105 残酷な人生
優とイチャイチャしようとしていたら有咲に誘われて、渋々風呂場に来ていた。
服を脱いで中に入ると、有咲が驚いた表情でこちらを見てきた。
それに疑問を覚えながら身体を洗っていると、有咲から声をかけられる。
「七海さん…その…どのような物を食べたらそのように大きくなるのでしょうか…?」
「…ん?どういうこと?」
何が大きくなるのかさっぱり分からず訊き返す。
すると有咲は胸に手を伸ばしながらムッとした表情になる。
「胸…どのような事をすればそこまで大きくなるのですか…?」
「あー…」
ようやく理解するが、何と答えたら良いかが分からない。
正直、大きくする為に何かをしたことは無い。
普通に食べて普通に生活してたらこうなっていた。
これが遺伝というやつだろう。
だが有咲の母の奈々は見た感じそこそこな大きさなので、余計に納得できないのだろう。
有咲が悲しそうに胸を触りながら答えを待っているので早く何か言わないと。
そこで咄嗟に友人の璃々の言葉を思い出し、その時言われた言葉を有咲に伝える。
「好きな人に揉まれると成長するらしい…よ?」
「そうなんですか…はっ!…はぁ〜…」
何かを思い付いたかのようにバッと顔を上げた直後にため息を吐きながら顔を下げた。
感情の起伏が激しくて何を言えばいいのか分からなくなっていると有咲が声のトーンを低くして話してくる。
「それはつまり…七海さんも好きな人に揉まれたから大きくなったのですね…」
「いや私は別に…って…ん?私もってことは誰か他にもそう言ってた人が…?」
「はい…以前お母さんに相談したことがあって…楽しそうに同じ事を言われましたよ…」
声のトーンはどんどん低くなっていっていて、もう何を言っても立ち直れそうなぐらいになってしまった。
流石にこの状態で2人で風呂にいるのは居心地が悪いので何とか慰める。
「今好きな人はいるの?」
「はい」
「おーだれだれ?」
「お兄さんです」
さも当然のことかのように返してきて何も言えなくなる。
そして有咲の顔はますます暗くなっていく。
「でもお兄さんは七海さんの胸を揉んでいるのですよね…。はぁ…私のお兄さんが…」
「ん?」
ここでようやく勘違いされている事に気がつく。
そんな事実は存在しないので何とかしようと考えるが、それよりも頭がパンクする方が早かった。
(ゆゆゆゆ優くんが私の胸を…⁉︎そ、そんなの…恥ずかしすぎるよぉ…)
全身が熱くなるのを感じ、何とか思考を停止させようとするが、そんな上手くはいかない。
(でも結婚したらそういうこともするだろうし…優くんもそういうことしたいのかな…もしそうならしてあげたいけど恥ずかしすぎる…)
身体中から辺な汗が出てくる。
風呂にいるのもあるだろうが、確実に体温が上昇している。
自分の赤くなった身体を眺めていると、突然有咲が冷水をかけてくる。
「何を妄想しているのですか?言っておきますが、お兄さんは渡しませんから」
「…」
先ほどの表情からは打って変わって対抗心もりもりの顔になっていた。
その表情を見て思った。
有咲は、本当に優が好きなのだと。
心の底から愛していて、本気で自分のものにしようとしている。
だが、それは叶わない。
有咲は生まれながらの負けヒロインなのだ。
好きな人と結ばれることはない。
そこまで考えたところで自然と涙が出てきた。
好きな人と結ばれることは永遠に無いなんて、そんなの残酷すぎる。
もし自分がそっち側だったとしたら、なんて事を考えると狂ってしまいそうになる。
そんな気持ちを抑えようとするが、やはり涙は止まらない。
そして気づけば有咲を抱きしめていた。
「ふぇっ⁉︎ど、どうしたのですか?」
「ううん…何でもないよ…」
この残酷な世界でこの小さな少女がいつか報われることを心から願う。




