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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第六話 王都騒動

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84 太陽の塔


「アイちゃぁん、いつまで寝てるの! 塔観光に行くわよ!」

「ふゎぁぃ、朝ごはん?」


「朝ごはんは外で食べましょ。この家にはもう帰らないから、荷物持ってね!」

「ふぇっ?」

「おっ、家出か!?」


 朝一番にびっくりするような話題で叩き起こされ、しっかりしていない目をぐるぐる回しながら跳ね起きるアイシャとヤクタ。


「昨日の件をお父様に説明したら、人生初めての親子ゲンカになっちゃったぁ。“どうせカネ目当ての訳分からん庶民など構ってやるからそうなる、反省しろ!”なぁんて言うから、“反省することなんてなにもないわ! 娘よりお(いえ)が大事なら一生お(うち)にいるといいわぁ”って。

 19歳にして反抗期の訪れよ! ビバ!青春!」



 彼女なりに口早に(まく)し立てられて、なんと返事したものか、ひたすら戸惑うアイシャ。それを尻目に、ひとりさっさと豪快に着替えて、復活したヤクタが軽口を叩く。


「そうなるって言っただろ、なったんだからもうしょうがねェ。…アイシャ、着替えにメイドさんが必要か?」


 あわてて身支度を始めつつ、ひとこと言っておくべきことを見つけて、それだけは断りを入れる。

「カネ目当てとかじゃ、ないからね。」

「わかってるわよぉ。気にするとこ、そこ?」



 結局、いたたまれない思いをしながら“お世話になりました”の書き置きひとつ残して、妙にテンションが高いシーリンに引っ張られるようにして男爵邸を後にする。メイドさんほか周囲の人々には本格的な家出とは思われていないようだが、どうなることやら。今日もよく晴れた空を見上げて、何度目かの溜め息をつくアイシャだった。



 ファール・ザフル巡礼の辻馬車は、二等馬車は城門前の広場から夜明け頃に、一等馬車は貴族街と商人街の境の広場から、朝の日も高くなってから出発する。数カ所の中継点をはさみ、両者とも昼下がりには塔の前に到着。急げば一等馬車なら日帰りできるが、基本的には巡礼宿で一泊して翌日以降に帰りの馬車に乗ることになる。


「私も、塔を(ふもと)から見たことってないから楽しみなんだぁ。今ここからでもうっすら見えてるけど、本当に天気が良くて空気が澄んでる日はてっぺんが見えることがあるらしいよぉ。見えたらいいね!」


 遥か遠くで青く霞んでいながらも、朝日を受けてキラキラ光っている塔を眺めつつ、出発を待って朝食の麺料理をつついている一行。


 朝食は、トイレ休憩が少ないので水気は少なく、でも食事休憩もとれないためボリュームはどっしりした、香辛料の刺激で無理にでも食べさせようという油そば的な食べ物で、香草やピリ辛スパイスも山盛りで食中毒対策も気が払われている。

 朝から気持ち的にも重たいアイシャにはずっしり重いメニューだが、ヤクタは旨そうに行儀悪く掻き込んでいる。シーリンは「私は車酔いするから」と、自分だけ3分の1盛りにしていてずるい。なんだか恨めしく睨みながらも、空腹を抱えて馬車に揺られるのもイヤなので、目をつぶってフォークでかき回す。


――――――――――――――――――――――


「あぁー、世界がスパイシー。」


 準備ができた馬車にポンポンのお腹を抱えて乗り込んだ。皆の服にも髪にも、わたしのお腹の中もスパイスの匂いが染み付いているような気がして最初からしんどい。ぐんにゃりとシーリンにもたれかかって、天然のクッションを楽しもうとしてもスパイスくさい。


「ハイハイ、詰めて! もっとそっち、詰めて!」


 むぎゅう。係員の指示が飛んで、12人乗りの車内に15人が入ってくるすし詰め状態で、抗議する暇もなく馬車は出発進行。ああ、すごい揺れる。なにかが漏れ吹き出そう…。


「一等馬車っていうから、もうすこし優雅なのを想像してたよ。」

「ごめんねぇ。お金持ちは自分で馬車を用立てるから。私も、親のカネなら好きに贅沢するけど、今日からは節約しなきゃいけないのね。」


 二等馬車なら、同じ大きさの馬車でも屋根の上や外側のステップに立ち乗りで30人以上載せて運ぶらしいが、一等にはイメージもあるから外乗りは禁止らしい。ヤクタ、なんとかならない?


 相談の結果、わたしは体が小さいので御者さんの隣スペースに座れることになった。お外の空気がありがたいし、風景も特等席だ。ラッキー! でも、御者さんが近いね。わたし、スパイス臭くないかな?



 気がつくと、“塔”はずいぶん大きく見えるようになった。はじめは、正面に空に霞んでいく細い塔が見えていたけれど、今はかなり見上げないと上の方まで見えない。でも、まだ道のりは3分の1くらい。

 進んでいるコースは、王城と上級貴族街を迂回する参詣路という広い道。このあたりは住宅エリアで見るべき景色は特にない。もう少し進むと、ぼちぼち土産物屋も見えてきて、押し売りの子供とかも寄ってくるから、これで追い払って。御者さんはそう言って、棒を手渡してきた。短いけれど、使い込まれた黒光りのする棒だ。怖ぁ!


 景色は見るべきものがないと御者さんは言うけれど、家並は清潔で、軒先には季節の花や石像が飾られていて、見てるだけでも結構おもしろい。観光地ってこういうものなのね。石像は牛神様伝説に出てくる黄金の乙女や、その後裔の聖女像が多いみたいだ。

 キレイな眺めだし、楽しいよ。ワクワクする。そう言ってあげると、御者さんは自分が褒められたみたいに照れてる。みんなハッピー、良いね。


 この先で物売りが群がってくるとかちょっと想像しづらいけれど、追い払い棒の練習をしておこう。ヒュンヒュン、ゴォゥ! お、いい音が出るじゃん。


「じょ、冗談だって、棒で殴りはしないさ。差し出してくる品とかを押し返してやるだけだよ。からかっただけなんだ。(ねえ)さん、護身術とかやってるのかい、異様に様になってるねえ。」


 おや、姐さん呼びとはお目が高い。そうです、わたしがウワサの武神姫です。


「ははは、そうかい、今度噂をしっかり聞いておくよ。」


 あれー。ウワサじゃない? おかしいなぁ。みんな、もっとウワサしようよ。



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