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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第四話 村と街と人

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47 若者の夢


 朝の光を浴びても、心は晴れてない。


「未来を変えるンならさ、今日この村も焼いたら、流石に同じにはなるまいよ?」


 朝イチで過激発言をかましたのはやはりヤクタ。昨晩のうちにシーリンも事情を聞かされて、信じたかどうかはともかく、わたしの気持ちに一定の理解は示してくれている。それでも今の発言には眉をしかめたし、わたしとしても表情筋を使わずに「冗談は程々にして」と流したい。



 そんな宿の部屋にノックして入ってきた少年は……誰?


「おはよう。調子はどうだい? なにか欲しいものはあるか?」

「欲しいもの……あなたの自己紹介かな。どなた?」


 垢抜けない、麦わら帽子に白のタンクトップと半ズボンが似合いそうな田舎少年の彼は、例のスパイ農夫さんの息子で、名をプーヤーというらしい。よく見ると、顔は整っていて石8に宝石2の原石って雰囲気。探究心という意味のある名前だけれど、プーヤー。かわいい。

 彼には不思議になにか通じるものを感じる。若く見えたけど、同い年だそうだ。わたしも年齢より若く見られがちだからね、お仲間だ。


「親父どもはこれからどうするか一晩中グダグダ相談してて、答えが出る気配がねぇ。オークどもが負けたんなら、おいらはもう見切りをつけた。そこの川から船で領都に、それから王都に行く。姉さんたちも来ねえか。船賃は安くするぜ。」


 なんという、渡りに船。お申し出はこの上なく都合の良い展開だけれど。


「わたしは、途中のヤーンスの町まで連れてってくれたら嬉しいな、ヤクタも。シーリンちゃんはどうする?」

「え、だめ、まだ放り出されたら困る。アイシャちゃんについていかせて。」


 と、いうことなので、回り道になると難色を示されはしたけれどもプーヤーくんの船に同乗しつつ、わたしたち3人はヤーンスにたどり着けることになった。


「いくらアイシャが迷子になりやすくても、船で川沿いに揺られながら迷いはしないだろ。とんだラッキーだな。」


 ヤクタがわたしをせせら笑う。いじわるさんめ。そんなヤクタは、寝起きで部屋の中なので裸同然に透けちゃってる薄着で、プーヤーくんは顔を真っ赤にしながらも目を皿のようにしてその肢体を心に焼き付けているもよう。裏切り者!



「あの、総司令官のメレイって人はオーク族の中でも穏健派で、占領地の領主にもできるだけ便宜を図って、なるべく略奪も禁止することで有名だったらしい。」


 朝早くからこっそり船で村を離れ、一息ついたところでプーヤーくんが愚痴りだす。

 川面にはうっすら霧がたゆたい、周りの風景はあまり見えない。村の大人たちから見えづらくもなるから、好都合なんだって。


「そんな人だから、親父たちも貴族の和平派連中もへーこらして、安全を買おうとしてたってこったけど、そのぶんオークの内輪で敵も多かったらしくてさ。そりゃ、占領地の役人を厚遇したら、そのぶんだけオークの身内の出世ポストが減るわけだからフザケンナって話だよな。ま、味方に殺されるのは時間の問題だったんだってさ。」


 なるほど、そこに体よく現れたわたしに暗殺の罪を押し付けて死なせたんだ。メレイさん、いい人っぽかったのに。最後にわたしを殺そうとしたあたりはよくわかんないけれど、もっと上手く話せれば友達になれることもあったのかな?


「それでさ、オークの司令官の後任が誰になるにせよ、そのメレイより厳しくなることはどうしようもないんだ。だがら、アイシャを捕まえてオークに差し出すか、さもなけりゃいっそ、サディク王子に寝返って今までの情報を全部差し出して歓心を買うか、それだけを何時間もアレがダメだ、コレがダメだって同じことをぐるぐる喋ってんだよ。」


「プーヤーくんはどう思うの?」


「おいらか? あんな村、もうどうでもいいよ。親父どもはあと20年も土を引っ掻いて死ねりゃ満足なんだろうが!そんなの、クソじゃねぇか!!? 俺は、都会に出るんだよ!!!!」


 声、おっきい。でも、あぁ、少年の夢だね。キュンとしちゃう。なぜだかわからないけれど、わたしはプーヤーくんに点が甘い。


「都会にはきっと、ヤクタ姉さんみたいにキレイで、シーリン姉さんみたいにいい匂いのするふわふわの娘っ子がたくさんいるんだ! 夢が膨らむぜ!」



「私はブサイクだっていうのね、プーヤーちゃんは。」

「アタシは臭いか、プー助。ニオイがわからないようにしてやろうか。そうだそれがいい。」

「ねぇ、わたしは? プーヤーくん。わたしは?」


 船の操作はヤクタにも心得があったので、あわれプーヤーくんは小舟の上に居場所を失って、縄に繋がれて残りの時間、泳いでついてくることになってしまった。がんばれ男の子。



――ねぇ、武神様、武神様。まさかひょっとして、あの子、例のネズミ婆の4人目の男だったりする?

[おや、質問タイムをこんなことに使うかね。答えは、その通りだ。他に聞きたいことはあるか?]


――あの、わたしは運命的なものを彼に感じたんだけれど、彼は感じてないの? じつはネズミ婆、彼にとってただの都合のいい女だったの?

[都合の悪い女と一緒にはなる男はおらんだろう。だが俺は武神だ、恋愛神じゃない。その問いはお門違いだな。]


 ほんと役に立たない神様だよ!!!



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