108 ドキドキなんだが
(あー俺の部屋ってこんな綺麗だっけ?)
2人の距離は依然近いままで、優が何とか理性を保ちながら目線を旅行させている。
七海の姿は見ないようにしているが、距離が近すぎて肌の柔らかさやら体温やらが伝わってきて全然落ち着かない。
速くなっている心臓の鼓動が七海に聞こえていないか心配になっていると、少し子供っぽい小さな声が部屋に響いた。
「ねぇ、優くん…」
「ん?」
「優くんは…私の事嫌い…?」
「…」
肌を介して七海の体温が伝わってくる。
多分、七海は不安なのだろう。
さっきまで熱かった肌は、どこか冷たさを帯びていて、緊張しているのが伝わってきた。
そんな七海の不安を解消できるように言葉をかける。
「嫌いなわけないだろ。嫌いなヤツと添い寝なんてできるわけないだろ?」
「…でも優くん、あんまり積極的に来てくれないし、私が積極的に行っても受け流すし…」
「あー…」
事実なので否定できない。
外でくっつかれたりしたら周りの目とかが気になってしまってつい逃れようとしてしまう。
人目がなくても七海は大事にしないといけないという信念が心をよぎって想いに応えれずにいる。
そんな胸の内を明かすのは流石に恥ずかしいが、ある程度本当の事を言っておかねばマズい気がするので真剣に説明する。
「それはまぁ…な?七海ももう大人の女性じゃん?だからその…積極的になりにくいし、積極的に来られても気恥ずかしいというか…」
少し早口になりながら説明をする。
それを聞いて七海はどう思っているのか気になるが、喋り出す気配がない。
多分、照れているのだろう。
さっきから優の胸に顔を埋めている。
さっきまで少し冷たかった肌は完全にあったまっていて、冬だというのに少し暑いぐらいになっている。
このままでは沈黙が続くと思い、ちょうどいい位置にある頭を撫でながら話す。
「まぁつまり…俺が七海を嫌いになるなんてあり得ないって話」
そう言った瞬間に七海が一瞬ビクンと跳ね、撫でられている嬉しさを隠せていない表情で顔をのぞかせてくる。
「そう…なんだ…。じゃあ、私のこと…好き…?」
顔を赤くしてチラチラとこちらを見てきている。
その言葉は、きっと異性として好きかを問うているのだろう。
だが、今それに答えることはできない。
だがここで否と言うわけにもいかないので意味をすり替えて肯定しておく。
「友達として…好きだと思う。うん、幼馴染としてな」
「むぅ…そういうところだよ…?」
七海は優の胸のあたりで少し拗ねたように頬を膨らませている。
何を期待しているのやら。
七海の考えてる事なんて丸わかりだが、あえて思い通りにはいかせない。
うん、あえてね。
別に恥ずかしいとかではない。
丁度話にひと段落ついたところで眠気が襲ってきて一瞬目を閉じる。
(なんか七海が隣にいると安心するな…)
温かくて柔らかい七海の感触を感じると、ドキドキするのと同時に安心感で満たされる気がする。
その気持ちのせいか、先程から瞼が重くなっている。
女子と添い寝なんて緊張して眠れないものだと思っていたのに、今は結構眠れそうになっている。
七海と他愛もない会話をしていると、ところどころ眠ってしまいそうになるが、それをしないように抑えながら話す。
だが次第に会話が途切れるようになり、ここで七海も気づいて会話を終了させる。
「そろそろ寝よっか」
「…ああ」
「ふふ…今日は本当にありがとね」
「ああ。これからもよろしくな…あ」
「ん?どうかした?」
「いやちょっとな」
そう言って布団から出て机を漁る。
今思い出した。
アレを渡すのを忘れていたことを。
「これ、プレゼント」
「え…」
七海は突然渡されたプレゼントに困惑していて、口がパカっと開いている。
直後冷静さを取り戻して箱を見つめる。
「これ、開けていい?」
「どうぞ」
七海は包装を丁寧に剥がして中の物を取り出す。
「これ…え?これって結構高いヤツじゃ…」
「まあ確かに結構いい値段はしたな」
「そんなの受け取れな__」
「いや、受け取ってくれ。それだけの金を出してでも、これを七海にプレゼントしたかったんだ」
「優くん…」
七海は少し涙目になりながら中のネックレスを取り出す。
「綺麗…。付けてみてもいい?」
「ああ」
七海は傷をつけないように慎重に首にネックレスを通す。
「どう、かな…」
「よく似合ってるよ」
「そう?ありがとう…」
優が褒めた後に七海はサッとネックレスを外して箱にしまった。
「本当に、ありがとう…。一生大事にするね」
涙を流しながら感謝してくる七海を抱きしめ、頭を撫でながら囁く。
「ああ、これからもよろしくな」
今日の出来事は、一生忘れないだろう。
直感的に、そう思った。




