01 告白してないんだが
私立麗英高等学校。
その高校の名を全国大会で見ないことはない程のスポーツの名門校でありながら、毎年難関大学の合格者を多数輩出している。
まさに非の打ち所がない学校だ。
そんな超名門校に入学する男子生徒が一人。
「ふぁ〜眠いナー」
この見るからにろくでもなさそうな生徒の名は如月優。
髪にはやや寝癖が立っており、いかにも家を出る10分前に起きたという感じの身だしなみだ。
そんなだらしない優に引き立てられているかのように一輪の花のような女生徒が優を戒めるように言葉をかける。
「もうっ、入学初日なのに夜更かししているからですよ」
彼女の名は如月有咲。
優の実の妹で、毎日兄の世話を焼いている。
そんな有咲は容易端麗で、長く伸ばした黒髪に宝石のように青く澄んだ瞳を持っており、中学のころから男子にモテまくっていた。
まあ兄一筋という理由で全員フったらしいが。
ちょっと何言ってるかわからない。
まあとにかく妹はかなりのブラコンというわけだ。
そんな妹に夜更かしについて注意されたが、それに折れる事無く反論する。
「いや、今回は俺悪くない。イベントを入学式の前日に組み込んできた運営が悪い」
「そんなことありません。夜更かしは完全にお兄さんのせいですよ?」
「いやいやいや、不可抗力なんだって!仕方ないんだって!!!」
「仕方なくないです。お兄さんが悪いです」
「!?っ…そんなバカナッ!?」
かなりダメージが入り、腹を抑えながら悶える。
その姿にあはは…という少し引いたような笑い声が聞こえる。
さすがに人前ではやりすぎだった。
周りの同じ高校の制服を着た生徒から視線が集中している。
もっともその視線はもとより美しい見た目の有咲に向けられていたのだが。
(視線えぐいな…。流石に妹に恥をかかせるわけにはいかないな)
とりあえず立って歩みを進める。
が、どうにも足が進まない。なんだろう。とんでもない殺気を持った視線を浴びているような…。
その視線を辿ってみると、その先には一人の美少女が。
(なんか見たことあるような…)
そんなことを考えているうちに少女は目の前に立っていた。
あれ、2、30メートルは離れていたはずなんだが。
目の前にいる少女にとんでもない眼力で睨まれる。
何もしてないのに汗がダラダラ出てくる。
「えっと…どうかされました?」
隣の妹が目の前の眼力美少女に問いかける。
「なんで私以外の女と二人でいるの?」
「えっっと…無視しないで貰えます?」
「なんでなの?優くん?」
人の話を完全に無視してくる。
話し合いの余地は無さそうだ。
何を話し合うのかは謎だが。
「えーっと、なんで俺の名前を?」
「えっ……」
目の前の少女は泣きそうになりながら顔を抑える。
(あれ?僕なんかやっちゃいました?)
流石に俺のせいじゃない。絶対。多分。
「私…桜庭七海だよぅ……しくしく……」
「ヘーソウナンダ」
そうなんだ。七海さんね。うん……
「え゛!?」
閃光が脳に走る。いや、これは轟雷だ。
衝撃的な言葉が耳に着地してしまったので、流石に驚きが隠しきれない。
「えっ…もしかしてななちゃんですか?」
「そうだよ…あーちゃん…」
妹と七海が昔の呼び名を呼びあっているところで確信した。
この人、間違いなく
「幼馴染の七海サン!?」
まさかの出会いだ。
昔は家が隣ということもあって両親同士が仲が良く、物心着く前から知っている。
親の仕事で中学生に上がる前に遠くに引っ越していたはずの幼馴染が、今目の前で同じ制服を着ている。
それはつまり……典型的なラブコメが始まる予感ッ!?
「ところで優くん……彼女の私を差し置いて妹といちゃラブしながら登校とは何事?」
「……へ?」
理解が追いつかず、変な声が出てしまった。
でも仕方ないでしょ。
だって久々に会った幼馴染が彼女面してるんだもん。
ワケわかんない。
「えっっと…彼女とはどういう事ですか?」
「私、昔優くんに告白されたから」
(ん?????)
そんな記憶は存在しない。
昔という事は恐らく小学校低学年ぐらいの時の話だとは思うが。
「あれ…僕いつ告白しましたっけ?」
「小学1年生の時してくれたでしょ…もうっ、言わせないでよ♡」
(あれー?おかしいなー?微塵も記憶に無いんだが)
そこで全然理解していない素振りを丸出しにしている優にさらに七海が追い打ちをかける。
「ほらっ、公園でおままごとしてた時だよ」
「フムフム……いやそれおままごとで演技でやったやつじゃん!?」
「そうなの?私は本気だけどね」
(えぇ…どうしてそうなんの…?)
幼馴染が昔遊びでした告白を未だに引きずってくる……。