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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第六話 王都騒動

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88 太陽の塔 4


[少年の頃か……。思い起こすこともなかった、遠い遠い昔のことだ…。]


なんだか、わたしが妙なことを言ってしまったせいか、変に(ひた)りだした武神様。

「は、速い! カゴの昇るの、すごい速いけど大丈夫ですか武神様!」


 鎖がカゴを吊り上げていくのかと思いきや、すでにカゴのほうが速く登って鎖がたわんでいて、シーリンちゃんだけでなくヤクタまで阿鼻叫喚の有様。わたしはちょっとちびってしまったので、むしろ冷静になれた。


[ブツブツ……お、速すぎたか、悪いな。俺の少年時代は昔過ぎて、思い出すのに時間がかかってな。最上層まで到着だ。外は寒いぞ、気をつけろよ。]

「ごまかされた!?」

「下りの間に話してやろう。カゴの中に外套(コート)も入れてあるから、持っていくがいい。」



「おわッ、寒ゥ!」

「もう夏なのに、雪が残ってるわよ。って、風がキツイ!」

「これだけ高かったら何が見えるだろうと思ってたら、高すぎてもう何も見えない!」


「おぉッ、雲がはるか下だ! 飛び乗れねぇかな!」

「すごーい、地平線が丸いねぇ!」

「ヤクタ、わたしやってみたい! アイシャ、飛びます!」

[やめろ、死ぬぞ。帰ってこい。]



 塔の最上階は中央がカゴが到着する部屋になっていて、その外側は四方がよく見える吹きさらしの広場だ。

 時間はもう夕方、黄金色の光が大地を照らし、雲を輝かせ、日陰は深い群青色に染まっている。


 広場のそこらじゅうに生えている柱は、突風に吹き飛ばされてもしがみつけるようにしてあるんだって。よくできてある……のかな? 他にやるべきことがあるような気はする。たとえば、この寒さをなんとかするとか。あらかじめ聞かされてはいたけれど、なぜ寒いのか意味がわからない。

 空から見る生まれ育った町は、ちょっと遠すぎて何もわからなかった。あと、雲に飛び乗るのは武神流の秘術を尽くしてもできないらしい。まあ、武神様ができないと言うなら?わたしがそのうち、できるようになる技を開発しよう。


 そんなことを言ってはしゃぎながら、カゴの部屋まで引き返したところで激しいめまいと頭痛に襲われて……



――――――――――――――――――――――


 3人ともが、いきなり床に倒れ込む。

[空気が薄いって言ってるのに、はしゃぐやつがあるか。高山病ってやつだ。ここに敵がいたら皆殺しだな。]


 邪、もとい、武神が告げる。

[カゴまでは這って行け。降りれば楽になるだろう。その間お望みの、俺の少年時代の恥ずかしい話でもしてやろう。感謝して聞けよ。]


 手足を動かすこともできず、頭痛に呻りながら腰と腹で這ったり転がったり、特に様子のやばいシーリンを背で押しやったりして、ようやくカゴの辺までたどり着く。そこから、ひとり鍛えた体で回復しつつあるヤクタが四苦八苦しながら2人をカゴに押し込んだ。

 その間も、ほとんど嫌がらせのように武神の思い出の独白が痛む脳裏にガンガンと突き刺さり、白目をむいて泡を吹くアイシャの顔は美少女の面影もない。ただ、日頃から鍛えているヤクタだけがこっそり意識を保って聞き耳を立てていることを、武神は知ってか知らずか。



[――などということがあったわけだ。聞いているのかアイシャ。おお、もうじき第一階層に着くぞ。どれ、我が神力でその高山病を回復してやろう。]


 できるのなら、はじめからやってちょうだい。その程度の憎まれ口を叩く気力もなく、謎の力が染み渡っていくのを感じて一息つく。

 3人がのそり(・・・)と起き上がって、文句のひとつもつけようとした瞬間、カゴは、出発した地階ではなく、最初に入ってきた1階の牛神像前に到着、静止した。そしてその前には十数人の人々が(ぬか)づいてアイシャたちを出迎えている。

 


 この国には“聖女”と呼ばれ、尊ばれている数名の女性がいる。どういった基準で選ばれるのか、普段は何をしているのかなどは一般には知らされていない。王都民の間では「オークの軍団がこの国を攻めあぐねているのは聖女様がお祈りくださるからだ」ということになっている。そうして、田舎者に御札やグッズを売りつけるのだ。

 現在の聖女は3人、その上に“大聖女”様がいる、ということになっている。一般人や貴族まがいの商家程度には伺うすべもない雲の上の話だ。しかし聖女の新就任や引退は国を挙げての祝祭になるので、そういうときに国の端々まで聖女様が存在感を発揮する。その祭りが、この20年、行われていない。


 いま一番若い聖女が30代後半、記録から計算すれば大聖女様はもう60代であるらしい。若い聖女様の登場が待ち望まれている。「アイちゃん、聖女様にスカウトされるかもよ」とは、長い下り階段の途中でシーリンが語っていたこれらの情報の結論だ。


 その結論を裏付けるように、きらびやかな黄金のローブをまとって平伏する聖女3人の前に座る、紫衣のローブの初老の女性が恍惚とした表情で叫んだ。


「新たな大聖女…いや、超聖女の爆誕(ばくたん)じゃあ!!」



 その叫びに、聖女やその侍女たちが立ち上がり、「おおっ」と喝采をあげる。


「爆誕?って、なに?」

「大聖女様…お言葉遣いが…。」


 首をひねるアイシャ、頭痛がぶり返したように眉間を押さえるシーリン、面白がりながらとりあえず様子を見ているヤクタ。

 その様子に構わず、大聖女が言葉を重ねる。


「さ、さ、アイシャ様、こちらへ!」



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