72 来客
その後、4人は東屋に寝泊まりすると言い張ったが明らかに邪魔なので、客間に行ってもらった。助かります、シーリンちゃん。
私たち3人は特別室に移って、明日着ていく服、特にスカート丈について議論を交わした。
ヤクタは短ければ短いほど良いと主張するので、ヤクタのズボンをギリギリまで短くすることに。さすがに恥じるだろうと思いきや、完璧に似合って美しい上に本人もご満悦。この女、自分に自信を持ちすぎだろう。とても真似できない。
わたしは膝丈を主張したけれども、2人がブーブーいうので膝上5センチくらいに。大丈夫かしら、ドキドキする。でも涼しいのはイイね!
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ファッションチェックを完璧にこなして、夜が明ける。すでに達成感が皆の身体に満ち満ちている。今ならよく眠れそうだ。3人の間に心地よい疲労と満足と友情とが心地よく溢れていたその時、屋敷じゅうに蜂の巣をつついたような騒ぎが撒き起こった!
「王太子殿下が! 太子殿下がお成りです!」
「おお、なんと名誉なことだ! 急ぎお出迎えの準備をせよ!急げ!急げ!」
「こんな朝早くに、なぜ……?」
「あぁ、もうお越しになられます…門に! 門に!」
「なんだか、みんな忙しそうだね。シーリンちゃんは行かなくていいの?」
「王太子殿下のお相手なんて、お父様とお姉様の仕事よ。私は関係ないわ……でも、そうね、よりにもよって今、こんな朝方にアポ無しで来られるなんて、十中十までアイちゃん問題ね。
アイちゃん、ファッションが決まったところだけど、高級路線に変えよう。時間がないからアウターとメイクでごまかす方針で。さあ。」
「うそ、そんなにして勘違いだったら恥ずかしいじゃん。呼ばれるまでこのままで……あーれー」
「アタシは偵察に行ってくるぜ。面白そうだからな。ソッチはまかせた!」
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門前にはひときわ美々しい装いの青年が白馬で乗り付けていた。
その周囲には数人の、似たような雰囲気だがいくらか格が落ちる感じの、いずれも凛々しい美青年たちが侍っている。その後方、道路側に宰相派の密偵・ベフランが疲れ果てた青い顔で、所在なさげに佇む。
その青年の目前、開いた門を塞ぐかたちで大柄な武人が、土下座というにはあまりにも堂々とした姿勢で道を阻んでおり、さらにその後方、敷地内では男爵家の使用人たちが慌てながら、なすところなく次の指示が下されるのを待っている。
その様子を面白そうに眺めながら、無頼な風体で堂々正面から歩いて近づいていくのは、我らがヤクタだ。
討ち入り前提で戦闘的な服装に、ホットパンツにロングブーツというこの場に不似合いの扇情的な要素、腰には剣ではなく銃をぶち込む異形の姿。それを浅黒い肌、筋肉質の長身がスッとまとめ上げ、目にする誰にも自然と道を譲らせる迫力に満ちている。
青年は目を輝かせて周囲の者に語りかけ、べフランは死にそうな表情で首を横に振っている。屋敷の関係者のほうが恐慌を起こして震えているなか、なおも詰め寄ってくるヤクタが、土下座の武人に問う。
「なァ、何やってンの?」
*
邸内の関係者たちは「お前が止めてこい」「いや、お前がやれ」の言い合いでどうにもなっていないのであろう。この場でヤクタの責任者と言えるシーリンは、アイシャの面倒をみる途中で不安になって窓から覗き見て、卒倒しそうになっている。
「あ、アイちゃん、ヤクタさんを止めてきて!」
「すべてが途中の、いま? せめて、もうちょっとまとめてよ。」
「急いでやるわ。なんてこったちくしょう!」
*
「何か、と問うか。我は宮中武官のハーフェイズだ。そなたは。」
「アタシ? ヤクタ。客分だ。昨日から逗留してる。門が塞がって邪魔だったから聞きに来た。アポ無しなんだって?」
腰に手を当てて長身を傾け、見下ろしながら、この土下座男の力量がとんでもないことをヤクタは感じ取っている。昨日、六人衆を退けたのもこの男ではないか。何の根拠もなく、そう思った。
「ウム、邪魔をしたなら災難であったな。しかしそなたなら分かるだろう。この屋敷には神か、魔か、天災に近しい気配が2つも潜んでいる。断じて、貴人を近づけさせるわけにゆかぬ。」
確かに。すべて納得したヤクタは、半笑いのまま、貴人と呼ばれた青年を正面から見据える。だいたい同じ身長だが、わずかにヤクタが高い。ちんぴら用語では“ガンを付ける”という行為だ。
青年も、楽しそうな顔で視線を正面から受け止め、数秒たって空気の緊張が弱まった瞬間を見計らって話しかけた。
「キミは、“武神姫”のツレの、ヤクタで合っているよね。2つの気配の1つはキミじゃないのかな。できればその2人、ここまで連れてきてくれないかな。」
ずいぶんフランクな口調と爽やかな笑顔に、ヤクタも晴れ晴れと笑って応える。
「弟クンよりイイ男だな。気配の1つは男爵の次女のシーリンだよ。男爵もお待ちかねだから、構うこたァねぇ、入ってこい。アイシャも、取って喰いはしねェよ。そこの小者みたいな余計な挑発さえしなきゃ、ナ。」
「殿下!」
「何してんだ、足下のは踏んで来いよ!」




