幽霊と過ごすクリスマス
第一話〜幽霊になった日〜
今日はクリスマスイブ。
どうやら僕は生き霊になったらしい。
空中をフワフワ浮いていてベッドに横たわっている自分が見える。
母親「まさかクリスマスイブに自殺未遂をするなんてね」
父親「いっそこのまま死んでくれたら良かったのに」
母親「あなた」
父親「だってそうだろう?暗い部屋に引きこもったままろくに食事も取らない
あれじゃまるで死んでるのと変わらないじゃないか」
母親「・・・」
母親は黙って俯き、ベッドに横たわっている息子から目を逸らした。
僕は元に戻る術を探そうとも思わなかった。
本当に父親の言う通りあのまま死んでいたら良かった
成仏ってどうやったらできるんだろう。
そんな事を考えながら街を歩く。
いや、歩くと言うよりも浮かんでいると言った方が正しい。
樹「はぁ・・・」
誰にも聞こえないため息が漏れる。
街ゆく人は幸せそうなカップルや家族連れ、友人同士で騒ぐ人達でいっぱいで・・・ああ、泣きそうだ。
幽霊なんだから泣いたって誰にも見られないのに、
それでも僕は泣けなかった。
第二話〜ピンチ〜
信号待ちをしている一人の女性がいた。
クリスマスの雰囲気に合わない疲れ果てた顔をしていた。
仕事帰りだろうか。
犬「ワンワン!」
老夫婦が連れている犬が女性に近付く。
するとさっきまでの彼女の疲れた表情が少し和らいだ。
桜「可愛いですね」
老夫婦(妻)「ふふ、ありがとう」
老夫婦(旦那)「そうだ、これ良かったら一つもらってくれませんか?」
旦那さんの手にはポインセチアの花が沢山。
桜「え、でも悪いですよ・・・」
老夫婦(妻)「この人が沢山買い過ぎてしまったんです」
老夫婦(旦那)「ははは、ついついね」
老夫婦(妻)「本当にもうこの人は・・・なので迷惑でなければどうぞもらって下さい」
桜「ではお言葉に甘えて・・・ありがとうございます」
彼女は花を受け取るとさっきまでの暗い表情が嘘のように消え、笑みを浮かべた。
こんなに優しい世界があるんだな・・・僕がまだ知らない世界。
僕も生きていたらいつか・・・。
キキイィ!!
突如、車が猛スピードで突っ込んできた。飲酒運転だ。
車が向かった先は彼女がいる場所。
樹「いけない!」
僕は気がつくと彼女の方まで走っていた。
桜「え!?」
合うはずのない目と目が合い、触れられるはずのない手が彼女を押した。
ガシャーンと車が近くの電信柱に衝突した。
老夫婦(妻)「大丈夫かい!?」
老夫婦は慌てた様子で彼女に駆け寄った。
桜「は、はい・・あれ、さっきの男の子は?」
老夫婦は顔を見合わせると不思議そうな顔をした。
老夫婦(旦那)「男の子なんていなかったよ?」
桜「でもさっきは確かに・・・」
どうやら周りには私がが上手く避けたように見えたらしい。
私はそれ以上追求するのを辞めた。
ホッ・・・良かった、彼女が車に轢かれなくて
彼女は死んではいけない人だ。
率直にそう思った。
第三話〜出会い〜
私は事故から守ってくれたあの男の子を探していた。
目を離したほんの一瞬・・・私が気付いた時にはもういなかった。
どこの誰なんだろう。学ランを着ていたから中学生だ。
せめて一言お礼を言いたかった。
街を歩き続けていると・・・あの男の子が通り過ぎていくのが見えて思わず声をかけた。
桜「あの!」
樹「あなたはあの時の・・あの、どうして僕が見えるんですか?」
桜「え?」
彼女は驚いたようで一瞬目を見開いた。
周りの人のヒソヒソ声が聞こえる。
周りから見たら彼女は壁に話しかけている変な人だ。
樹「場所を変えましょう」
桜「え、う、うん」
樹「どうやら僕は生き霊になってるらしいんです」
桜「生き霊・・・それで違和感がずっとあったんだ・・私にだけ見えてるのかな?」
樹「おそらく」
桜「でも、生き霊って事はまだ死んでないんだよね?」
樹「はい、病院のベッドにいます」
桜「そっか・・元に戻れる方法ってあるのかな」
樹「探してないので分かりません」
桜「・・・」
彼女は僕が生き返ることを望んでいない事を察したようで話題を逸らしてくれた。
桜「ねぇ幽霊ってどんな感じ?」
