50 情報屋 2
「あぁー、なぁ、まぁー、そりゃあ、アレだよな。」
久しぶりに会った情報屋は、禿げ上がった頭を撫ぜながら煮えきらない言葉を漏らす。
前回会ったときは3つの目のうち右の上の目だけが開いていたが、今日は左目だけが開いていて右の2つの目はひどく潰れたようになっている。その左目も、眠たげに細められている。
「人探しに必要なのは、まず本人の持ち物。血縁者の体の一部、体毛とか爪とかな。髪の毛を使うことが多い。あと、最後に会った場所、向かった方面などの情報。費用にとりあえず銀貨10枚、ややこしくなってくるようなら青天井で。どうかね。止めといたがマシだと思うぜ。」
「そんなわけにはいきません。髪の毛が必要ならどうぞ。全部で足りますか!」
意外にも乗り気薄なナヴィドに、噛みつくようにアイシャが詰め寄る。
「いや、10本もあれば足りる……いや、アイシャちゃん、その髪、売らねぇか。銀貨10枚で買うよ。差し引きして、タダで探してあげよう。」
急に怪人の商売っ気が頭をもたげる。
「バカ野郎、それでその髪を金5枚以上で売るつもりだろう。ボッタクリの算段はほどほどにして、頼まれたことだけやりやがれ。」
ちょうどいいタイミングのツッコミに苦笑しつつ、ナヴィドはチョイチョイと、睨みつけているヤクタを手招きする。
「俺ァ“吉報”ナヴィド様だからョ、カタギ衆に悲報を伝えるのは慣れてねぇんだよ。あの嬢ちゃんも、友達から聞かされる方が落ち着けるだろ。お前さんから言ってやってくれ。」
「まだ何もやってないだろ、そんなにダメか、やっぱり。」
不良どもが耳打ちしあっている間、アイシャは髪の毛の良いのを選んでプツプツプツプツと抜いている。「あぁぁ、もったいない!」「何がもったいないもんか、売りもんじゃねェや。でももう抜くな、禿げができちまうぞ。」
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結局、その髪の毛と銀貨を預け、簡単なヒアリングの後に、明日結果が出るとのことで宿に引き返しました。さりとて、やることもないし、お腹も減らないし。
お父ちゃんが大変なことになってる間、気楽に遊んで阿呆なことをやっていたと思うと自責の念が半端ではないです。いっそ、マルハゲになっていたら少しは念が晴れていたかもしれません。
帰り道、ヤクタは寄るところがあるって言ってどこかへ行ってしまって、わたしは1人、広めの宿の部屋のベッドに寝転がって、眠る気にもならず寝返りを打ち続けています。
そうだ、叔父さんとこへ行こう。進展はなくても、他になにかやれることがあるかもしれない。
そう思って立ち上がったとき、部屋の扉が開いてにぎやかなのが入ってきた。
「飲むぞー! アイシャ!」
「鹿肉ベーコンがあるよ、アイちゃん! 部屋で焼いて食べよう!」
「…ちーっす。」
シーリンちゃんに、誰かと思ったらプーヤーくんまでいる。
「わたし、傷心でしんみりしてたんだけど。」
「ベッドの上に仁王立ちしてか? 気持ちはわかるが、打てる手は打って待ちのターンなんだから、焦ってもできることはねェさ。酒ってのはこういうときのためにもあるんだ。」
「19歳が14歳に言うセリフじゃないと思わない? あなた、本当はいくつ?」
憎まれ口を叩いたものの、目の前においしそうな食べ物と気のいい友人たちの笑顔が並ぶと、悩む心と裏腹に健康な体はググ―っとお腹を鳴らす。え、本当にこの部屋でベーコン焼くの?
みんな気を使ってくれてるので、仕方がないから乗ってあげよう。それはいいけれど、ひとつ聞きたいことが。
「プーヤーくんはなんで居るの?」
「ほら見ろ、こういう奴だ! お呼びでねぇんだから、おいら帰るぜ!」
「アイちゃん、それは言葉が違うわ。どうして一度別れたのに、私たちと合流できたのって聞きたかったのよね?」
正直、言葉通りだけれども、別の意味のほうがスムーズに話が進むなら、それで。
「プーヤーちゃんは路銀を稼ぐために、私のお家の商家のこっち支部で働いてたんだよ。薪割りとか、お掃除とか。だから、連れてきちゃった。」
「シーリン姉さんの家だなんて知らなかったんだよ。クソ、そこまでお嬢だって知ってたら最初からもっと媚を売ってたのに。」
よく見ると服も髪型も少しはマシになっていて、前よりは見られた感じの青少年に化けかけている感じ。でも、仕草はまだまだ子供だね。ふてくされた顔で皿の肉に手を伸ばして、ヤクタに横からかっさらわれて、そのまま争奪戦してる。
わたしはおまんじゅうをつまみながら、みんなのにぎやかしを耳にしつつ、お父ちゃんとお兄ちゃんの思い出など話して、いつの間にか眠っていた。




