120 身体は傾けなくていいんだが
あれから時は過ぎて、今日は12月24日。
みんな大好きクリスマスイブだ。
冬休みに入っている優は朝早めに起きて、外に出る支度を済ませて早めに家を出た。
今日はあの人と会う予定があるので、優はその人の家まで歩いて行く。
目的の場所に着くと、インターホンを鳴らしてその人物を呼び出す。
エントランスを抜け、エレベーターに乗ってその部屋に向かっていく。
部屋の前まで来ると、待っていたかのようにタイミングよくドアが開き、その人物は現れた。
「いらっしゃい。今日は来てくれてありがとね♡」
嬉しそうに微笑んでいる七海が中に入るように言ってきたので優は若干遠慮しながら入っていく。
「今日は楽しみだねっ」
今日は夕方まで七海と家でデートすることになっている。
なぜこんなことになったかって?
あれは七海の誕生日会の次の日のデートでのこと。
「ねぇ優くん」
「なんだ?」
「クリスマスイブって…空いてる?」
「ん?まぁ、夕方までなら」
「そうなんだ…。ならさ、夕方まででいいからさ…デート…しない?」
そして現在に至る。
今日は夕方まで七海の家で過ごして、夜は如月家の皆んなと七海と一緒に外食に行く予定だ。
それまで何をして時間を潰すのかは知らないが、とりあえずソファに座っておく。
すると七海がお茶を持ってきてくれて、そのまま隣に座ってきた。
「ねぇ優くん」
「ん?」
「ゲームしない?」
「げーむ?」
「そう、ゲーム。実はこの前誕生日プレゼントでお父さんから貰っちゃって。1人でやってみたんだけど、操作が難しくって」
「ほぉ」
「優くんの部屋に行った時に同じのがあったのを思い出して、それで教えてもらいながらしたいなって思ってて…」
「なるほどね」
七海はこちらの表情を窺うように見上げてきている。
七海がゲームをしたいのなら特に断る理由もないので快く承諾すると、七海は嬉しそうな顔をした後に軽い足取りでコントローラーを取りに行った。
「どっちにする?」
「俺はどっちでも。七海がやりやすい方使いな」
「うん。じゃあ、こっちで」
「はいよ」
七海に渡されたコントローラーを握り、ゲームが起動するのを待つ。
これからやるのはレース系のゲームのようだ。
何度かした事があるが、特に技術が必要だった覚えはない。
このゲームはそこまで教えることがないかと考えていたのだが、その考えは1度やった後にすぐにひっくり返った。
「うぅ…また最下位…」
この人、絶望的にセンスがなかった。
相手はNPCで、普通にプレイしていたらまず負けることはないぐらいのレベルなのだが、七海はあっさり負けてしまった。
なぜこんなことになったのかを分析するべく、七海に1人でプレイさせてみた。
結果は__当然最下位でしたと。
だが七海がなぜこんなに下手なのかを分析することができた。
「操作方法って分かってる?」
「うん、多分。恐らく…」
(これは分かってないな)
七海の目の泳ぎ方を見るに、操作方法はあまり覚えていないのだろう。
さっきのプレーを見ていても、ところどころ変にバックしていたりする所があったので何となく分かってはいたが。
だがそんなことよりも圧倒的な欠陥が1つだけあった。
「あとな…曲がる時に身体は曲げなくていいんだぞ」
「えっそうなの⁉︎」
やはり分かっていなかったか。
七海はゲーム内で曲がろうとするたびに身体ごと傾けていた。
正直滅茶苦茶面白いのだが、流石にこれを辞めないと上手く慣れないので何とか直させておこう。
その後も色々アドバイスをして、七海はもう1度コントローラーを握った。
「もういっかい!」
七海はやる気に満ち溢れていて、真剣に画面に向かっていた。
なお、相変わらず身体ごと傾いていて、いずれ優は笑いを堪えきれなくなったのだった。




