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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第五話 カムラン武神

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66 哀しきモンスター


 馬車は重い空気を載せて進む。いつでも暢気(のんき)な調子を崩さない人物が真っ赤な顔でうつむいたまま、膝の上で拳を握りしめてピクリともしない様子が異様だし、秘密の内容が気になりすぎるが聞くに聞けないとなると、話してもよさそうなことが思い浮かばない。


 ヤクタが意外にアテにならないとわかると、シーリンが落ち着きなげにひとつ身じろぎ、咳払いをして口を開く。


「悪いヤツだったねぇ、追い払えてよかったねアイちゃん。」

「ウン。」

「でもアレくらいで刺しちゃダメよ、暴力は最終手段だからねぇ。」

「エェ……?」

「もし王子様のお嫁さんとかになったら、アレくらいのイジワルは優しいくらいだもの。」

「コワイ……」

「男爵の娘だって、いつもイジワルされるもの。笑顔で言い返していくのが、オトナの女よ☆」

「オトナ゙……ッ」

「ピアスも開けたし、オトナの女になるんでしょ?」

「ナル……オデ、オトナノオンナ゙、ナリタイ……」


「オマエは誰なんだよ、なんで(かな)しきモンスターみたいになってんだよ。」

 たまらずヤクタが口を挟み、3人でウヒャヒャと大笑い。マイ夫人はキョトンとしていて申し訳ないが、慣れてもらえればありがたい。そんな内輪の絆である。



「冗談は程々にして。本当に、都会の女性もそんな意地悪するの?」


 正気を取り戻した(てい)のアイシャが問う。


「もちろん。弱そうな顔をしている人がいたら、とりあえず勝ち星を上げたい“強めの弱者”が襲ってくるのは、騎士も淑女も商人も同じよ。平和に過ごすためには、自分のフィールドで強そうな見た目を保つことね。マイ夫人の所もそうでしょ?」

「ヒャィ?はぃ!そうです、ね。」


「アイちゃんもメイクとか、やっていこうね。マイ夫人もそう思うでしょ?」

「は、はぁ。そうおもいますぅ…」


「アタシは舐められたことがねェぞ。こっち来いよアイシャ。」

「ごめんヤクタ。いま、わたしの戦場はあっちだよ。」


――――――――――――――――――――――


 銀細工の手鏡の中にカワイイお顔が浮かんでいます。あ、わたしの顔だ。えへへ。

 手鏡なんて持ってない、って言ったら無言のままたっぷり10まで数えられるくらいの間、呆れられてから「これもあげる」と渡された、小さいけれどガラス鏡。お家にあったポヤポヤの金物の姿見とは格が違う高級品だ。


「さぁアイちゃん。オトナだ、お前はオトナになるのだ! ♪ 白い~お顔の~、キャーンバースーに~ ♪」


 なんだかシーリンちゃんのテンションがだだ高い。古めかしい変な歌まで歌いながら、「適当なものしかないけど、」って断りを入れつつ、わたしの顔に何かを塗りたくってくる。マイ夫人もようやく落ち着いてきたのか、彼女もちょっと楽しそうに協力を買って出てる。大丈夫かな、コレ。

 ちなみにヤーンス町人のお化粧といえば、白粉(おしろい)をこんもり盛って頬紅と口紅をさして、香油をぶっかけるだけなのが伝統派だった。紅はいいのがあるけれど、白粉は、キメが粗くて脂っぽくて、正直全然ダメ。だからお洒落さんはイルビースの街で勉強してきて、知識を門外不出にして美貌の優位を保とうとするのだ。田舎ってイヤねぇ。


 それはそうとして、ただメイクをされている間は何もやることがない。となると、つい余計なことを考えてしまう。今しがたの出来事だ。あの男。


 刺すとか、殴るとかで倒して、勝ったといえるのかと考えると、確かにそう言いきれない気分がある。やっぱり、武神流は最終手段だということに間違いはない。のだけれども、あれだけの屈辱を受けて、秘密を知られて、やり返しもせずにそのまま放置しておけるだろうか。イヤイヤ、イーヤーだー。

 それに、彼が華麗に事件を解決して、してやったりの得意げな顔で報告に来られたりしたらと思うだけで目の前が真っ赤になる。それだけは、あってはならないことだ。


 ならばどうしようか。


 決まっている。先に、わたしが、事件を解決するのだ。そして、後から解決しにノコノコとやって来た彼を笑ってやるのだ。いまさらなにしに来たの、のろま。へへーん。って。

 もちろん、わたし1人でできることじゃない。土地勘もないし、そもそも何も知らない。わたしにできることは、それこそ最終局面を多少強引に解決してあげることくらいだ。

 結局、最終手段だ。結構なことじゃないですか。


 まずは六人衆に探ってもらって、シーリンちゃんとご実家のツテも使えるものは使って、対悪人のアドバイザーはヤクタ。みんな、頼りになるねぇ。うん。どうにかなるんじゃないかしら。


「こら、アイちゃん、いま表情を動かさないで。もうちょっとだから。……こう、目尻をピピっと。…ほらできた。鏡見てぇ。いい感じだと思うよぉ。」


 おぉ、すごい。わたしじゃないみたい。っていうか、目がキリッとして、頬がシュッと持ち上がって見えて、眉も鼻もピッとしてる。ひとことで言って、強そう。シーリンちゃん的なわたしのイメージはこうなんだね。


「どう? これなら“オーガの赤ちゃん”じゃなくて立派な“オグレス(メスのオーガ)”で通ると思わない?」


 あらやだ、この女、自分がナニ言ってるかわかってるのかしら。赤ちゃん呼びは不本意だけど、オークにオーガともオグレスとも呼ばれて嬉しいはずもなく。これは、教育が必要でしょうなぁ。教育、教育。



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