樹「そうですね・・・風船みたいな感じでしょうか
フワフワしててとにかく体が軽いです」
桜「じゃあ空飛べたり?」
樹「はい、できますよ、ほら」
すいーっと彼は空中を飛んで見せた。
桜「わ、ほんとだ!ちょっと楽しそう・・ってごめん、不謹慎だったよね」
彼はスッと地面へ着地する。
樹「いえ、そんな事ないです、楽しんでもらえたなら良かったです」
桜「君は優しい子だね」
彼女は優しく微笑む。
樹「僕が優しい・・ですか?」
桜「うん」
樹「そんな事初めて言われました」
桜「少なくとも私の目にはそう映ってるよ」
樹「ありがとう、ございます?」
桜「何で疑問形?笑」
樹「何となく、です」
桜「何となくかぁ」
二人はぼんやりと青空を眺める。雲が形を変えて流れていく。
桜「ねぇ、名前聞いてもいい?」
樹「はい、僕は百瀬樹って言います」
桜「百瀬だからももちゃんだね!」
樹「・・・」
桜「あ、ごめん、男の子だしちゃんは嫌だった?」
樹「いえ、ももちゃんで良いです、ただ・・あだ名を付けてもらった事がなかったので不思議な気分です」
桜「なら良かった、私は日野桜よろしくね」
樹「じゃあ僕は桜さんって呼んでいいですか?」
桜「もちろん」
樹「ではよろしくお願いします桜さん」(深々〜)
桜「こちらこそ!」(深々〜)
互いに頭を深く下げたまま静止する。
しばらく雑談をした後・・・。
「カー!カー!」(カラスの鳴き声)
桜「あ、そろそろ帰らなくちゃ」
樹「そうですね、暗くならないうちに」
桜「今日のご飯何にしようかなー」
樹「桜さんって結婚してるんですか?」
桜「ううん、1人暮らしだよ」
樹「じゃあこれから1人で過ごすんですか?」
桜「うん、ぼっちクリスマス、ケーキだけ買って帰ろうかなって思って」
樹「あの、それなら僕も行っていいですか?」
桜「え、うん、いいけど・・・こんなおばさんの部屋見ても面白いもの何もないよ?」
樹君は男の子だけど幽霊だからいいか。
樹「桜さんはおばさんじゃないです」
桜「あはは、ありがとう」
霊体じゃなかったらさすがに一人暮らしの女性の部屋に上がろうとはしない。
しかし、今の僕は幽霊だ。何の問題もない。
何より僕自身まだ彼女と話していたかった。
第四話〜お家〜
彼女の部屋の玄関にて。
樹「お邪魔します」
桜「どーぞ」
桜さんの部屋は物がほとんどなく、まるで引っ越しした直後のようだった。
樹「なんか随分とガランとした部屋ですね」
桜「あはは、よく言われる」
樹「でも、スッキリしてて心地良い空間ですね」
桜「ありがとう、そう言ってもらえたの初めてだよ・・・あ、飲み物つい二人分出しちゃった」
僕はなんとなくカップに触れようとしたけど当然すり抜けてしまった。
桜「やっぱり透けちゃうんだ」
樹「幽霊ですから」
桜「だよねぇ・・・あれ、でもそれならどうして助けてくれた時は触れる事ができたのかな?」
樹「不思議ですね」
桜「ねー」
絨毯の上に置いてあるクッションに互いに座りながら話をした。
ほのぼのとした空間が何とも言えず心地良かった。
その2週間後、僕はまた彼女の家を訪れた。
扉の前で立ち止まる。霊体だからすり抜けられるけれどそれはしない。
樹「コンコン」
扉越しに声をかけるとガチャっと音と共に扉が開く。
桜「ふふ、勝手に入って来ていいのに」
樹「いえ、幽霊と言えど女性の家に入るんですからそう言う訳にはいきません」
桜「真面目ねー、でも、それがももちゃんの良いところだよね」
樹「そうでしょうか?周りの人には真面目過ぎてつまらないって言われますよ」
桜「そんな事ないよ、ももちゃんはつまらなくなんかない、だって私、今楽しいもん」
樹「楽しい、ですか・・・僕でも人を楽しませる事ができるんですね」
桜「そうだよー、楽しいって何もガハハって笑うだけが楽しい事じゃないからねぇ」
樹「まぁ確かに感じ方は人それぞれですよね」
桜「ももちゃんは私といて楽しい?」
樹「はい、楽しいです、表情が乏しいので分かりにくいかもしれませんが」
桜「良かった、なんかホッとした!」
樹「ホッとですか?」
桜「うん、一緒にいて楽しいのが自分だけなんて寂しいから」
樹「そう言うものですか?」
