106 気づかなかったんだが
「あ、優くん」
「サッパリした〜」
風呂から上がってリビングに向かうと、ソファにパジャマ姿の七海がいた。
「…」
「ん?どうかした?そんなにじっと見られると恥ずかしいよ…」
「ん⁉︎あ、悪い悪い。パジャマ姿はなんか新鮮だったから…」
「そう…なんだ…。なら、もっと見てもいいよ…?」
顔を赤くしてチラチラとこちらを見てきているが、そんなのには屈しない。
「いや、遠慮しておく」
「なんで⁉︎」
「いやだって…」
すっごい無防備なんだもん。
多分有咲か奈々のパジャマを借りているのだろうが、そのせいで胸元が大変な事になっている。
すっごいキツそう。
ボタンがかわいそうになってくる。
そんなわけで現在ボタンの隙間から谷間がよく見えているのだ。
なのでじっと見ることなんて出来るわけがない。
目を逸らしながら七海の隣に座り、目を逸らしながら返答に迷っていると、有咲が割り込むように七海と優の間に入ってきた。
「何を話されていたのですか?」
「ん?あ、えっと…七海は誰のパジャマを着ているのかなぁって…」
「私のですよ?」
「あっ…」
(やっぱりそうか)
まあ想像通り。
普通に胸のパツパツ具合を考えると、有咲しかいないだろう。
いや、普通に奈々に借りろよ。
それ、苦しいでしょ。
そんな失礼極まりないことを考えていると、その心を読んだような目で有咲が見つめてくる。
「お兄さん、私はまだまだこれからですよ?」
「うん、何が?」
「そのためにもぜひお兄さんに協力して欲しいのですが…」
「うん、何を?」
「こら有咲ちゃん。優くんを困らせたらダメだよ?優くんは私のにしか興味ないんだから♡」
七海が露骨に喧嘩を売っている。
まあ有咲も子供じゃないし、流石にこんな挑発には乗らな__
「いえ!お兄さんは私のにしか興味ありません!以前お風呂に入った時もじっと見ていましたし!」
うん、まだまだ子供だわこの人。
(ってなんかとんでもないこと言ってない?この人)
そんな過去もあったような気がするが、それを言うのは違いますよぉ…。
というか、それは完全に勘違いだし。
そんなのお構いなしといった感じで堂々と七海に言うと、当然七海が近くまで来て追求してくる。
「優くん!どういうこと⁉︎何で有咲ちゃんと一緒にお風呂に入っているの⁉︎男の子は大きい方が好きじゃないの⁉︎私のはもう見飽きたの⁉︎」
「いや何言ってんの⁉︎」
なんか有る事無い事言われている気がする。
誰か助けてくれ。
このままじゃ性癖暴露大会になってしまう気がする。
そんな思いが届いたのか、隠れていたある人物が登場してくれる。
「ふふふ…みんな仲良しなのね〜」
「「「え?」」」
突然キッチンから笑い声が聞こえてきて、3人とも驚いた表情になる。
「えっと…母さん?」
「ん?どうしたのみんなそんな驚いた顔してー」
「お母さん…いつからそこに?」
「ん?有咲が2人の間に割り込んだあたりから?」
「へ、へぇ〜…」
(全然気づかなかったんだけど…)
話している途中に物音はしていないはず。
流石に誰か入ってきたのなら誰かが気づくはず。
まあ今はそんなことはどうでもいい。
会話を聞かれたことが1番の問題だ。
全員気まずくなって口が動いていない。
助かった筈なのに、全然助かっていない。
この冷めた空気を温めるべく、奈々が行動に出る。
「み、みんなお茶でも飲む?お茶しながらお話しましょ?」
「あ、ああ…」
「そ、そうですね…」
この気まずい空気が終わることはなく、部屋に戻るまでほぼ一言も話さなかった。




