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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第六話 王都騒動

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91 渦中


「アイちゃぁん…ヤクタさんも……起きてぇ……ふゎぁ…」


 高級でない巡礼宿では、早朝発の乗り合い二等馬車を使う巡礼者のために、夜空が白みもしない間から従業員が鍋の底をガンガンとけたたましく叩きながら客室前を歩くのが名物の風景だ。要は、荒っぽいモーニングコール。


「ひゃああああぁっ!!」

「どったのシーリンちゃん!」


 急に叫び声を上げて腰を抜かしたシーリンをかばうアイシャが見たものは、ギラリと光る幅広のナイフ。そして、それをベッドの中で油断なく構えるヤクタ。


「妙な音が鳴るから、夜襲かと思ったぜ。オマエらも、常在鉄火場の心がけが足りねェな。」

「目が覚めちゃったよ、鉄火場(賭博場)は何か違うと思うけれど。もう停車場まで行こっか。お空、まだ真っ暗だね。」



 身支度をして、宿を引き払って外に出た時点で、ようやく空に青みが見えてくる。

 王都は元々標高が高めで、塔の周辺はもう少し高いので、町や領都よりもすこし冷え込む。とはいえ、いつもの服に軽いショールを羽織るくらいで対応できる初夏の空気だ。

 街の灯はまばらな時間帯だが、同じく停車場へ向かう巡礼者が三々五々と連れだって歩いていて、彼らのランタンの灯りと一緒に歩いていけば迷子になることもないだろう。


 そうして、ひとまずの目的地にたどり着いたところで、アイシャは見知った、探していた気配を見つける。



「あ、いた、いたよ、べ太郎(たろォう)!」


 発見した知人に飛びついたかと見せて、素早くその背後に回って“いつでもお前の頸動脈を素手で引きちぎってやれるぞ”とでも言いたげに両肩に手を回す。


「ご苦労さまだねぇ、今日も監視のお仕事?」


「お前……お前が聖女だと、ふざけるな。と、いいたいが、もはやタダで済ませられる問題じゃなくなっている。お前は、一体どうするつもりだ。あと、何の用だ。友達じゃないんだから馴れ馴れしくするな。」


「べ太郎はいつも一言の要件が多いよ。何から返事したらいいのか迷う。

 えーっと、まず、わたしの用事から。アッちゃんに直談判したいから、アポ取って♡」

「ダメだ。」


「……うん? わたし、いま、断られた?」


「俺に命令できるのは、宰相閣下と王家の御方々、他には大聖女様だけだ。

 …大聖女様は、まさか本気で断られてるなんて思いもよられぬことで、ご自身の信仰の迷いを天に見透かされたかとお嘆きだ。お前が去ったあと、知る限りの修行をやり直すと仰ってお籠りになられている。おいたわしい。

 お前はどうせ、聖女になる気なんてないんだろう。なにが超聖女だ。」


「あの失礼なおばちゃんたちのことなんか知らないよ。でも、ふぅん。大聖女ってそんなに偉いんだ。超聖女は、もっと偉い?」


「知るかバカ娘。」


「…それで終わらないでよ。あなた、いつも一方的に言いたいこというだけか、フテくされて吐き捨てるだけで、会話ができないんだよ。ダメだよ、そんな大人。

 とにかく、アッちゃんのところか、その宰相さまの方まで案内してよ。大事なことなんだから。」


「フン。そっちのシーリン嬢は知っていることだが、どうやら知らんようだから説明してやる。野次馬(ヤジウマ)の大女は、聞き飛ばしてもいいぞ。


 …王太子殿下を後援する派閥は主だったものが二つあってな、保守・穏健派の宰相派と、武断派の大将軍派だ。

 大将軍派はモンホルースとの主戦論を張っている側で、大将軍個人はお前の恋人のサディク殿下とも友誼があって、こっそりと暴走を支援していたりする。

 宰相派は、モンホルースへの降伏を()()しとして、なるべく傷を浅くして、奴らが通り過ぎていくのを待つ方針だ。奴らの勢いが長く保つとは思えんからな。そして、お前の敵だ。それは、何故かわかるか。わかっていろよ。


 それでだな、今までは国王派、議会派、宰相派で和平方向に進んでいたのだが、お前のアレ以後、王太子殿下ご本人と議会派が主戦論に傾いている。

 そのせいで、このところ殿下と宰相閣下の間に微妙な緊張が生じてきてるんだ。

 お前のせいだぞ、わかっているのか。」


「んもう、しつこいなぁ。だからべ太郎はわたしに“何もしないで大人しくしてろ”っていうんでしょう。」

「わかってるじゃないか。何がイヤで世の中を引っ掻き回すんだ。」


「……わたしは、普通にやってるだけなのに、なぜだか他所からおかしなことがやって来て問題が大きくなるんだよ。納得いかない。わたしのせいじゃない。」


「ほぉーぅ。それで、どうするんだ。」


「とりあえず、お話し合いだね。納得できたら、聖女さんでも女中さんでもなってあげるよ。

 ヤクタ、シーリンちゃん、先にゲンコツちゃんの道場に行っておいて。わたしは、この男を担いでアッちゃんとこ行ってくるから!」



 どうにも噛み合わない議論の決裂の末、ベフランを放り投げるように頭の上に乗せて走り出すアイシャ。王城は遠いが、見えてはいるので大体の方向で間違うことはない。

 べフランはもちろん、シーリン、ヤクタも開いた口が塞がらない(てい)で、成り行きを見守るほかにできることがない。


「お、おぅ。」

 ヤクタがかろうじて放った言葉が風に乗って消える頃にはアイシャとべフランの姿はそこになく、シーリンは自ら招いたと言えなくもないこれからの事態を想像もできず、身をすくめるのであった。





第6話「王都騒動」をここまでとします。で、第7話「王宮にて」に続けます。考えていたプロットとはかなり変わってきました。どうなることやら。

次回からは7日更新で、以後隔日に戻ります。まず、1話からのあらすじの整理です。

折に触れて振り返りながら話を進めていますが、話がかなり込み入ってきたので、自分用のメモでもあります。そうです、わたしは頭が悪いのです。


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