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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第五話 カムラン武神

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59 進路相談


 馬車は、王都まで5日の旅の1.5日目くらいの距離の宿場に逗留しています。

 昨日の遅れを巻き返すべく今日は急ぐ予定だったのに、お嬢様のお尻大事で少しゆっくりの移動になったせいで、早くも2日目で半日分の遅れが生じました。

 わたしのせい? まさかぁ。


 遅れといえば言葉は悪いけれども、遅れて困る旅ではないので気にすることはないのです。肝心のシーリンちゃんにとっても、もちろんわたしにとっても。むしろ、たっぷりのお湯を使ってゆっくりベッドで、それも寝巻き姿で休めるのは僥倖、僥倖。

 ヤクタと六人衆はわたしたちの部屋の警護と外に停めてある馬車の警備の二手に分かれて、のんびりとはしていないみたい。ヤクタはそんなことする必要はない客分なんだけれど、なんとなく彼らとウマが合ってるのでそうしたいんだって。彼もとい彼女はもう本気でカタギを名乗れるかもしれない。


 さらっと言ったとおり、わたしとシーリンちゃんは旅亭の特上部屋の同室。名目上、お嬢様の護衛役、ないし、お付きの人役の設定で、あっちはお姫様ベッド、こっちは部屋の隅の小さいベッドが割り当てなんだって。でも、シーリンちゃんは大きいベッドで2人で寝ようよ、って。友よ! お尻の恨みは忘れてくれたのね! え? それは別?



「ねぇ、アイちゃん。あなたは将来、武術の武神姫?に、なるつもりなの?」


「え、どうしたの、急に。…えーとね、最終手段としては、それにすがりたいとは思ってる。どんぐり拾って生きていくよりは余程マシだし。」

 ベッドの中で。シーリンちゃんはなにか悩んでいるようだ。でも、将来で悩んでいるのはわたしのほうがより深刻だろう。


「あの、ネズミ婆さんの話ね。」

「でも、せっかく道が選べるなら、他にどうしようもなくなるまで好きなだけ選び倒すよ。何も知らないことを勝手に遠慮したってしょうがないよね。」


 わたしの気持ちは最初から変わってない。偉くなって爺やを雇う夢はまだ進展がないけれどね。問題は、何がある中から何が選べるのか、わからないことがわからないことだ。そんなわたしに、お嬢様は納得いかないらしい。



「でもさ、お昼の私はお尻叩かれただけだったけど、あれが実戦なら私、あれで殺されてたんでしょ。アイちゃんも、ちょっと強い人がいただけで、そんなふうに殺されちゃうことだってあるなら、ダメだよ、そんなの。

 アテがなかったらさ、ウチで働いたらいいよ。今みたいに護衛でもいいしさ。他にできることがあったら。あ、アイちゃんパパさんの仕事を継ぐっていうのもいいんじゃない?」


 戦いで死ぬことに関しては、武神様が大丈夫っていうから気にしたことがなかった。でも、なるべく戦わないようにはしたいと思ってるし、やっぱり最終手段だよ。

 あと、シーリンちゃんのお店で働くのは悪くない選択肢だと思う。でも、プーヤーくんの後輩になるのはなんだか癪なので、悪いけどパス。

 お父ちゃんの仕事を継ぐ? それは考えてなかった。っていうか、残念ながら、あんまり知らないから普通に無理だよ。染色の仕事は、容赦なく指や爪も染まるから嫁入り前の娘はダメだって。ヒドいよね。


 でも問題はそこじゃない。つまり、アレですよ。いろいろ言ってるけれど、要するに一番やりたいことがまだ取っ掛かりも見つかってないの。

 恋。



「そうかー。なるほどぉ! 恋に恋してるんだね。いや、これは私が無粋でした! 勝手に、もうちょっと深刻なアレだと思ってたよ。うーん、それなら、王都で出会いの場を見繕ってあげるよ。私も他人事とは限らないし。楽しみだね!」


 なんか、盛り上がられちゃった。まあシーリンちゃんがそれでいいなら、いいや。前にも言ったかもしれないけれど、ヤクタが男だったら悩まず問題解決したのにね。


「ダメよアイちゃん、あの男はダメ!男じゃないけど。あぁ、なんだか貴女の男を見る目が心配になってきたわ! 貴女自身にまかせておけない、私が選んであげる。」


 え、なに言ってるのこの人。もちろんお断り。もう寝ましょう。あなた、疲れているんですよ。

 私も疲れてるから、もう寝るね!



 旅程の3日目、シーリンちゃんのお尻も回復したので、今日は早めに行動を始めて遅れを取り戻す予定。だから六人衆は重槍稽古を禁止。普通に走ってついてきなさい。ヤクタは馬車に入る? 入るの?意外。二日酔い? どこでなにしてたのよ。


「安酒を1人1樽の雑なノリが久しぶりでハシャイじまった。おかげで王都の悪たれ連中の噂はかなり仕入れられたよ。一緒にボコしてひと儲けしようぜ!」


「ヤクタさんはアイちゃんの教育に悪いなぁ。とびきり悪い。ムリすることないのよ、アイちゃん。」


 2人ともわたしの家来なのに、対照的な人材が揃いましたね。年上の部下の意見が割れて困る上司!って、オトナっぽくない? わたし! 今、それ!わたし、カッコいい!

 あれ、シーリンちゃんは家来じゃなかったっけ。


「なァにニヤニヤしてんだよ。ま、王都に着いて暇になってから考えたらいいさ。今は寝てても王都まで運んでくれるんだ。迷子になる心配もねェし、その辺はシーリン様サマだな。」


 それに関しては確かにそうなので、わたしたちも大人しく馬車に揺られ運ばれます。

 ヤクタは寝ちゃったしヒマなので、シーリンちゃんに“オー・シャラカ=ホゥィ”という、わたしの知る数少ない女児遊びを教えて、武神流とカムラーン流の秘奥義を駆使して対決したりしています。もともとのわたしはコレ苦手だったので、5回もすればもう絶対このお嬢様に勝てなくなってしまいました。今なら普通に剣術でも負けてしまうかも。やっぱり、最初に勝っておくのが肝心というのは本当だね。



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