137 サボりではないんだが
翌朝、優はいつも通りに起床し、いつも通りにリビングに向かった。
「おはよう」
「あ、おはよ〜」
「おはよう。調子はどうだ?」
食卓には昨晩いなかった優希がいて、新聞を読みながら話しかけてくる。
「ん、まぁ、まずまずかな」
「そうか。今日は学校行けそうなのか?」
「ん?やー…その…」
「…そうか」
どう返すべきか悩んでいると、優希が何かを察したかのように声を大きくした。
「やっぱりしんどいかー!うん!そうだな!今日は休んどくか!!」
「え、あ…ああ…!そうだな!」
何と起点を効かせた対応なんだ。
2人は心の中で団結し、学校に休もうとする。
だが、そう簡単にはいかない。
「本当にー?ちょっと熱測ってなさい」
「ゔ…」
奈々は学校に行かせたいようで、睨みながら優に体温を測るように促す。
流石に断るわけにはいかず、優は渋々体温計を手に取る。
(クソッ!万事休すか…!)
心臓のドクドクを感じながら、脇に体温計を挟む。
それから少し経った時に、優希がテレビを見にきたフリをしながら隣までやってきて奈々にバレないように耳打ちをしてくる。
「(…すれ)」
「(??)」
「(擦れ、その体温計)」
一瞬出来事であったが、優はその言葉にハッと驚き、すぐに実践する。
奈々に見られないように反対方向を向きながらやりすぎない程度に体温計を擦る。
『ピピピピ…ピピピピ…』
体温計が鳴り、優は傍から取り出して確認する。
隣にいる優希も顔をこちらに寄せて覗いてくる。
「これは…」
「ん〜…」
「どうだったの?」
「いや、その…」
疑いの目を向けている奈々に体温を訊かれるが2人は黙ったままなのでさらに疑り深い目を向けてくる。
「早く教えて?熱、なかったんじゃない?」
「いや、あるにはあるんだけど…」
「もう、早く見・せ・て!」
「あ、ちょ__」
奈々に無理やり体温計を取り上げられ、2人は焦りながら明後日の方向を向く。
そんな2人に反して奈々は焦りと驚きを交えた表情をする。
「40度…?」
「いや〜そ、それはそのー…」
「優⁉︎あなた大丈夫なの⁉︎ちょ__い、今すぐベッドに、じゃなくて病院にっ!!!」
体温計に表示されている明らかにおかしい数字を見て、天然の奈々は普通に騙されて焦り散らかしている。
だがこれは好機だと、優希が軽く背中を押してくる。
その一瞬で何をすべきか察し、優は立ち上がって奈々の前に出る。
「あんまり症状は出てないんだけど…やっぱりまだしんどい感覚があって…病院に行くほどではないけど、熱があるしやっぱり学校は…」
「そ、そうね!今すぐ連絡してくるわ!」
奈々は焦って携帯を取り、リビングから出て行った。
その瞬間、2人は高々とハイタッチを交わした。
「うまくいったな」
「うまくいった…のか…?」
「まあ休めたんだからいいじゃねぇか」
「たしかに。てか何で協力してくれたんだ?」
普通親なら子を学校に行かせろよ。
そんな意見が頭に浮かび、優希に質問してみると、何かを思い出しながら説明してくる。
「いや〜何というか、学校をサボるのも青春だろ?たまにはいいだろって思って」
「何だそれ。親失格かよ」
「それは言い過ぎだろ⁉︎」
親が子供に対して使うことが不可能なセリフを平然と言ってきて、優は若干呆れるが、それよりも驚きが勝っていた。
「ははっ…父さんも、学校サボってたんだな」
「ん?そりゃ高校生にもなると行きたくない日ぐらいあるだろ」
「そっすね…」
今まで会社をサボっている姿を見たことがない優にとって、その発言は意外そのものだった。
優は(これが親子か…)などという不名誉なことを考えながら奈々が帰ってくるまで学校のサボり方を伝授してもらった。




