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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第五話 カムラン武神

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57 ダブル武神


 王都への旅の途上、深夜。一行を率いる立場にある女、シーリンは謎の声に誘われ、ひとり森の中の古い祭壇を(おとな)う。そこで、武神と名乗る荘厳な声に、“邪悪なるエルヤ”を討つべしとの使命を申し付けられるが……



[クソ呆けのカムランめが、ワレごときのなにが武神だ! 死んだ後まで血迷うとは何事か!]

[ふぅー(食い気味に溜め息)。エルヤ。老いぼれ。脳から骨から魂まで筋肉の貴様が武神どころか悪霊を名乗るのもおこがましいと言うのに。貴様などは悪筋肉を名乗れ。]


[フン、ワレは生前から俺の邪魔しかしない男だったが、800年経ってもなお俺の邪魔しに出てきたか。ならばあのアイシャも見たであろう。なかなかの娘っ子だ。残念だったな、俺の宿願はもう晴れた。さっさと()ね。]


[はッ、当代の雑魚狩りで満足とは、その筋肉も耄碌したものだな。そうやって見ているがいい、今度こそ、我に替わってシーリンが貴様のアイシャを倒し、我が武術の最強を証明してやろう。]



「あのッ!」


 2つの声の言い争いに挟まれたシーリンが、たまらず声を上げる。

「どういうことなんです? 私、何をしなくちゃいけないんですか? あのっ、帰っても?」


[待つがよい。力を授けてやろうというだけだ。大した用向きではないゆえ、(しば)し、くつろいでおれ。]


[それがダメだというのだ。あのアイシャはこの世に有為の人材ではナイからこそ凶悪極まりない武神流の秘奥を伝えたのだ。その女は違うかろう!?]


[魂の筋肉も()えたか老いぼれ。女の1人や2人で変わる世なら変わればいいのだ。言っておくが、モルヴァーリドもサウレも目を覚ましているぞ。せいぜい気をつけることだ。]

[……!!?]


[我が子シーリンよ、わがカムラーン兵術十八般、余すところなく汝に伝えた。話の種にでも、エルヤの子・アイシャとやらと稽古でもしてボコボコに殴ってやれ。よいな。]



「…はぁ?」



 アイシャたちが茫然自失のシーリンを発見できたのは、夜明けも近い頃になった。

 シーリンの気配を追うアイシャだったが、ぼんやり放心している気配は追いにくいうえ、武神たちの爆発的な気配のせいでセンサーが馬鹿になったように感覚が麻痺したためもあり、漠然と森の中を探すしかなかったのだ。


「いた、シーリンだ!」

 真っ先に見つけたのは、森のスペシャリストの感覚も衰えぬヤクタ。

 アイシャは夜の森の中で心を乱しがちになり、武神流歩法にも乱れが出て体力を消耗して気息奄々( き そくえんえん)としている。六人衆にとって護衛対象を見失うことは失態であるが、このような失踪は責任外であるのか、意外にあまり気にすることなく、朝食になる肉を狩りながらブラブラと捜索していた。



「はぁー、ほかの武神様のちょっかい出しなのね。いや、わたしの武神様が正義よりも悪寄りなのはわかってるから、さもありなんとは思うけれど。いやぁ、それより今は眠いね。」


「ごめんねぇ、アイちゃん。ヤクタさん、皆さんも、ご迷惑をおかけしました。今日はお休みにします?」


「根性なしはアイシャだけだ。どうせソイツは馬車の中だから、今日も進もうぜ。」


 ヤクタの提案に六人衆は力強く、使用人と御者は力なくうなずいた。


――――――――――――――――――――――


 馬車の中で横になって、シーリンちゃんの膝枕に頭をのせています。が、馬車の振動を全身に受けて眠るどころではありません。つらい。


 ふと、気になってシーリンちゃんの目を覗き込んでみる。いつも通りに眠そうな細い目だけれど、いまは少しだけやる気に溢れた感じに見開かれている気がする。葡萄色の濃い紫の目も心なし赤っぽく見える。これは寝不足で白目も赤っぽいからかもしれない。


「んー? アイちゃん、どうしたの?」


「シーリンちゃんは、そのカムラン武神の使徒になって、わたしの敵に回るとかじゃないの?」


「私はイヤだけど、アイちゃんはその方がいい?」


「滅相もない。仲良しが一番だよね。男の人とかヤクタの考えることはわからないよ。」


 ヤクタに関しては()(ぎぬ)を押し付けているけれど、どうせそんな事も考えるだろう。それくらいのノリでないと生きていけない世界で暮らしてきた人が少なからずいることは知ってる。でも、それと理解してあげられるかは別だ。

 色々思うことはあるのだけれども、ひとつ確認しておかなきゃならないことがある。


「で、シーリンちゃん、強くなったの?」


「まだ試してないから、わからないよ。でも、なんだかイイよね、夢があるわ。私もオーク族をバッタバッタと倒せるのかな。ねぇアイちゃん、やっぱり、次の休憩時間に剣の持ち方とか教えてくれないかな。」


 そうよね。わたしも最初、剣の刃は鞘の中にあることとか知らなかったものね。お稽古してあげよう。なんだかんだいっても、いきなり負けちゃあ、正直なところ悔しいし。最初に一度は勝ってみせましょう。こういうのは、最初が肝心。


 それはそれとして、女のひとの膝枕は実は初体験。これは良いものだ!





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