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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第六話 王都騒動

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76 真打 


「ああ、びっくりした。」

 シーリンが恐々と、傍目(はため)にはのんびりと立ち上がって衣服についた砂を払う。蹴られた衝撃は、自ら跳ぶことで消してしまえたようだ。

 一方、対戦相手のハーフェイズはがっくりと、自分の首を両断できたであろう剣を襟首から抜いて、大きく息を吐く。


「これは、(それがし)の負け、と、いうべきですかな。見苦しい真似はすまい。……ときにシーリン殿、剣を手に持つのは、これで何度目かな。」


「2回目です。なんかすみません。」



 特段、自分の強さに価値を感じていないシーリンの言葉は、聞く者によっては挑発的にも冒涜的にも響くことだろう。アイシャの態度も似たようなものだが、他人が同じようなことを言うのを聞くと、自分はちゃんとしようとアイシャは思うのだった。

 今回言われたハーフェイズは人間ができているので、怒りはせずに理解を示してあげる。


「そうだろう。すべて出鱈目で、完璧で、天性のある素人の動きを100倍に早めたような動きだった。理を学べば強くなるものか、そうでもないのかの判断もつかん。お手上げだな。

 …武神姫殿は、どう思われるか。」


「シーリンちゃんは、1秒でも半秒でも早く終わらせたいって気持ちが見えすぎますね。専門外のことをさせてるのはかわいそうだけれど、商売人としてそれはどうだろう。」

「悪かったわねっ!」


「悪いと、そう言ってるんだよ。……ところで、ハーフェイズさんは神様関係者じゃないの?」



 神の気まぐれに巻き込まれただけなのはアイシャもシーリンも同じだが、やりたいことも、やるべきこともしっかり持っているシーリンには、特にやりたいことを思いつかないアイシャよりももっと迷惑な運命だろう。同情する気持ちはアイシャにも大いにあるが、現状、運命の道連れでもあるシーリンに逃げられたら困る。

 相反する思いだが、思いやりよりも利己的な部分で、アイシャはこの剣術素人にしがみついて離さないつもりだ。そのために、明らかにしておきたい要素がある。

 この、ひとり不自然に武力の数字が大きいこの男のことだ。もし、これくらい強い人が世の中にたくさんいるなら、シーリンを巻き込むのは危険が大きい。


「某は神託を聞いたのも、それらしい奇跡に触れたのも、先ほどのがはじめてだ。今しがた負けておいて何だが、この国でも近隣の国でも某に(かな)う者はいなかった。モンホルースには、あるいはと期待していたが立場が邪魔になって出征できていない。

 が、神も、武神に近いと仰ってくださった。かくなる上は修行あるのみだ。武神姫殿。もはや守るべき面目もない、稽古をつけてくだされ!」


 大男に詰め寄られ、「ひぇっ」と息を漏らしつつ、王子を見ると肩をすくめて笑っている。六人衆を見ると、先日戦った相手が彼なのは気づいていたのか、なんだか誇らしげな顔をしている。シーリンは、出番が終わったと思っているのか晴れ晴れとした表情だ。



 溜め息をもう一つして、剣をとるアイシャ。

 その新しい剣は、シーリンの父が腰に()げるための剣の予備をもらったもので、見た目こそ普通の剣だが、極限まで軽さを追求されている。実用品ではない。どうせ当主自ら剣を振るようなことはないのだからと作らせたものだ。もっと軽いものには皮の剣に銀箔を押したものもあるが、あれは遠目にも偽物とわかってお洒落じゃない、とのこと。


 ミラード号はお役御免にして、新たな武器“男爵丸”を誇らしく、軽々と掲げる。

「ならば、お稽古してあげましょう、武神流は厳しいですよ、さあ来い!」



 アイシャにとって、この“稽古”は楽しいものになった。殺し合いでも、怪我をさせたいわけでもない、スポーツのように振るう剣技。六人衆との稽古にはいきさつ上の遠慮もあったし、実力もかけ離れていた。

 いま、目の前のこの男の武力は6000にも達そうとしている。少しでもぬるい手を返せば思わぬ逆撃をしかけてくる。かつてアイシャは当てずっぽうで自分の武力を1万と(うそむ)いたが、実際、そのあたりかもしれない。


 ハーフェイズたちの使うカムラーン兵術は飛んだり跳ねたり、見栄えのいい技が多い。アイシャたちの武神流は、六人衆に言わせれば質実剛健で無駄のない技。どんなときもこちらの都合を押し付けるような、技ともいえない力づくの戦法だ。どれだけ素早く動いでも、印象がどこかのっそりしている。

 今の“お稽古”を通してアイシャも、ハーフェイズ・シーリンの技を通して身軽で可愛らしい動きを考案、実践する機会を得た。後の世に“アイシャ武神流”と呼ばれる武術が存在するなら、今日この日にそれは出来たと言っていい。


 だが、そんな時間も長くは続かない。



[ぬるい!! 何をやっておる! 時がない…時がない……]


 日を陰らす余裕もなく、あの声が再び響いた。



「おお、そうでした、忘れてた。」

 アイシャの苦笑いしながらの独白に、その立ち回りに目を奪われていた人々も同じく苦笑いし、さて、どうしたものかと一考。


 王太子が一同を代表するように、一歩前に出て口を開く。


「まずは、昨日の武神流の客人2人は解放しよう。

 その上で、問題の悪人退治は引き続きこちらにお任せいただきたい。面倒な政治が絡むので、サディクの縁者になるアイシャが活躍してしまうと、別の血が流れることになるんだ。ハーフェイズ、大丈夫だろうね。

 あと、神様のお告げか。どうしよう、温いとまで言われてしまった。普通に考えれば、邪神ってモンホルース、オークたちの神なんだろうね。王都のどこまで声が響いたかにもよるけど、ことこうなればサディクの独断専行を追認するしかなくなるかも知れない。」


 早急に協議が必要だね、その間にまた怒られないように、シーリン、お祈りしておいちゃあくれないか。そう言って王子は仕方なさそうに笑った。



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