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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第五話 カムラン武神

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56 ふたたび森の中


 予定外の行軍待ちで時間を大きくとられたそうで、今晩泊まるはずの宿場にたどり着けるのは深夜になるらしい。出発前に時間をとられたことも響いているらしく、使用人さんと御者さんには、わたしと六人衆で「さーせん」って頭を下げました。

 それで、事故が起きやすく馬の負担にもなるけれど夜っぴいて進んで宿場まで行くか、もちろん危険もあるけれど手近な所で今日は野営をするか。という選択肢ができると、誰より先に一行の最高権力者・シーリンちゃんが「この辺でキャンプ!」と決定を下しちゃった。

 どうやらこの女、あんまり帰りたくないようだ。


 野営も何度かこなして、手慣れてきたわたし。でも今回は一気に十人以上の大所帯になるから勝手が違う。食事の用意ひとつとっても「武神姫様の手料理を感激していただきなさい」と買って出たものの、量的にワケわからなくなっちゃって、最後には追い出されたわたしは、先に設営を追えて鍛錬を始めた六人衆に稽古をつける流れになってしまって、お料理は使用人さん中心にヤクタとシーリンがちょっと手伝って、完成。

 ちょっと八つ当たり気味の激しいお稽古になりました。



「そういえば、お稽古をつけてあげるんだから、お月謝をいただかないといけませんね。そうしよう。月に銅貨20枚! 持ってくるように!」


「それはどういう数字だよ。」

「町の手習いの先生がそうだったんだよ。お月謝持っていく日は緊張してたものです。」

「いや、子供相手じゃないんだから、アイちゃん。」


 偉そうな先生役をするならばと思いついたことを言ってみたけれど、どうやら不評のようですね。でも、あんまりたくさん貰って、その分期待されても困る。ちょうどいいくらいじゃないかな。月2000イェン相当。


「馬鹿にされては困る。我ら貧乏道場と自嘲したとはいえ、そこまでの文無しではない。月にそれぞれ銀貨20枚…15……10…銀貨10枚ずつお出ししよう! なに、我らがその辺の道場に押し入って“指導”してやれば自然に“礼金”が発生するので、たいがいカネが無いということはないのです!」


 そんなに? 月に銀貨60枚ももらえるなら、ちょっと話が変わってくるかも。ふむ。まあ、こちらから出せるものは変わらないけれど、くれるというなら貰いましょうか。



 そんなこともありながら日も暮れて、夕食もすませて、私とシーリンちゃんは馬車の中で、ほかはそれぞれに就寝。のはずでしたが、なんだか妙な胸騒ぎ。

 シーリンちゃんがお花摘みに、って出て行って、10分は戻ってきません。これヤバくない? どうだろう。ちょっと相談だ! ヤクタぁ。



――――――――――――――――――――――


 ランタンの灯が木々を照らしている。月もない夜、心細くもこの小さな灯火だけを明かりとして、それ以外の世界は漆黒の闇に閉ざされている。


 森の中だ。

 光もなく、音さえ静まり返っている。自分の足音と息づかいが耳を塞ぎたくなるほど大きく響く。

 手に持ったランタンが揺れて、影がゆらゆらと踊る。普段なら、(きびす)を返して一目散に逃げているだろう、泣きたくなるような不安を視覚化したような風景に包まれながら歩く。ふらふらとよろめきながら、しかし確かな目的をもった足どりは、森の奥からの呼び声に誘われてのものだ。


 灯が照らす、その持ち主の顔はシーリンだ。すでに泣きべそを浮かべているのは、先ほど風の音に脅かされたからか、その前に何とも知れぬ獣の唸り声を聞いたときからか。それでも歩みは止めない。声が呼んでいる。シーリン、シーリン、こちらだと呼んでいる。



 シーリンが“呼ばれた”のは就寝前、一息をついてからのことだ。それまでは、武神流の面々とヤクタ、それに自分もにぎやかに騒いでいて、静かな呼び声など、あったとしても耳に入りはしなかったのだが。

 呼び声が聞こえだしてからも、喧騒がまだ耳に残っているのか、気が高ぶっているのかと考えて早く寝付こうと試み、アイシャを抱きまくらにしようとして拒否され、寂しくなった心につけ込むものだから、ついつい誘い出されてしまうシーリンだった。


 馬車が停まっている、川から程ない距離の石ころだらけの草地から森に入り1時間ほど。森に入って最初のうちこそたどたどしい歩き方だったが、いつの間にかスイスイと進むようになり、気づけばかなりの距離を踏み入っている。


 まばらだった木々はやがて密になり、空間を埋め尽くすように枝や蔓が縦横に伸びる。その間を、まるで熱に浮かされるように茫洋と、しかし最短のルートを進む。そのさまは、まるで武神流の技を使うアイシャだ。


 そして、やや唐突に目的地は現れた。

 絡まった木々の中に、古い古い石組みの祭壇が築かれている。高さはシーリンの身長の半分程度、幅、奥行きは両手を広げて3人分ほどの大きさがある台形の構造物だ。正面が階段になっており、上った先は舞台のように平らな床になっている。

 誘われるまま祭壇の中央まで歩くと、ふっとランタンの灯が消え、呼び声よりもはっきりした声がシーリンの頭の中に響いた。



[よくぞ来た、子よ。我は、我こそは武神である。跪拝(きはい)せよ。]


 厳かな、重々しい、神性あふれる声色だ。言われるまま、シーリンは膝を折って座り、祈りの姿勢をとる。


[善きかな。善きかな。我が子に申し伝える使命がある。心して聞くがよい。

 我が子よ、汝の連れに邪悪なるエルヤに(たぶら)かされ、道を誤っている娘がいる。今より汝に貸す力をもって、かの邪悪を討ち、魔道に沈まんとするあわれな魂を(ただ)すのだ!]


 衝撃的な話に、シーリンは思わずぽかんと口を開いたまま天を見上げる。

 相変わらぬ闇夜だが、闇に目が慣れたのか、天を埋め尽くすような星の光が空を満たしていることに気づく。波打つほどの星々の瞬きがシーリンに語りかける。喝采する。祝福する。

 流れる涙を拭わぬままに、決意を噛み締め、決意をもってうなずこうとしたとき。



[ちょぉーっと、待ったァ―!!]




新たな厄介事が巻き起こっていますが、しばらく隔日の投稿になっています。

お見捨てなく、よろしくお願いします。


次回は「57 ダブル武神」

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