129 うまくいってほしいんだが
20XX年1月1日。
新年の幕が開け、世間はお祭りムードだ。
桜庭家でも、いつもよりハイテンションな日常を過ごして__
「眠たい……」
うん、家族みんな寝不足でローテンションだった。
特に七海と母の翔子は朝に弱いので今までは何とか早寝することで耐えてきたのだが、今日は深夜1時頃まで起きていたのでかなり眠い。
七海はこたつに入ったまま眠りにつきそうになるが、それは翔子によって止められる。
「こら七海。こたつでねちゃダメよ?」
「う〜ん…分かってるんだけど…こたつが気持ち良すぎて…」
「ははっ、気持ちはわかるぞー」
朝食の片付けをしていた智もこちらにやってきて気持ちよさそうにこたつの中に入ってきた。
「お父さん狭い〜」
「ヴッ…すまない…」
智はさっと足を引いてこたつの端でなんとか温まる程度に足を入れている。
そんな智を見て、翔子が七海に少し呆れたような口調で喋り始める。
「もう…あなたはこたつと結婚でもするの?」
「………ありかも」
「え?」
「あっ__」
つい口から出てしまった言葉が失言だと気づいた頃には遅かった。
「本当か七海ぃ…優くんと結婚するんじゃなかったのか…?」
「い、いや…それは…そうだけど…」
「ダメよお父さん…。七海は心変わりしてしまっただけなのだから…私たちの都合を押し付けるのは野暮よ…?」
「こ、心変わりなんてそんな…」
「じゃあ優くんのことは今でも好きなのか…?」
「そう…だけど、そうじゃない…かな」
「はっ!!やっぱりそうなのか…」
「いやっ、そういう意味じゃなくて…」
あからさまに悲しそうな表情を浮かべ始めた智に、七海はしっかりと説明をし始める。
「優くんのことは…大…好きだから…」
自分でも何でこんな事を言ったのか分からない。
でも、彼にだけは正直でありたかった。
そんな思いが、言葉に出る。
それを聞いた両親は、ニヤニヤしながら口を開いてくる。
「ほほぉん、なるほどねぇ…」
「熱いわねー」
顔が熱くなるのを感じる。
顔どころか、全身が熱い。
とりあえずこたつから身体を出して逃げるようにリビングを出ていく。
「ちょっとお手洗い」
「おお」
七海が出て行った後、リビング内では静かに会議が行われていた。
「翔子…どう思う?」
「どうって?」
「七海の恋は、うまくいくと思うか?」
「わからないわ。七海は積極的に行っているみたいだけど、優くんは冷静に対応しているみたいだし…」
「そうだよなー…あんなに可愛い娘にアタックされて冷静でいられるとか、もはやついてるのか?って思__」
「お父さん」
「はい…」
「あんまり優くんのことを悪く言っちゃダメよ。昔のあなたもあんな感じだったじゃない」
「そう…だっけ?」
適当に覚えていないフリをすると、翔子がムッと拗ねた表情をしてきたので慌てて覚えているアピールをする。
「あ、ああ…そんな感じだった…ような…?」
「そうそう。私がどれだけアプローチしても適当にあしらってきてたもの」
「あれぇ…そうだっけぇ…」
智は身体を小さくして自分の昔の行動に反省する。
「すいませんでした!!」
「分かればいいのよ。まったく…」
翔子はそっぽ向いて拗ねた口調でそう言い放った後、どこか心配そうな表情で顔を前に戻す。
「七海はうまくいくのかしら…」
それは親として、娘の恋路の行く末を心配する発言だった。
やはり翔子も同じだったか。
その事に少し安心しながら智は口を開く。
「優くんが俺と同類だと良いんだけどな…」
「そうね…」
七海と翔子の性格は似ているので、それに惹かれた智と同じタイプなら多分七海の恋はうまくいくだろう。
そんな推測を、翔子に話してみる。
本人がドアの向こうにいるとも知らずに。