桜「うん、私はね」
樹「桜さんといると退屈しないな」(ポソッ)
桜「え?・・・あれ、樹君、今笑った?」
樹「秘密です」
第五話〜死にたくて〜
樹「桜さん、聞いて欲しい話があるんです」
桜「うん」
桜さんは何かを察したのか穏やかな表情で頷いた。
僕は今までの経緯を桜さんに話した。
桜「そっか・・・」
樹「こんな話聞きたくなかったですよね、すみません」
桜「そんな事ないよ!話してくれてありがとう」
樹「どうして桜さんがお礼を言うんですか?」
桜「だってこう言う事を人に話すのって凄く勇気がいる事だよ
それなのに私に話そうって思ってくれて嬉しいよ」
樹「あなたは優し過ぎます」
桜「そんな事ないと思うけど」
樹「僕は・・・正直生き返りたくありません
僕は誰からも相手にされず親からも見放されていました
死にたくて死にたくて死にたくて堪らなかった
それなのに僕はまだ完全に死ねていない
あのまま死ねていたらと何度も思いました」
彼女は僕の話を一切否定せず、黙って頷きながら聞いてくれた。
樹「でも、あのまま死んでいたらあなたを救えなかった
そう思うとやはり死んでなくて良かったのだと思います」
桜「やっぱりももちゃんは優しい子だね」
優しいのは僕じゃなくあなたの方だ。
今は自分の事で精一杯で弱い僕だけど
いつかあなたが辛い思いをして泣くような事があれば
僕がいるよと言える人でありたい。
第六話〜決意〜
樹「僕、決めました」
そう決意したのは桜さんと知り合って2か月後の事だった。
樹「生き返る方法を探します、戻れるかどうかも分かりませんが・・・少なくとも戻りたいと僕自身が思うから」
桜「私も一緒に探すよ!」
樹「ありがとうございます」
お礼を言う樹君の表情はとても穏やかだった。
私にできる事があるなら力になりたい。
桜「じゃあまずは自分の体に触れてみるとか?」
樹「そうですね」
・・・。
樹「なんかあっさり元に戻れました」
桜「いや早!嬉しいけど!もっと難航するかと思ってたよ」
樹「僕もです、何か拍子抜けしました」
桜「運が良かったんだよきっと」
樹「そうですね・・・とりあえずこれで一安心ですね」
桜「うん」
樹「あの、幽霊じゃなくなってもまた会ってくれますか?」
桜「もちろんだよ!」
樹「ありがとうございます、さすがに幽霊の時みたいに部屋に上がる訳にはいかないのでこれからは外で会いましょう」
桜「うん、そうだね」
第七話〜友達〜
僕が元に戻った後は月に数回ほど外で会って話をするようになった。
お互いにお金がないと言う事で自販機で飲み物を買って公園のベンチに座って話をした。
桜「ももちゃんは趣味ってあるの?」
樹「趣味ですか・・・化学の勉強ですかね」
桜「ももちゃん化学が好きなんだ?」
樹「僕の趣味って地味でつまらないですよね」
桜「そんな事ないよ?好きな事があるって素敵な事だよ
それに化学の事は私には難しくてよく分からないけど何かカッコいいじゃん!」
桜さんは目をキラキラと輝かせながらそう言った。
ほんとこの人は僕を否定しないな。
桜「ももちゃん、自分の好きな事を自分でつまらないなんて言ったら自分が可哀想だよ
だからね、大好きなものは大好きなままでいいんだよ」
樹「!ありがとうございます・・・」
僕は誰かに自分を肯定して欲しかったんだと気付く。
その時、クラスメイトが話しかけてきた。
クラスメイト1「え、百瀬まさかママ活!?」
クラスメイト2「えー百瀬っておばさん趣味なの?」
樹君は私を庇うように立つと相手を睨んだ。
樹「この人は僕の大切な友達だ、傷付けるような事言わないで欲しい」
クラスメイト1「な、何だよ百瀬のくせにー!」
クラスメイト2「お、おい、行こうぜ」
クラスメイト達は逃げ出した。
樹「僕のせいで嫌な思いをさせてしまってすみません、それに勝手に友達だなんて言ってしまいました」
樹は頭を深く下げた。
桜「いやいや、私の方こそごめんだよ!」
樹「え、どうして・・・」
桜「私がももちゃんと同級生だったらあんな風に言われずに済んだのに」
樹「桜さんは何も悪くないですよ、悪いのは全部僕の方です」
樹は俯きながら言った。
桜「頭上げて?
