114 理由が分からないんだが
「お兄さん。私の試合見ててくれましたか?」
有咲のチームの試合が終わると、謎に場所を把握されていたのですぐにこちらにやってきた。
有咲はワクワクとした表情で優の返答を待っている。
可愛いのでもうしばらく黙っておこうかと思ったが、ちょっとずつ拗ねてきた気がしたので早めに答える。
「ああ、頑張ってたな」
「へへ…ありがとうございます」
頑張った妹の頭を撫でてあげると、ちょっと顔が緩み、いつもは見せないような顔になっている。
これも可愛いのでもっとやろうと思っていたのだが、他の目があるので流石にやめておく。
手を離した瞬間ちょっと悲しそうな声を上げられたが、仕方なく手を退けた。
有咲はもっとして欲しそうな顔をしているが、学校ではやめておくと心に誓い、とりあえず先程の試合を褒めてあげることにする。
「さっきはよく勝てたな。スポーツは苦手なのに、本当によく頑張ったな」
「ふふ…ありがとうございます」
コートをちょこちょこと駆け回る姿は愛おしく感じられ、今すぐ抱きしめたいと言う気持ちが胸の中で渦巻いている。
だが、それよりも大きな感情が優の心の中にあった。
小さい頃はまともに運動もできなかった有咲が成長してここまで出来るようになった。
それに対する喜びが、優の心の中を埋め尽くしていた。
結局のところ、今すぐ抱きしめたいのである。
だが今は学校。
妹を抱きしめたところを見られるとシスコン認定されるのが目に見えている。
なので有咲に対する想いを抑えて何とかシスコン認定されなくて、かつ有咲が喜ぶようなことをしようと考える。
「何か飲み物でも買いに行くか?頑張ったご褒美に買ってあげるよ」
そう言うと有咲は嬉しそうに飛びついてくきた。
「本当ですか?ふふ…ありがとうございます」
今日の有咲は上機嫌でよく笑う。
まあ笑っている有咲が1番可愛いからいいんだけども。
優はそんな事を考えながら有咲を連れて自販機のもとに向かった。
「どれにする?」
「じゃあ…これで」
「オッケー…。ほい、お疲れさん」
「ありがとうございます」
有咲はホットココアを指差し、それを買ってプレゼントする。
有咲は喜びながら缶を開けて美味しそうに飲み始める。
「ホント好きだよなココア」
「はい。甘くて美味しいので」
甘党の有咲からしたら当然の回答で、特に驚くこともなく自分の飲み物も購入する。
当然のようにカフェオレを買うと、有咲がちょっと笑いながら話しかけてくる。
「お兄さんもホント好きですよね、カフェオレ」
実は高校に入って罰ゲームで買わされたカフェオレが想像の100倍美味しくて最近も滅茶苦茶飲んでいる。
「ああ。これ滅茶苦茶美味いんだよ。飲んでみるか?」
「いえ…やめておきます…」
ちょっと前に有咲にも布教してみたが、あまり口に合わなかったようで、一口飲ませてあげようとしても拒絶されてしまう。
その事に少し悲しみを覚えながらも、優はもう一本ココアを買ってから帰ろうとする。
「もう一本飲むのですか?」
「いや、七海にもあげようかなって」
「ふーん…そうなんですか…」
「え?どしたの?」
目的を伝えた途端に有咲は露骨に口を尖らせた。
「いえ別に?何でもありませんよ?」
「そうか…」
(いや絶対なんかあるだろ)
有咲は現在も拗ねているようだが、理由がよく分からない。
でも特に何かやらかした記憶もないし、放っておけばおさまるか。
そんな甘い考えを持ちながら有咲を連れてテニスコートに戻った。




