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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第五話 カムラン武神

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70 勝負


 なんで、こうなったんだろう。と、頭を抱えるほど深刻な問題じゃないんだけれども、そのぶん、1人の人間として、女性としての尊厳が危ぶまれる事態に発展しかねない状態だ。



 はるばる5日半の旅を経て到着した王都・シーリンちゃんのお家であるお屋敷。そこでシーリンちゃん家族にご挨拶するためにドレスを借りて、メイドさんたちの手も借りて、人生最高に着飾ったわたしとヤクタ。そのなかでメイドさんたちが妙にハッスルしてしまい、メイドさん同士の着飾らせ術を競うわたしとヤクタの美少女対決が始まることに。

 しかも、その勝負の間に、こっそりカムラン流武術の秘技を駆使してダイエットしていたシーリンちゃんも乱入。何やってたのアナタ。


 で。具体的に何で勝敗を決めるの? 初めてじゃないんでしょ、こういうの。…いつもなら、もっとゲストがいるから?ゲストの意見を聞いて、審査員長が独断で決めるの。結局偉い人の一存なのね。お貴族様だわぁ。

「じゃあさ、もう、そこのボクちゃんに決めてもらおう! ねぇ、お名前なんていうの? ダーラーちゃん。いい名前だねぇ♡」


「待て。赤ん坊に美女対決を審査させるやつがいるか。普通にアタシ怖がられてるから、勝負ついてるじゃねぇか。」


「でも、シーリンちゃんだって仲悪そうなお姉さんに審査員頼んでるのよ。全員に都合の良い審査員はいないよ。」

「待って。お姉様と仲悪くないから。」

「そ…う。妹と仲悪くは、ないわ。」


 あ、お姉さんが喋った。でもちょっと歯切れが悪い。どうなのかしら。


「いや、それならもう親父さん、男爵殿に頼むのが普通の筋だろう。」

「パパさんは、ヤクタを見る目がイヤらしい感じしたから、ちょっと。」


「そうなの、アナタ!」

「お父様、それは……」


 ヤクタの提案を却下したところ、今度はシーリンちゃんママとお姉さんが猛然とパパさんに噛みつく。殺し合いとかじゃないのに刺々しいな。もっと平和にいきましょうよ。


「アイちゃん、ウチの家庭を壊さないでくれるかなぁ……何やってんの?」


「ヤクタがお乳を出して、シーリンちゃんがお腹なら、わたしは足かなぁって。スカート短くするの。どれくらいがいいと思う?」

「やるじゃねェか、膝上まで行っとけ!」

「そんなに?」

「待ってアイちゃん、それはすごくいい。新しい。考えてみれば足は“おみ足”って“御”を重ねるくらい価値があるものだわ。見せていこう、もう15センチ上げよう。」

「ほとんど丸出しになるよ、大丈夫?」


「いい加減にしなさい!!!」


 ママさんの絶叫が響いて、勝負は強制終了に。

 ちょっとノッてきたところだったので惜しいけれど、負けにならなければ、わたしはいいや。


 次から、勝負持ちかけるなら必要なことはちゃんと決めておけ。ヤクタが静かに切れながら凄むと、ビビットな衣装の効果もあって超コワイ。パパさんもメイドさんもシュンとしてる。

 ダーラー坊っちゃんは泣き声も上げられないほど恐怖して、終始空気だった姉婿さんと抱き合って震えている。かわいそうなことをしちゃった。



 いろいろ頑張ったのに、生煮えな結果だ。戦いは始まる前に勝敗が決まっている、と六人衆筆頭さんは偉そうに言っていたけれど、ルール次第で戦いが始まらないこともあるらしい。

 わたしには関係ないと思うけれども、気をつけよう。


 それより、その辺のご挨拶が済んだので、食堂に移動してこれからお食事会だ。もちろん、お楽しみとしてはこっちがメイン。ヤクタも機嫌を直して、なにやらパパさんに絡んでいる。ママさんに睨まれながら。

 さて、最低限のマナーは勉強しているけれど、ドレスを汚さないようには気をつけなきゃいけない。そう考えるとヤクタの、布が少ないドレスは気楽そうだ。スカートを短くしていいかシーリンちゃんに聞くと、今はやめて、と。ママさんはかなり怖いらしい。まあ、わたしは大人しくしていてあげよう。



 領都イルビースでは結局ごちそうを食べる機会もなかったので、ひさしぶり、というか人生初の大ごちそうだ。それも貴族ご飯。思えば、なんとかしてオーク族の司令官さんの晩ごはんにありつけていれば、それもかなりのごちそうだったんじゃないか、惜しいことをした。

 食卓を前にしてつまらないことを考えていると、おお、並び始めたぞ。

 海のなにかのスープ、酢漬けでも干物でもないお野菜のサラダ、塩漬けでも干物でもないお肉を煮たり焼いたりしたもの、混ざり物無しの白い穀物! お料理の名前は頭に入ってこないけれど、嗅いだことがないいい匂い、おいしそう! みんなもニコニコしてる。幸せ家族の食卓だね。


「みんな笑ってるのは、行儀よく座ってるのに目をキラキラさせて口が半開きになってるアイちゃんがカワイイからだよ。ずっとそのままのアイちゃんでいてねぇ。」


「オイ、もう喰ってもいいのか。」

「ヤクタさん待って。お父様、ご挨拶とお祈りを10秒でお願いしますわ。」


「いや、もういいだろう。わたしまで見慣れた食事が旨そうに思えてきた。さあ、いただこうじゃないか。乾杯!」


 パパさんの合図で、みんなで乾杯。食事はどれも複雑な味わいだけど美味。こういう食事がシーリンちゃんのような身体を造るのか。でもお姉さんも姉婿さんも痩せているな。気苦労のせいだろうか。

 やっぱり気楽に美味しいものを食べる人生が最高だね。わたしもまだ育つはず。ストレスは避けて、抱えないようにして、忘れていこう。

今、忘れていること? 忘れてなんかいないよ。このあと、武神流六人衆が調査結果を持ってきてくれるはずだ。スパイさんとの勝負、大急ぎで片付けてストレスにならないようにしよう!


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