ももちゃん、さっきは庇ってくれてありがとう
友達だって言ってくれて嬉しかったよ」
樹は頭を上げると戸惑ったように微笑んだ。
第八話〜あなたがいないと〜
ももちゃんとは時々会ってたわいも無い話をした。
お互いに男女としての意識がない分気も楽で純粋に楽しい時間を共有できた。
しかし最近、樹君と会う回数が減っていた。
樹君は高校に入ってすぐに化学部に入部した。
一緒に研究する仲間ができたと言っていた。
ももちゃんはまだ若いしこれから沢山経験もする。
私の事は忘れてしまうかもしれない。
それは少し寂しいけれどももちゃんが元気で幸せになってくれたらそれでいい。
頑張っている事があるなら応援してあげたい。
それから更に2週間後。
意外だった。
急にももちゃんから今から会えないかと言われた。
慌てた様子だったので何かあったのかと心配になり私はすぐに会って話をする事にした。
桜「何かあったの?」
樹「僕は・・・どうやらあなたがいないと駄目みたいです」
桜「え?」
ももちゃんの思いも寄らない言葉に驚く。
樹「研究は楽しいです、でもあなたと会わなくなって3ヶ月間、心にぽっかり穴が空いたみたいで息苦しかったんです
すみません、こういうのってあなたの負担になりますか?」
ももちゃんはとても申し訳なさそうに聞いてきた。
桜「ううん、むしろ嬉しい、私もね、ももちゃんに会えなくて寂しいなって思ってた
だから今日会えて嬉しいよ」
樹「良かった・・・僕ずっと考えてたんです
あなたに依存して負担をかけているのではないかと
僕が自殺未遂の話なんてしたから拒否もできないだろうって」
桜「そんな事ないよ、私ね、ももちゃんと会うと元気もらえるんだよ」
樹「桜さんはどうしてそんなに優しいんですか、自殺未遂したなんて話聞けば普通は離れていくのに・・・」
桜「・・・私も昔した事があるから、かな?」
樹「え?」
桜「自殺未遂」
桜さんの目は僕を見ているはずなのにどこか遠くの景色を映し出しているような気がした。
樹「それは・・どうして桜さんみたいな人が・・」
桜「だーいすきだった人にフラれちゃってね、それであーこのまま死んじゃおうって
周りにはたかが失恋くらいでって言われたけど
誰かにとって笑い話でも誰かにとっては死にたい程の悩みで
苦しみに痛みに・・・浅いも深いも軽いも重いもない
自分が辛いって感じたなら、痛いって感じたなら
それはもう大怪我なんだよ」
樹「僕は恋をした経験がないので失恋の痛みは分かりませんが・・・その考えはとても共感しました
僕は周りに馴染めないなんてくだらない理由でってずっと思ってましたけど
そうですね、僕にとってそれは凄く辛い事だった」
桜「そう、誰が何と言おうと自分だけは自分の辛さを認めてあげなきゃ、もっと辛くなっちゃうよ」
樹「桜さんは最初にこの話をした時、早く生き返れとは言わなかった
それは単に僕にそこまで興味がないだけだと思ってましたけど
違ったんですね
あなたは僕の辛い感情を尊重してくれていた」
桜「だって自分が死にたいと思ってるのに生きなくちゃいけないって言葉、一種の脅迫みたいで嫌だったから
無責任に生きろなんて言えなかったの」
樹「桜さん」
桜「うん?」
樹「桜さんだけは・・・ずっと僕の事を見捨てないでいてくれますか?」
桜「うん、もちろん」
樹「ありがとうございます」
桜「あ、ももちゃんもだよ?
