表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第五話 カムラン武神

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/251

60 進路相談 2


 昼過ぎ頃、王都への道のりの半分を過ぎた。


「ここからしばらくが、この旅の難所になります。」

 アーラーマン師範が窓の外からアイシャ、シーリンに説明する。


 いわく、道が険しいなど自然状況下の悪条件はなく、今まで同様だが、王都側からも領都側から離れて、警備が薄い状況を押し付け合っている。その上で、地形は襲いやすく逃げやすい森のそばの平坦地だ。

 そこを、当初の予定では日の高いうちに通り抜ける手筈だったが、諸般の事情から、そのど真ん中で今夜は野営することになった。

 そのための我ら武神流六人衆である、皆様方には心安く馬車の中でお休みいただけばよい。ただ、多少の雑音はご勘弁願いたい。

 また、無いこととは思うが、場合によっては姫様とヤクタ殿にもご助力願いたい事があるかもしれない、あしからず。

 そういうことだった。



 その日の夕食は、前日の宿場で入手できた新鮮な野菜と狩ってきた肉で挑発的なフレグランスを周囲に放ち、一同満ち足りた表情で夜間任務に就いた。

 昼間には馬車に乗っていたヤクタは、懲りずに酒瓶を片手に夜間哨戒に参加している。


 とっぷり日が暮れて、馬車の中ではアイシャとシーリンが外のピリつきを余所事に、横になってくつろいでいる。ただ、会話の内容はといえば。


「ねぇシーリンちゃん。ウチの警戒の外側でブラブラしてる輩が居るんだけど、カムラン流の練習を兼ねて叩きに行かない?」

 などと物騒だ。


「ん゙~?ふゎぁ。…護衛の皆さんのぉ、仕事を取っちゃぁダメだよ…」


 一方の新米剣豪であるはずの人物は、半分堕ちこんでいる夢の国からカムラン武神の人の目をみる目がない事実を証明している。

 アイシャも嘆息しつつ、この夜はバトルの予感がないことも感じ取って、大人しく夢路の後を追うことにして横になる。



 やがて日が昇り、朝の支度、そして歩みを再開する。

 盗賊かと思われる監視の気配は相変わらず遠巻きで、六人衆の武威は思っていたより立派なのかもしれない、と比較的ベテランの方の剣豪も護衛の皆さんを見直すことに決めた。


 そうと決まれば、景色はのどか、馬車は揺らすとお嬢様が酔うのでのんびり、お日様は暑いくらいにポカポカ。差し迫ってやるべきこともない。絵に書いたような平和を享受しながら、心を無にして段取りに身を任せるばかりだ。

 外からは陽気な声が響いてくる。


「暴れイノシシが突っ込んでくるぞ! 3頭もだ!」

「これは! ゴチになります!」

「血抜きのために小休止をいただきたい!」


 これが、一行を混乱させた隙を狙って襲撃しようという盗賊のたくらみだったか馬車の中の人には知る術もないまま、六人衆の段階で混乱なく速やかに処理された。そのまま意気揚々と、しかし悠々と危険地帯を抜けていく。

 夕刻には、知らない間に王都のいちばん外側の領域に入っていた。妙に警戒が厳しい宿場エリアの、気心が知れているらしい宿に宿泊することになっている。



「なんだか、衛兵さんが妙に多くて、やたらピリピリしてて、ヤな町だね。」


 眉根を寄せながらアイシャがもらすと、アーラ―マンがフォローするように解説する。


「都心部でもそうなんですが、オーク族どもの件からこちら政治的に落ち着きがありませんで。しばしば、自警団気取りの愚連隊が大きな顔をして、市街を練り歩いて良民に迷惑をかけているのです。

 国の兵が戦の役にも立たず、盗賊を取り締まりも出来ず、半端者を脅しも出来ず。世も末、というやつですな。まあそれで、カタチだけ、ああやってパトロールして、むやみに良民ばかり脅しつけて顰蹙を買っておるのです。」


 得意げな顔をして嘆く、変な特技をもっている男だ。


「面倒な話だね。その場合わたしは、誰を懲らしめればいいんだろう?」

「べつに姫様が懲らしめなくてもいいのでは?」


 ぐうの音も出ずに黙るアイシャ。横からシーリンが口を挟む。


「アイちゃん、ゆうべも盗賊退治したがったし、どうしたの? バトルは最終手段でしょう。」


 それはそうなのだ。人殺しを(たしな)みたいなどと思ったことはない。あたりまえだ。だが。

 アーラーマンを下がらせて、お茶の出るところで落ち着いて話すことにする。どこからかヤクタが湧いて出てきたが、彼女には居てもらって困るわけでもないから一緒に居てもらう。

 名水自慢のヤーンスっ子であるアイシャは茶の水の臭気に顔をしかめるが、とりあえず口を湿して話す。



「いや、色々考えたんですよ。自分がなりたい自分とか、目指すこと、好きなこと、できることとか。

 そんでさ。結局、わたしはチヤホヤされたいんだよ。あの女騎士さんみたいに。パレードの先頭でキラキラして。まわりで見てる女の子に憧れられたい。」


「ずいぶんブッチャケたもんだな。でも男にモテたいんじゃないんだ。」

「そうなのよねぇ。モテとは違うのよ。それで、それで?」


「そのために一番手っ取り早いのは、やっぱりバトルかなぁって。」


「よし来た、手配は任せろ。」

「待って待って、手っ取り早くなくてもいいんじゃなぁい? 急ぐことある?」


「なんだかねぇ、武神様の武神流はわたしのほぼ唯一の手札として頼りにしているけれど、なんだか別の武神様も出てきたし、どこまで信用できるのかわからなくなっちゃった。これ一本で身を立てるなら、案外、急がなくちゃいけないような気がする。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