103 同室はマズいんだが
「(あーやばい、油断したら吐きそう)」
夕食を食べ終えて数分経った時に、そんな声が出てしまう。
奈々のおかげで滅茶苦茶食ったので、今はソファに座ってリラックスしている。
リラックスしていても、やはり出てしまいそうになる。
何とかその衝動を抑えながら、キッチンの方に目をやる。
そこでは優以外の人が片付けをしながら談笑していた。
「そうなのよ〜。ホント、困った息子よね〜」
「そんな事があったんですね…」
奈々にあらぬことを言われている気がするが、まあ気にしないでおこう。
そんなの気にする余裕も無いし。
「あ!そういえば今日はみんな泊まっていくでしょ?そろそろお風呂の用意をした方がいいかしら」
「あ、お願いするわね」
「「はい?」」
奈々の想定外の言葉に七海とハモってしまう。
「え…母さん、今みんな泊まるって言った?」
「ええ、言ったわよ?」
「いや聞いてないんですけど⁉︎」
「あら、言ってなかったかしら?」
「言ってねぇよ⁉︎」
これにはツッコまずにはいられず、ガチツッコミを入れる。
マジで事前に言ってくれ。
というかみんなってことはつまり…
「もしかして私も泊まるんですか?」
「もちろんよ〜」
やはり七海も泊まりのようで、流石に焦らずにはいられなくなる。
「カップルで仲良くお泊まり…青春ね〜」
何呑気ななこと言ってんだこの人。
こっちは脳内が大変な事になってるのに。
でも、七海もさっき初めて言われたようだし、ワンチャン用事があったりして泊まっていかないのでは?
そんな期待を胸に七海の方を見てみる。
顔は真っ赤に染まっていて、下を向いて何かをブツブツと呟いている。
その姿に疑問を持ちながら奈々が質問する。
「七海ちゃん…?何かあった?」
「あ、いえ!なにも…」
大体何をボソボソ言っていたのか予想できる。
大方、一緒の部屋でお泊まりしてあんなことやこんなことをする妄想をしていたのだろう。
だがそんな未来は存在しない。
流石に一緒の部屋で寝泊まりはまずいのでしっかり断る予定があるから。
とにかく、寝る時は別々の部屋で。
これだけは守らなくてはならない。
そんな決意を胸に、自分の部屋に戻ろうとした時に、奈々に声をかけられる。
「優は七海ちゃんと一緒の部屋で寝てね?」
「…は?」
流石にそう来るとは思わず、間抜けな声が出てしまう。
「いやいや、流石にそれはな__」
「それはダメです!」
横から有咲がやってきて口を挟んできた。
いいぞ、その調子だ。
とにかく奈々の発言を撤回させなければ。
今は恐らく2対2。
優と同じ部屋で寝る側とそれを阻止する側。
丁度半分に別れているので勝機はある。
そう思っていた。
「優くんと同じベッドで寝る。まあこれも将来の練習だと思って…ね?」
「七海、頑張るのよ?」
まさかの七海の両親までもが敵となっており、現在は4対2となってしまった。
残るは優希のみ。
仮にこちら側に来ても不利な事には変わりないが、敵になるよりはマシだろう。
優は期待の眼差しで見つめる。
優希は真剣な表情となっており、これは期待できそうだ。
(よし!そのままバッサリいってくれ!)
溢れんばかりの期待を向けているとなぜかこちらを向いてきた。
それに疑問を感じていると、すぐに優希が口を開いた。
「優…。優しくしてあげろよ」
この言葉がどう言う意味を表すのかは、多分有咲を除いた全員が理解しただろう。
ということは現在会話についてこれている味方はいなくなった。
(あ、これ詰んだ…)
頼れる味方はポカンとした表情のまま優希に意味を尋ねているが、答えるはずもなく。
結局全身を赤く染めている七海を連れて部屋に行く事になった。