私とももちゃんの友情は他の人には理解してもらえない事が多いと思うけど
ずっと友達でいてね」
樹「はい、ずっとずっと友達でいましょう」
第九話〜春夏秋冬〜
〜春〜
桜「わー!桜綺麗〜!!」
樹「そうですね」
桜「ももちゃんは桜の花あんまり好きじゃない?」
樹「正直よく分からないです」
桜「だったらどうして桜を見ようって・・・」
樹「あなたが桜の花が好きだと言っていたので喜んでくれるかと思ったんです」
桜「そっか、私の為に・・・ありがとう、でも私は嬉しいけどももちゃん退屈じゃない?」
樹「いえ、桜の花には興味ありませんが喜んでる桜さんを見るのは楽しいです」
桜「最近ももちゃんイケメン化し過ぎじゃない?」
樹「?イケメン化ってなんですか?」
桜「いや、ごめん気にしないでこっちの話」
〜夏〜
ももちゃんは遊園地に行った事がないらしく、どんな場所なのか気になっている様子だったので一緒に行く事にした。
お化け屋敷にて。
店員さん「一人800円になります」
樹「二人まとめてお願いします」
店員さん「はい、二枚で1600円になります、チケットをどうぞ」
樹「ありがとうございます」
桜「え、お代・・・」
樹「ああ、気にしないで下さい」
桜「でも・・・」
樹「実は最近バイトを始めたんです、と言っても短期ですが」
桜「そうなんだ!何のバイト?」
樹「本屋です」
桜「何かももちゃんぽくていいね!」
樹「そうでしょうか?」
桜「うん」
樹「はい、チケットどうぞ」
桜「ありがとう!じゃあ今回は甘えさせてもらうね」
お化け屋敷内。
桜「ひやぁ!!」
樹「大丈夫ですか桜さん」
桜「何でももちゃんそんな平然としてるの?怖くないの?」
樹「作られたものだと分かってるので怖くは・・・
ただ、どうやって作られてるのかは気になりますね
あの人形とか特に」
ももちゃんは人形の構造が気になるらしく背後に回ったり横から見たりしている。
なんだろ、なんかももちゃん可愛いな‼︎
ももちゃんって何かこう温かい目で見守りたくなるんだよね。
桜「ふふふ」
樹「はっ・・・すみません、一緒にいるのに桜さんほったらかしにして・・・こう言うのって気になり出すと止まらなくて」
桜「ううん、ももちゃんが楽しそうで何よりだよ」
(ほのぼの〜)
〜秋〜
桜「へぇ!本屋さん続ける事になったんだ!」
樹「はい、こんな僕でも続けて欲しいと言ってもらえたので」
桜「良かったね!ももちゃんは真面目だし丁寧に仕事してくれるだろうから店長さんも気に入ってくれたんだよ」
桜さんはまるで自分の事のように自慢げに話している。
樹「・・・随分嬉しそうですね」
桜「そりゃあもう私はももちゃんの保護者みたいなものだから
ももちゃんが認められて嬉しいんだよ」
樹「保護者は言い過ぎじゃないですか?」
桜「いやいや、15歳離れてたらもう息子を持つ母親みたいなものだよ」
樹「そう、ですか・・・」
桜「あれ、何で落ち込んでるの?ごめん、何かまずかった?」
樹「え、今僕落ち込んでました?」
桜「うん、そう見えたけど」
樹「気にしないで下さい、そう見えてたとしても桜さんのせいじゃないので大丈夫です」
桜「そ、そう?」
樹「はい」
そう言えばこの前もお店で兄弟に間違えられた時も・・・。
店員さん「まぁご兄弟で仲がいいのね!」
桜「あはは、姉と言うより母親みたいなもので・・・」
樹「いえ、彼女は僕の友達です」
店員さん「え?あら、そうだったの!ごめんなさいね」
なんて事があったっけ。
〜冬〜
桜「はぁーついにクリスマスかぁ」
樹「あれからもう一年になるんですね」
桜「本当だねぇ、またももちゃんと一緒にクリスマス過ごせてる事に感謝だよ〜!」
樹「そうですね」
桜「私にとってのサンタさんはももちゃんだね、おかげでいっぱい楽しい時間過ごせたもん!」
樹「それなら桜さんの方こそサンタですよ
死にたかったクリスマスを来年もまた来て欲しいと願うクリスマスに変えてくれたんですから」
桜「えー?私そんな大した事してないよ」
樹「そんな事ないです」
桜「ふふ、そう言ってもらえて嬉しい、ありがとう」
樹「また来年も見に来ましょう、クリスマスツリー」
桜「うん、あ、でももし彼女ができたら私の事は気にしなくていいからね?」
