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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第六話 王都騒動

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85 太陽の塔 2


 馬車は平和裡に進む。やがて広場に数件の屋台が並ぶ休憩地点に入り、小休止。物売りの子どもたちがお茶やクッキーを売りに来るけれど、一見して質が悪い。これはヤーンスの市場のが上だね。うふふ。

 休憩を終えて、さらに馬車は進む。

 いまや“塔”は圧迫感を感じるほどに目前に立ちはだかって見える。でも、まだまだ半分弱の道のりを残しているそうだ。ほへぇっ、とバカみたいに眺めていると、時折強烈な光を浴びせかけられて、びっくりして倒れそうになる。“塔”の金色の模様が日光を反射して、ピカピカどころかドーンって勢いで輝いているんだ。


「あれって、実は迷惑な建物なんじゃないの?」

「みんな、ちょっとは思ってるさ。でも、街より古いものだからな。見ろよ、文句があるならお前が出ていけ、って顔で建ってるぜ。」


 わかる。まあ、あれをご飯の種にしてる観光業の人はグチっちゃいけないね。

 とかいってる間にも、ずんずん近づいてくる。もう町並みの風景とか気にしてる暇がない。ちょっと目を離した隙に倍くらいに大きくなってのしかかってきそうだ。

 もう、ほとんど視界いっぱいに塔なのに、まだ到着したわけじゃない。こんな大きなものが、どれだけの高さなんだろう。てっぺんで待ってたら、回ってくる月に(さわ)れるんじゃないだろうか。


 さらにもう一回の休憩を挟んで、もう“塔”はお腹いっぱいだからいいよ、なんて気分で御者さんとはカムラン神のお告げの話などしながら、お馬さんにはラストスパートの道を進む。

 そして、お日様が昼過ぎの黄色味がかった光を投げかける頃、終点“太陽の塔(ファール・ザフル)前広場”に到着した。



「いやアー、よく寝た。お、これが“塔”か。でっけぇーなァ、おい。」

「アイちゃんお久しぶり。御者さんとは話が弾んでたみたいだね。」


 ようやくの“太陽の塔”は、乳白色がベースの円筒形の建物だ。が、とにかく冗談のようにスケールが大きい。差し渡し1000メートルはありそうだ。遠目に見たら柱なのに、近づいたら壁。そんなものが、そっくり返っても先が見えないほど高くそびえ立っている。

 1階、2階くらいの高さはほとんど飾り気がなく、扉と、取って付けたような入り口があるばかり。その上は、彫刻と金の飾りで埋められていて、窓や出窓とかは無い。本当に、天に登る柱だ。


 ずっと車内だったヤクタ、シーリンちゃんも降りてきて、合流。さて、どうしましょ。


「お年寄りの人とかは、馬車で揺られて疲れてるから今日は宿に直行して、明日に観光したりもするけど。普通は、正面のお祈り所でお札をもらってお祈りして、ぐるっと一周回って、最後にもう一度お祈りするのが正規ルートよ。」


「じゃ、そうする?」


 広場から塔の閉じている正面入口まで500メートルほどの真っ直ぐな石畳の道が伸びていて、その手前100メートルほどの所に受付テントが設置されている。そこで参拝の記帳に名前を書いて御札を買うみたい。

 俗っぽいけれど、そんなものかな。御札、記念品くらいでいいんだけれど。あんまり高価だったらここでは買わずに、後ろのお土産屋さんで何か買って帰ろう。


 それくらいの気持ちで受付まで歩いていくと、急に、見知った気配が正面から近づいてくる。と同時に、地響き。


 地面の小石がカタカタ音を立てて跳ね、テントはゆらゆら揺れて、ごうごうと低く、重い音が響く。同じ馬車でやって来た十数人だけでなく、いろいろさまざまのルートで訪れた百人以上の参詣者が“塔”を見上げるなか、ある一つの声が妙にハッキリと響いた。


「ファール・ザフルの、扉が開く! 通用門でも、大聖女の入り口でもない、正面扉だぞ!」



「おぉー、開くね。シーリンちゃん、あれ、珍しいの?」

「開いた記録は、今までにないらしいわ。塔の地下の裂け目に入る道を後からそれらしく作った“通用門”と、特別なお祭りの日にだけ開く穴の“大聖女の入り口”があって、聖女様とその下僕だけがその門を通って塔の中に住んでるんだけど、扉は飾りの模様だというのが通説だったの。いいもの見れたわね、アイちゃん。」


 扉はじりじりと開いていって、今は半分ほど。奥には明かりが(とも)っているのが見えるけれど、遠くてよくわからない。


「近くまで、行ってみようか。」

「いっそ、中まで入っちまおうぜ。」



 ふと、周りに目をやると、みんな両膝を地面についてお祈りの姿勢だ。シーリンちゃんもだ。彼女は信心深い性格ではなかったはずだけど、それでも塔は王都っ子のアイデンティティなのだろうか。

 そういう人たちには、ちょっと悪いかなという気もするけれど、好奇心が(まさ)るのよ。もっと近づいて、よく見ようとしたら後ろからスカートの裾を掴まれた。なんだいシーリンちゃん、びっくりするじゃないか。


「え、アイちゃん、まさか本当に中に入る気ぃ?」

「いや、もうちょっとだけ、中を見たいじゃん? 無理に突撃なんて……」


 などと言い合っているうちに、扉が完全に開いて、風が吹き付けてきた。これは、神様の気配。神気というものだ。わたしは知ってるんだ。

 巡礼の人々がより深く頭を下げるなか、扉の中から声が響いた。


[よく来たなぁ、アイシャ。グズグズしてないで入ってこい。連れの大女と、そっちのアレの、あの女も一緒でいいぞ。さあ。]


 やっぱりこの気配、武神様だったか。なんでこんな所に?





年末ですね。図らずも、良い具合にお話が良いところですので、今日30日と、明日31日から正月5日まで連続投稿します。

1月は、隔日更新なので奇数の日の更新に変わります。よろしく。


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