながら話をする。
それから20分程の時が経った頃に、七海は立ち上がってある場所に行こうとする。
「有咲ちゃんの様子を見てもいいですか?」
学校に行く前に、1番の重症者の有咲の様子を見てから行きたかったらしく、七海は奈々に訊いてみる。
「いいわよ〜。優、ついていってあげなさい」
「はいよ」
優は七海を連れて階段を登り、有咲の部屋のドアをノックする。
「はい」
まさか返事が返ってくると思わず、優は硬直してしまう。
七海はいち早くそれに気づき、急いで返事をする。
「私だよ有咲ちゃん。ちょっと、入ってもいいかな?」
「どうぞ」
耳をすまさないと聞こえないほどの声であったが、確かに有咲の声が聞こえてくる。
優はそのことに内心ホッとしながら中に入っていく。
ベッドには昨日よりも元気そうな有咲がいるが、やはりまだ辛そうだ。
そんな有咲にどのような言葉をかけるべきか迷っていると、七海が一歩前に出て話しかける。
「急にごめんね。会いたくなっちゃった」
「そうなんですか?嬉しいです」
有咲はしんどいながらも笑顔を作り、七海と楽しそうに話している。
「調子はどう?昨日よりはよくなった?」
「はい、おかげさまで…その、昨日買ってきてくださったゼリー…美味しかったです」
「そう?ならよかった」
七海は嬉しそうに胸を撫で下ろし、そして少し自慢げに胸を張る。
「今日はお弁当作ってきたからね。身体にいい物がいっぱい入ってるから、食べれそうなら食べてね」
「え、本当ですか?ありがとうございますっ」
「うん。たくさん食べて早く元気になってね!」
「はい。がんばります」
2人は笑顔で別れ、優は七海とともに部屋を出ていく。
七海はそのまま学校に行くらしく、奈々と優希に礼を言ってから玄関に向かった。
「じゃあ、また明日来るね。明日は元気に学校行こうね」
「ああ。またな」
2人は手を振って別れを告げた。