樹「彼女なんてできませんよ」
桜「分からないよ〜?」
樹「それに僕が興味あるの桜さんだけですから」
桜「またももちゃんがイケメン化してる!!女の人にそんな事言ったら勘違いされちゃうよ?」
樹「勘違い?ああ、今の興味があると言うのは恋とか愛とかの類ではなく・・・」
桜「いや、うん、私は分かってるからいいけどさ」
樹「他の人には言わないから安心して下さい」
桜「うん、ならいいんだけど」
樹「あれ、ひょっとしてホッとしてます?」
桜「うん、だってももちゃんに彼女ができたらさすがにこうやって会えなくなっちゃうしさ
それはやっぱちょっと寂しいと言うか」
樹「それは桜さんも同じですよ」
桜「あー私は大丈夫だよ、恋愛興味ないし」
樹「桜さんもないんですね、まぁそんな僕達だからこそこうやって友達になれたんでしょうね」
桜「うんうん、確かにそれは言えてる!」
樹「僕達はただ幸せの形が人と違っていただけですよね」
桜「うん、きっとそうだね」
最終話〜幽霊と過ごすクリスマス〜
桜さんと出会って40年。
僕は病院にいた。ベッドに横たわる彼女を看取る為だ。
両親は20年前に他界。2週間ほど前に桜さんの友人が3人ほど会いに来た。
あなたはもうすぐ死んでしまう。
僕より先に・・・
年齢的に僕より桜さんの方が15歳上なのだからそんな事、最初から分かっていた。
桜さんは友達が沢山いて家族とも仲が良かった。
本音を言うとそれが少し寂しかった。
あなたは人生で初めてできた友達。
僕を初めて受け入れてくれた人。
沢山たくさん喜びをくれた人。
お願い行かないで・・行かないで・・・。
桜「ももちゃんありがとう・・・」
そう僕にお礼を言って桜さんは息を引き取った。
ああ、死んでしまった。
その日から僕の心は空っぽになった。
毎日が淡々と終わっていく。
高校の頃の研究仲間だった人達は海外に行った人、結婚した人がほとんどだ。
たまに僕の様子を見にアパートに遊びに来てくれる。
それだけでありがたかったけれど・・・。
やっぱり僕にはあなたが必要だった。
一年後のクリスマス。
僕はいつものように仕事帰りにスーパーで半額になっている弁当とお茶を買った。
部屋の電気も付けないまま薄暗い部屋の中で弁当の蓋を開けようとしたその時だった。
扉の方から「コンコン」と言う声が聞こえた。
聞き覚えのある声。忘れるはずのない声。
僕は急いで扉を開けた。
そこには幽霊姿になった桜さんが顔を両手で隠しながら立っていた。
桜「こんばんは、サンタさんだよ」
僕は目に涙を溜めながらメリークリスマスと言った。
あなたはクリスマスに誰と過ごしますか?
恋人、家族、友人でしょうか?
僕は、幽霊と過ごしています。
番外編〜最悪の結末〜
桜さんに最期を看取って欲しいと言われた日から
彼女が死んだら計画していた事が一つだけある。
それは・・・。
僕は桜さんの遺体を病院から気付かれないように運び出した。
雨が降る夜は視界が悪くて好都合だった。
桜さんを背負ったまま向かった先は人気のない山奥。
スコップも使わずに素手で穴を掘る。
冷たい雨が降っていても指から血が出てもそんな事お構いなしで掘り続けた。
やがて大人が二人がすっぽり入るくらいの穴が出来上がる。
僕は桜さんの遺体をその穴にそっと横たわらせる。
そうして自分も穴に入り桜さんの隣に座った。
樹「これからは僕だけの桜さんになってくれますよね?
僕はずっと寂しかったんです
友達が沢山いて家族とも仲が良かったあなたをどうすれば嫌われずに独占できるのかずっと考えていました
もうどこにも行かないで、ずっと二人でいましょう、
ねぇ桜さん」
樹は穏やかな表情のまま冷たくなっている桜に微笑みかけると片手を繋ぐ。
樹「僕は自分で思うよりずっとあなたに依存していたみたいだ」
そして自身も横たわるともう片方の手で穴の淵に溜めてある土を一気に崩した。
通常なら拘束もされていない意識のある者が土を被れば苦しさにもがいて反射的に起き上がるはずだが
樹は桜の手を握る事でその苦しみを耐え抜いて絶命した。
百瀬樹54歳。死因、生き埋めによる窒素死。
二人の遺体は数年経った今も見つかっていない・・・。