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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第七話 王宮にて

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93 王太子 2


 アイシャの策は、ここでハーフェイズを連れ出して、義勇軍に放り込んで、ゲンコツの方のシーリンちゃんと一緒にオーク族と戦わせて手柄を立てさせれば、絆と愛が生まれるだろう。

 そうしてハーフェイズとは“神の子”になったゲンコツちゃんが結婚し、カーレン家のシーリンちゃんは神の子も結婚からも自由。政略的には、わたしの歯止めが目的なんだから、ゲンコツちゃんの保証人にわたしとサッちゃんがなるなら、同じようなものでしょ。と、いうものだ。

 “雑な計画だと言われるかもしれないが、そう思うならアナタがやれ。”ここまでがセット。



「それは、想像するだに、面白そうだね。僕も見学したいくらいだ。

 でも、そんなアホな理由で、失礼、貸し出せるほどヒマな男ではないよ。」


「でも彼、戦争の役に立ってないし。治安の役にも、ギリギリまで立ってなかったし。居なくてもよくない?」


 無邪気で素直な少女の感想を聞いて、王太子は渋すぎる茶を飲んだような表情を浮かべるが、口に出しては、

「彼のような人材は、軽挙妄動させずどっかり座らせておくのが基本なんだよ。そんなの聞かせたら、泣くぞ…キミこそ男心をわかってやれ……。

 とにかく、二つ返事でホイホイ貸し出せる問題じゃないから、しばらく待ってくれ。

 それから、ベフランから上がってきてる報告も、今から読むからすこし待ってほしい。」



 うーん、先日にも気づいていたけれど、アッちゃんは物事を決めるのに時間がかかるタイプだ。こうなったら、本人さんを拉致するしかないか。と、アイシャが危険な判断を軽い考えで決めて、暇になったのでアスランの手元を覗き込む。


「ベフランって、べ太郎? どんな悪口を書いてるのかしら、わたしも読みたいです!」


「だから、待って。特殊な文字だからキミには読めないよ。」

「べ太郎といえば、彼、次はないって言ったのに、また失礼な態度のままなんだよ。わたしの監視の担当を替えてほしいな。」


「本当に、待って……うーむ。アイシャちゃん、ハーフェイズとかのことより、もっと先に言わなきゃいけないことがあるんじゃないか?」


 王太子は、渋すぎる茶のおかわりが百杯運ばれてきたような、絶望的な顔をしている。せっかく整った顔が台無しだ。一方のアイシャは、心当たりを探っているらしい、間の抜けたキョトン顔をさらしている。仕方なく、王太子が言葉を継ぐ。



「大聖女様の後継ぎに指名されたんだって?」


「あ、はい。“無い”ですよね! その件はお気になさらず!」

「そんなわけにはいかない。残念ながら、ね。」


 アスラン王太子が説明することには、“聖女”とは「神殿の大神官と政府の神祇庁大臣が“あれこそは奇跡・奇瑞”と認める現象が観測された時に、有資格者のなかから選定される」役職であるとのことだ。

 そのなかでも特に“大聖女”は、「当代の目の前で、次代になる女性が奇跡とともに現れる」という言い伝えで代々続いてきた。今までは10年~20年で代替わりがあったが、当代の聖ウィタはもう40年以上後継が現れないままの在位となり、本人も新しい奇跡の期待と重圧を切実に感じていたらしい。

 王家と大聖女との関わりは現王朝の成立にまで(さかのぼ)り、聖アーヤが建国王に多大な貢献をして以来、王家は聖女たちをとても大事に扱っているという。


 へぇー。まるで他人事を決め込む態度のアイシャに、王太子の後ろのお付きさんたちも動揺を隠せない。


「……いまの依頼も、もし“大聖女様から直々のお言葉”であれば、我々は拒否できないくらいの、アレなんだよ。わかるかい?」


「でも、塔に住まなきゃいけないのは、困るよ。」


「…そうだな、サディクも怒るだろうね。これは困った。」


 そういうことなら、宰相の職掌に関わってくるところだから、直接会えばいいよ、せっかくだから。というアスランの提案にひとまず乗ることに決めたアイシャは、その宰相さんはどんな人物か、も聞いてみた。


「宰相は、若いぞ。30歳を過ぎたばかりだ。顔が良いのもあるが、とにかく外面が良い男でな、聖人とあだ名されたりもしている。

 話がわかる男だが、そう思ってペラペラ喋っているといつの間にか、彼の得にしかならないように話が運んでいる。というのが、あの男の特技だ。キミが宰相に会ったらどう思うのか、本当に見ものだよ。」


 悪人っぽく片頬で笑いつつ、目は冷めているアスランは、さすが王太子らしい影のあるところを感じさせる。問題の宰相も、話によれば食わせ物らしい。


 それからアイシャの緊張を解くようにカラッと表情を変えたアスランは、自身が入ったことがないという塔の内部の様子を聞きたがり、その地下空間や最上層からの眺め、“神”とのやりとりなど、アイシャの身振り手振りが主となって、伝わり具合は微妙な会話を楽しんだ。

 なお、この時点でアイシャの言う「神」は、迂闊にも説明がなかったため、王太子たちはこの国の神話の牛神だと思っている。この齟齬(そご)は、将来的には分からないが今のところ問題はなさそうだ。



 1時間ほど話し込んで、「朝議(朝の会議)の準備があるから」と、アスラン王太子はお付きの人に耳打ちされて、去る。その前に、「宰相も呼んであるから、入れ替わりにここに来ると思う。さっきの話みたいなのをしてくれたまえ」と言い放って、目をパチパチ瞬かせるアイシャを置いて、行ってしまった。



 急に静かになったところで落ち着く暇もなく、茶菓子のおかわりが運ばれ、さて、ひと息つこうとしたところで、数人の男女が無言で目の前に並んで丁重な礼をする。

 いきなりの重圧にタジタジっとなったアイシャと、やって来た男女の間に一人の男、まだ青年と言ってもいい若々しさと不思議な落ち着きを併せ持った人物が現れた。


「お待たせしてしまいましたか。私が、宰相のサルーマンです。以後、お見知りおきを。超聖女様。」


 アイシャが呼ばれたくない肩書で呼んだ男は、一瞬、人を探るような目で見たあと、いたずらっぽくウインクをした。



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