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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第五話 カムラン武神

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58 武神剣士


 皆が輪になって、わたしとシーリンちゃんを囲んでいる。六人衆は目を見開いて、一瞬も見逃すまいと緊張してる。ヤクタは、賭けが不成立になったので不満げながら、酒瓶を片手にリラックスモードだ。使用人さんは薬箱を抱えてハラハラしている。御者さんはマイペースにひとり、馬の世話をしている。仕事熱心だ。



 ちょっとだけ時間を戻る。

 お昼休憩を早めにとって、シーリンちゃんの剣術稽古第1回を開催することになったところだ。


 わたしが持つミラード号は、六人衆を叩いたときに鞘が割れて刃(模造だけど)がむき出しになったので、包帯を巻いて、人を叩いても大丈夫な感じにしている。

 シーリンちゃんは今まで刃物といえば食事ナイフかペーパーナイフしか触ったことがない。なので、なるべく軽いのを誰かから借りようとしたところ、御者さんが護身用に持っていたペラペラの剣が、これなら良さそうだというのでそれを持っている。剣に名前は無いらしい。仮に、彼女のセンスで“お馬さんゴーゴー丸”と呼んでいる。


 最初に、試し斬りにいい感じの岩があったので「こうやって斬ります」と縦に斬って見せて、さあ、横からどうぞ。

 というところで、六人衆が大げさに驚いて斬り口を確かめたり議論を始めたりするのでシーリンちゃんが怯えて、「もうちょっと簡単そうなのでお願い」って。邪魔だな六人衆。

仕方がないので、その辺の木の細い枝、太い枝、幹、と斬ってもらって、じゃあ、実戦いってみようか。



 木の幹を、彼女のふとももくらいの太さのを一刀両断にできて、「気持ちイイ!」と童女のようにピョンピョン飛び跳ねて嬉しそう。でも体全体ユッサユッサして、重そう。ちょっと痩せたほうがいいかもよ。

 体の話は置いておいて、六人衆がこれまたいい感じで驚いて褒めてくれるから余計に気持ちいいのかも。ひとりでやってたってつまらないからね。やっぱり六人衆、居てもいいかも。


 

 そして今。

 シーリンちゃんに向かってビシッと剣を構えてみせると、ようやく彼女も本気を出した、締まった表情を見せた。考えてみれば、この女のそういう顔を見たのは初めてだ。


「まずはかかってきなさい!」

「ハイ、先生!」



 10歩ほどの間をおいて向かい合っていて、「さあ、どうぞ」と言ってから一拍おいて、彼女の輪郭がブレた気がした。瞬間、突風かと見紛う斬撃が、一瞬で倍も膨らんだかと思うオーラのイメージごとぶつかってくる! 速い!


 とっさにいなす(・・・)。向かってくる力を外側に曲げて運び、空へ打ち上げる。でもシーリンは逆らわずにその力を回転に変えて、横倒しの姿勢で下から、さらにもう一撃狙ってくる!

 そのカムラン流の反撃は、武神流の記憶の中に対処法がある。頭が低い位置にあるのだから、顔を踏み潰せばいい。…って、ダメ、絶対、ありえない。次善の策は、高度な技になるけれども、下から打ち上げてくる力を、さらに外側上方へ引き上げて宙に舞わせる。そのお尻に、剣の側面の平らな部分でペチンと一撃。


「いったぁい!」

 空中で叫ぶものだから、そのまま体の制御を失ってさらにお尻から地面に落下。

「ふぎゃっ!」


 オオッと盛り上がる観客たち、目を覆う使用人さん、向こうでは馬が暴れ出して御者さんが必死に対応してる。

「見えたかッ、あの技!」

「あの足運び、剣のさばき…興奮しすぎて訳がわからん!」

「シーリンお嬢の動きは確かにカムラーン兵術を思わせるものがあった。」

「おれの角度からはよく見えなかった、どうなってたんだ!」



「今日のお稽古、以上! よく動けてたから、自分で目を回さないようにしたら良くなるよっ!」


 外野が騒いでいるけれど、一応、それっぽいことを言ってみました。聞こえてるかな。起き上がれずに悶絶してるよ。強く叩いてはいないと思うんだけれど、その後でドスンと打ったからなぁ。チャリパさぁん、大丈夫そうか、見てあげてくれない?


 まさか、男性の使用人さんにお尻を捲くって見てやれともいえず、こんな時の頼りのおっ母さんに頼んだけれど。


「こんなの怪我じゃないよ、半日痛むだけサ。我慢おしっ!」

 男たちを追い払ってからおもむろに確認して、無事だといってパッシィァと尻を叩いて、おしまい。いや、叩かなくても。すごくいい音がしたけれど、ダメ押しに叩かなくても。



 陸に打ち上げられたクジラのように声も出せず苦悶しているシーリンちゃんを使用人さんと一緒に馬車に押し込み、休憩終わり。旅を再開します。

 今度はわたしが彼女を膝枕。でも、この揺れは堪えるだろうなぁ。


「……剣術、もういい。」


 稲妻の如き判断力でシーリンちゃんが諦めちゃった。もうちょっとだけ、頑張ってもいいんじゃないかな。武神様のお仲間同士、ね?

 といっても、わたしもちょっとはしゃいでやりすぎたかもしれない。なんとなくお互い気まずい感じで無言のまま、時々痛みに身悶えする彼女の背をさすってやりながら、一行は街道を進んでいくのでした。



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