13 将来は大事なんだが
「よし、じゃあ今日はこれで終わりにしようか」
時刻は17時30分。
七海の言葉によって勉強は終了する。
七海の話を聞き流すのに疲れた優は、思いっきり身体を伸ばした後、ソファーに寝転ぶ。
そこに七海が迫ってきて、肩をトントンと叩いて優にある提案をしてくる。
「ねえ優くん、お腹空かない?」
「ん?ああ、空いてるな」
「だったらご飯食べて帰る?」
「え?いいのか?」
「うん!これからの事を考えても君の胃袋を掴んでおきたいし」
「いやこれからって何⁉︎」
「それは…その…し…し…」
「し?」
「(新婚生活…だよ?)」
恥ずかしそうに小声で答える七海。
(何言ってんのこの人!?)
優は状況を全く理解出来ず、何も考えずに七海の発言を聞かなかったことにした。
「よ、よしっ!どっか食べに行くか!今日は世話になったし奢るよ!」
「そ…そうだね!食べに行こっか!どこにする?」
こうしてファミレスに行くことになった2人。
準備を済ませ、家を出る。
目的地まで2人でゆったり談笑しながら歩く。
いつもの事ながら、視線がエグい。
本当に、七海はどれだけの人間の注目を浴びているのやら。
だが、今回に限っては優も注目を浴びていた。
いつもはだらしない見た目だが、今日はいつもより長めに準備に時間をかけたこともあって、かなりの好青年になっている。
なので、視線の中には優を見るものもあり、七海は少し誇らしくなっているのだった。
(優くん、本当にカッコイイもんね…まあ、誰にもあげる気はないけど)
七海は優を見ている女性にアピールするように優の腕にしがみついた。
「七海さん!?急に何を…」
「いいでしょ?私達、付き合ってるんだし」
「そんな事実は存在しないんだg」
「告白して貰ってるし、付き合ってるよね?」
「ま、まぁその可能性も無きにしも非ずというか…」
笑顔が怖すぎる。
最新の脅しってこんなんなの?
こうやって2人で仲良く(?)歩いていると、目的地のファミレスに到着した。
「いらっしゃいませーお好きな席へどうぞー」
店員さんにそう言われ、適当な席に向かう。
向かい合って席に座った後、注文する品を決めて注文し、到着するのを待つ。
その間暇なので適当に質問でもして時間を潰す。
「そういえば中学の時テニスしてたんだって?高校ではしないのか?」
「うん、高校ではいいかな…優くんこそ、何かしないの?」
「俺は…いいかな」
「そっか…でも、何かしたくなったら私も一緒にするからね」
「ああ、ありがとな」
なんか一気に気まずい空気になってしまった。
まあ当然のことだろう。
七海は昔優に何があったのか知っているのだから。
「それにしても凄いな、中学時代は優勝しまくってたんだろ?」
「まあそうだね…でも、優くんには叶わないよ」
「流石にそれはないだろ。今は、右腕も使えないしさ」
「そう…だね」
七海があからさまに暗い顔をする。
それは優に何があったのか知っているから。
天才ゆえに酷使される日々。
そんな暗い過去を、七海は隣で見てきた。
だからこそ、無力であった自分を蔑んでいるのだろう。
だが、七海にはそんな顔をしてほしくない。
自分を蔑ろにしないでほしい。
悪いのは全部…俺だから。
そんな暗い過去も、明るい未来で打ち消してほしい。
ただ優はそれを願うだけだった。
「よし!この話やめ!さ、これからの新婚生活についての話をしよ?」
「話変えるのはいいけど変え方に問題ありすぎるでしょ!?」
案外、七海に尽くし、尽くされるのもいいかもしれない。
そこに救いがあるのかもしれない。
いや、あってほしい。
優はただ、未来が明るくて幸せである事を願うだけだった。




