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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第六話 王都騒動

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78 冒険者ギルド


 いろいろあったけれど、ようやくの自由時間、観光タイムだ。面倒なお目付け役も、案内係だと思えば、何の土地勘もない街をひとり歩くよりは都合いいだろう。

 シーリンちゃん邸は貴族街の隅っこ、商人街との境目くらいの場所だそうだ。ここから、商人街、職人街、居住区の3区から交通の便利な、まん中辺りにある冒険者ギルドへ案内されて歩いている。そこは比較的お上品な方で、活きの良い情報を当たるなら城門の外にあるもっと大きな“第一支部”があるのだけれども、猥雑なところなので初めて姫様を案内するなら、ということで本部を目指している。気遣いさせるね。


 王都の町並みは清潔で整っていて、なんというか、キラキラしてる。この街にいるだけで自分の価値もワンランクアップしたみたいな、道を歩くだけでも気分が高揚する(アガる)。「田舎で勉強するより都会で昼寝でもしてる方が上等な人間になれる」なんていうのも間違いじゃないのかもしれない。田舎で一所懸命勉強していたわたしだからわかる。

 人通りはあんまり多くない。イルビースはもっとゴチャゴチャしてた。チャリパに聞くと、門外ではああいう混み合い方もするけれど、ここらは店も道も分散していて、田舎臭く混雑せずにキレイに澄ましていることが王都っ子のプライドなのだとか。


 それでも、今日はいつもよりも何となくザワついている、らしい。わたしも、そんな雰囲気は感じている。わたしにはお澄まし美女よりも、噂話でキャピってる女の子のほうが好感が持てるのでこっちの方がいい。田舎者って笑われちゃうかもね。でもそれっくらいなら笑われてもいいよ。



 貴族街と商人街の間には、壁とか門はないけれど、家並みが壁のかわりになっていてちょっと不自由が強いられている。他の区分けのラインでもそうなっているらしい。外敵とか田舎者を迷わす仕掛けなんだって。

 そんな、田舎者はいいじゃないか。好きで田舎者じゃないやい。


 そんな風に、微妙にちくちくする王都っ子チャリパおっ母さんの案内を受けながら、やって来ました冒険者ギルド・本部。事前に聞いていた話からはどんな魔窟かと思っていたけれど、普通のお役所だ。



「姫様、あまりキョロキョロなさいませんように。」

 おっと失礼。それにしても、いかにもな荒くれ者って感じの男はいないものだね。


「それは、アレですね。」

 チャリパの指差す先は掲示板。ひとつの張り紙がひときわ目立つように張り出されている。公式文書の体裁で記された格調高い張り紙だ。この辺の荒くれはあれが読めるんだね。武神流のみんなは読めるの?


「拾って読めばわかるように、ところどころ赤線を引いてある字があるでしょう。あと、その下に別紙でわかりやすく書いてあります。」

 本当だ、絵付きで説明してある。わたしはもちろん、上の方で読めるよ。どれどれ、ええっと。

 つまり、公的な依頼で、悪人の荒くれ(冒険者を含む)を、そうでない荒くれ(信用がある冒険者)に狩らせてるから、今ここの荒くれ(ギルドの冒険者)は出払ってるわけだ。例の悪人退治に動いてるんだね。

合ってる? だよね、良かった。



 そんな事を話していると、遠くから元気よく声がかけられた。

「おかーさーん! 帰ってきてくれたの!? 助かるぅー!」


 受付カウンターの向こうで心底嬉しそうに飛び跳ねている彼女は、ギルドの受付嬢だろうか。目の下にクマをこさえてお疲れの様子だけれど、こざっぱりした美人さんだ。


「連れがいるんだ、紛らわしい呼び方は止めな。…ああ、一昨日帰ってきたよ。最近、変わったことはないかい。」


「そりゃあ、なんといっても神様の声ですよ! 一昨日のお帰りなら、聞いていたでしょ? もう街中大騒ぎで、カムラ……ぁ、失礼しました…。」


 カムラン流の神様が出てきた話題なので、武神流ガチ民に対して受付嬢さんは遠慮しちゃったようだ。別にそんな気にしなくてもいいのにね。

 チャリパが冷静に続きを促すと、もう少し詳しく語ってくれた。



「声は、城壁の内側は全域、外郭の王都側半分までは響いたみたいです。王様も聞いたみたいですよ。それで、“神の子シーリン”って誰だ、って大騒ぎで!

 みんなの一番人気はカムラーン兵術道場主の娘・“がんばり屋”シーリン15歳。次点がA級冒険者ナジムの新婚のお嫁さん・“緑の爪”シーリン26歳。でも、違うんじゃないかなぁ。ほかにも、カーレン男爵商会の“ぼんやり”シーリン様19歳がいるけど、現状、行方不明です。

 それでね、最新の噂ですけど、これも噂の“サディク王子の毒蛇姫”が今、王都に来てるらしいんです! 宰相閣下も王太子殿下もずいぶん暗殺を警戒されてるんですが、実はその“毒蛇姫”さんの名前がシーリンなんじゃないかって、これ、大穴ですよ!」


「なんだ、賭けでもしてるのか。」

「ハイ。こっそり、ですから外では言わないようにしてくださいよ。一口、どうです?」

「じゃあ、男爵家のシーリンに有り金……の、銀7枚だ。」


「えっ……何をご存知で…?」

「チャリパぁ、それは、ちょっと。」

「なんでしょうか。せっかくですから姫様もお賭けになられては。絶対儲かるじゃないですか。」


「チャリパお母さん、ギルドでは情報も高く買い取っていますよ。今なら金貨も…そちらの子は、ところでどなた様で?」


「金貨! 姫様、」

「ダメだよチャリパ。政治の関係もあるんだからね。…あー、受付嬢さん、わたしはいま彼女に護衛をお願いしている、アイシャっていいます。さっきの、サ、サディク王子の、何?の噂、教えてもらえます? お金いりますか?」



 さすが、情報、まあまあ広まっているのね。“ぼんやりシーリン”は笑っちゃうけど、ほかに聞き捨てならない噂も流れているようだ。どうしよう、言われたらしい名前、耳が拒否して聞こえなかったけれど、それで広められるわけにはいかない。もう全部バラしちゃってもいいかしら。



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