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112/218

112 集中しすぎたんだが


昼休みが始まってから20分が経った頃、テニスコートには快音が響き出していた。


「じゃあそろそろ始める?」

「ああ、そうだな」


(ゆう)七海(ななみ)は軽く準備運動を終えた後、早速試合を始めた。


まずは七海のサーブから。


朝に璃々(りり)と戦っている時に見たが、多分全力ではないだろう。


直感的にそう思い、腰を低くして身構える。


左手に持ったボールを高々く上げ、ラケットを握っている右手がものすごい勢いでボールに向かって行き、こちらのコートに目にも止まらぬ速さのサーブが打ち込まれる。


(なかなかエグいサーブだな。中学女子はこんなの取れないだろ…。ま、俺には取れるけどな)


ブランクがあるが、難なくそのサーブを返してみせる。


だがやはり精度は落ちていて、ラインから少し内側の辺りでボールはバウンドした。


「それは舐めすぎだよ!」


七海はすぐにボールに追いつき、クロス方向に打ち返してくる。


そのボールはスピードも精度も常人の域を超えていて、追いつけずに点を与えてしまう。


「やるな…。ここまでだとは思わなかったよ」

「だから言ったでしょ?私、強いって」


言葉の通り、七海は強かった。


あまり詳しい話は聞いたことがないが、七海は中学時代無双していたらしい。 


その噂に違わない実力で、優は闘争心が湧き出てきていた。


「ま、勝つのは俺だけどな」


七海によって奮い立たされた絶対的な才能の持ち主は、ただ一方的に1人の努力家を葬り去った。



2人の戦いは優の圧勝に終わり、七海は一瞬悔しそうな顔を浮かべた後にこちらに寄ってくる。


「はぁ….はぁ…やっぱり強いね…。私なんかじゃ対等な存在になんてなれそうにないね…」


悔しそうに、悲しそうに、七海は声を漏らす。


七海は慰めなんか求めていない。


そう考え、素直な気持ちを話してみる。


「はぁ…いや、俺は楽しかったよ。久しぶりだよ。テニスで楽しいなんて思えたの」


テニスをはじめたての頃の事を思い出しながら語る。


「初心に帰れたっていうか、なんか色々と思い出したよ。ありがとう」

「そう…なんだ…」


七海は一瞬驚いた後、嬉しそうに笑いかけてくる。


「それならよかった。優くんにとって価値のある試合になったのなら、私は嬉しいな」


先程までは心の奥に悔しさがあり、それが目を伝って分かったが、今はそれが完全に消え、心の底から喜んでくれているようだ。


そんな七海に優も嬉しそうな表情を浮かべ、七海に手を差し出す。


「ああ、とても収穫のある試合だったよ。本当にありがとな」

「うん!」


七海は優の手を握り、2人は握手を交わした。


その瞬間、コートの周りから拍手が送られてくる。


「え…?あれ…?こんなに人いたんだね…」

「試合に集中していて全然気づかなかった…」


もうすぐ昼休みが終わるというのもあり、コートには人が集まってきていたようで、ほとんどの人がコートで練習もせずに2人のプレーを見ていたようだ。


「あはは…とりあえず出よっか…」

「ああ…」


なんだか恥ずかしくなり、2人はコートを出て端の方に隠れに行った。


「まさかこんな事になるとはね…」


七海は少し失敗したなといった顔でそう言ってくる。 

それに優は苦笑いしながら話す。


「はは…まさかこんなに人がいて気づかないとはな…そんなに集中してたんだな俺たち」

「そうだねー」


まだ整い切っていない呼吸で2人は今回の出来事を少し反省し、球技大会の続きに備えたのだった。


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