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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第五話 カムラン武神

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71 スパイ対策大作戦


 食事会はにこやかなうちに終わった。あれ(・・)以上に場を荒らすような出来事もないしね。勝負ごとは面倒だ。で、これから次の面倒を片付けるべく、動き出すことになっているんだけれども。


「例のマイさんは、別室で不自由なくゆっくりしてもらってるわ。それで、アーラーマンさんたちが来てて、庭の東屋(あずまや)で待ってもらってるから、あとはアイちゃんのお好きなようにおまかせ、なんだけど…。派閥の話とか、わかってもらってる、よね…?」


「わかってるって。なるべく迷惑かけないようにするから。アーラマンちゃんたちの報告次第で、これから何ができるかも今から考えるんだけれどね。不安なら一緒に来てよ。その方がわたしも安心だよ。」



 問題になっているのは、この旅で王都のいちばん外側まで到着した翌日、マイさんという中年女性に助けを求められたことから始まる一環の件だ。

 剣術道場の主で周囲に頼られる存在だったマイさんの夫が、悪人の非道を訴え出ようとしたところ、悪人の規模が思ってたより大きくて、悪徳商人や不良貴族まで巻き込んだ問題だったんだって。それで、悪人はマイさんたちの息子をさらって人質にして、剣術家の夫さんを呼びつけた。それを、この旅の初めにわたしの弟子に志願してきた“ムキムキ武神流六人衆”のムキムキを見込んで、助けてほしいというのがマイさんのお願い。


 それだけなら、まあ、それも大きな問題なんだけれど、六人衆もただなんとなくムキムキしてるより人の役に立つことでムキムキした方がいいに決まってる。ひと暴れムキムキしてきなさい、と命じようかなと思ったところで、余計な横やりが入ったんだ。


 それが、ベフランと名乗る、宰相さんの部下でスパイだというひと。彼とは、以前に王子様救出作戦の折に遭遇したことがあった。侵略者オーク族との、対決派の王子様とは反対の、和平派の宰相さんの下で、オーク族のスパイと和平派スパイとで話し合いの下交渉をするところだったらしい。

 その話し合いプランが、わたしの王子様救出大作戦の余波で完全に潰れちゃったらしく、彼からわたしは一方的にひどく恨まれていたんだ。


 なんだか話が錯綜(さくそう)しているので、自分でもこうして時々まとめないとわからなくなっちゃう。

 とにかく、そのべフランはわたしに嫌味を言って、要約すると、事件は国が解決してやるから、お前は黙ってじっとしていろ、そう言いたいようだった。

 別に、解決してもらえるんだったらムキムキじゃなくても誰だってわたしは構わないのだから歓迎すべき事態だけれど。そのべフランのやり口。わたしの故郷で変な噂を仕入れてきて、ベラベラ喋られたくなければ大人しくしろ、といいたげな態度が許せない。

 その場で言質(げんち)は与えずに追い払って、六人衆に調査を命じて、国より先にわたしが事件を解決して、べフランに吠え面をかかせてやる。ここまでが昨日のこと。


 問題があるとすれば、シーリンちゃんのお家がベフランと同じ宰相派の派閥なので、わたしが宰相さんに喧嘩を売るとシーリンちゃんのお家の人が困ること。それは避けなきゃいけない。まあ、なんとかなるんじゃないかな。



 で、事件の悪人の調査をしてきた六人衆が報告しに来たというので、待たせている東屋へわたしとヤクタ、シーリンちゃんも連れて到着。

 その場には、アーラマンちゃんとあと3人、確か、バルディア、チャリパ、エスファンダルだ。みんな、服も髪もヒゲもパリッと整えて、神妙な顔をして床に座っている。椅子に座りなよ。

 よく見ると、顔も手も、肌が見える部分は無数の生傷に覆われている。痛そう。えぇー、何があったの、って思うけれど、まずはお疲れ様、ご苦労おかけしました。で、どう?


「まったく不甲斐なき限りにて、死してお詫びせねばならないところ、まずは報告を、と存じまして、恥を忍んで罷り越しました。

 六人衆の四・ダーヴドと六・ファルディンは敵に捕らわれ、我々も手も足も出ず、せめてこの内の誰かは生きて報告を上げねばと血路をひらき、這々(ほうほう)(てい)で逃げ帰る始末。武神流の名を汚しましたこと……」


「ああ、そういうのはいいです。」

 アーラマンちゃんは、実は武力が93もあって、並の軍人が束になって来ても大丈夫なはずだったからおまかせしたんだ。悪人の中に並どころじゃない相手がいるのなら、わたしかシーリンちゃんでないとダメなやつだよ。えぇー、それってどういうこと?


「アイちゃん、わたしは巻き込まれないからね。」

「わかってるって。アーラマンちゃん、どういう敵だったの?」


「は、あれは、愚連隊や貴族の私兵などではない、余程の者……カムラーン兵術らしき技も使いおりましたが、秘剣の(たぐい)……恐らく、王家の秘事にも関わるような、表に出ない種類の剣術家ではないかと。

 ただ、何であれ、武神流剣術総師範の名を…



「そういうのはいいです。

 …シーリンちゃん、ひょっとして、宰相さんがらみの妨害かな。カムラン流だって、どうする? 倒して、シーリンちゃんの弟子にしようか。」


「勘弁してくれないかな。え、ひょっとして、今から悪人退治に行くの?」


「そのつもりだったけど、来ていく服とか選ばなくちゃいけないから明日の朝にするよ。アーラマンちゃん、ゴメンだけどまた明日、案内をお願いします!」


 言ってる途中で、とんとんと肩を叩く人がいる。振り向くと、もちろんヤクタだ。耳打ちの合図をしてくるから、耳を寄せて話を聞く。 

「わかってなさそうだから言うけど、彼らは王都だからオシャレしてるんじゃなくて、死に装束だぜ。任務に失敗したからって、この後どこぞで死ぬつもりなんだろう。」 


 えっ、ホントに? わたしもお揃いの白シャツにするつもりだったのに?

「死なれたら困るよ。明日の道案内もあるし、その後も仕事あるから、死ぬの禁止ね。囚われの2人も助けるから。助けるのは得意なんだ。」


 感涙にむせぶ六人衆の4人。本気で死ぬつもりだったの? 理解に苦しむ。

 それもこれも、勝負は明朝だ!



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