102 そんなに食べれないんだが
2人が散歩から帰った頃には夕食が続々と食卓に並び出しており、慌てて手伝いに行く。
全ての料理が机に置かれたところで全員が再びコップを掲げる。
次は優希が乾杯の挨拶をするようで、立ち上がって全体を見渡している。
「それではもう一度七海ちゃんの誕生を祝して…乾杯!」
「「「「「「乾杯!!」」」」」
本日2度目の乾杯をしてから全員料理を食べ始めた。
机にはデリバリーで注文した物や家で調理した料理が並んでいて、どれもとても食欲をそそられる。
早速箸を持って料理を掴み、口に運ぶ。
噛んだ瞬間、旨みが一気に口に広がり、とても幸せな気持ちで包まれる。
それはみんな同じようで、特に有咲なんていつもの姿からは想像できないくらいにだらしない顔をしながら頬張っている。
それほど美味しいということだろう。
主役の七海も箸が止まらなくなっていて、そんな勢いで大丈夫なのかと思うぐらいのスピードで料理を口に運んでいる。
その姿を見て奈々が嬉しそうに七海に話しかけている。
「七海ちゃん、美味しい?」
「ふぁい…とっれもおいひいれふ!」
「いや全然言えてないし」
「い〜や、ちゃんと気持ちは伝わってきたわ。ありがとう七海ちゃん!」
本当によく聞き取れなかったのだが、奈々には分かったようだ。
奈々はめいいっぱいの喜びを顔に浮かべ、みるからにご機嫌になる。
だが七海はそんな事は気にせずにすごい勢いで食べている。
そんな七海を心配するように優希が口を開く。
「七海ちゃん、そんなに食べて大丈夫?すごい勢いだけど…」
「たいしょうぶれふ!」
「いやだから言えてないし!」
ツッコミを入れるが、七海の箸は止まることを知らない。
そのままの勢いで食べ続け、10分が経った頃に七海の箸は完全に停止した。
「あら、七海ちゃんもうおしまい?遠慮せずもっと食べていいのよ?」
「あ、いえ…」
お腹がパンパンになっている七海に奈々が無自覚で追い打ちをかけようとしている。
いやぁ、天然って怖い。
七海の皿を見てみると、奈々が続々と料理を置いていっている。
1つ置かれるごとに七海の表情は苦しくなっていき、山盛りになった頃には失神しそうになっていた。
流石に可哀想だと思い、助け舟を出す。
「七海…無理そうなら俺が食べようか?全然まだ食べれるからさ」
そう言うと一瞬七海の表情は明るくなる。
まあ流石にここで威張るほど頑固ではないだろう。
そんな思いを胸に七海の皿を奪おうとした時に、突然腕を掴まれた。
「…えっと…七海さん…?それじゃあ皿が取れないんだけど」
「…いよ…」
「ん?」
「必要…ないよ…」
「…は⁉︎」
七海の想定外の言葉につい声を上げて驚いてしまう。
「いやいや、流石にこの量は無理でしょ。さっきまで沢山食ってたし」
「いや、大丈夫…うっぷ…」
「…」
食べ過ぎで心なしか身体全体が太って見えるのだが、それは多分気のせいだろう。
だが七海が限界を超えているのは見れば分かるので、強引にでも皿を奪いにいく。
「あっ…」
取った瞬間に七海が悲しそうな表情を浮かべたが、まあ仕方ないだろう。
これ以上食べたら流石に戻してしまいそうだから。
ひとまず戻される心配は無くなったので一安心しながら七海の皿に乗っている料理を食べていると、有咲もまた奈々に料理を沢山食べるように言われている。
いつも以上の勢いの奈々に押し切られ、限界を迎えている有咲もやむなく箸を手に持った。
(母さん…何やってんの?)
なんか今日はテンションが高い。
そのせいですでに2人が被害を受けているので少し落ち着いて欲しいものだ。
そんな事を考えながら有咲の皿も取って大量の料理を口に運ぶ。
この時はまだ知らなかった。
七海と有咲の料理を食べ終えた頃に、奈々にさらに大量の料理を食べさせられることを。




