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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第四話 村と街と人

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46 村人


「何があったかは、話してあげるよ。わたしも聞きたいことがあるし。

 あ、そうだ、お礼言わなきゃ。死天使の件、報告上げてくれてありがとう。スムーズにメリー?…マ、メレイさん。メレイ司令官に会えたよ。」


「会ったのか!いや、俺には雲の上の人だから見たことなんかないんだが。で、どうなったんだ、何があったんだ!」

「待って、順番つけて喋るから。茶菓子は出ないの?」


――――――――――――――――――――――


 宿がわりの村長宅で、ギシリと鳴き声をあげる古めかしい椅子に腰掛けると、朝から歩きづめだった疲れが溜め息と一緒に出ていきます。傾き始めた山吹色の日の光が差し込んで、ちょっと眠たくなるかも。シーリンは寝てもいいよ。起きて聞いてる? じゃあどうぞ。


 白湯と、お菓子は麦のお煎餅に砕いたナッツも入ってる質実剛健なもの。甘くも塩っぱくもない。悪いものじゃないけれど、オーク帝国じゃ最前線でもバター茶とシナモンの揚げ菓子がいただけると思うと、豊かさの格差を感じるね。

 なんでヤクタが怒るのよ。お菓子?ついてきたかった?イヤでしょ。ムリ言わないの。王都民のシーリンは揚げ菓子とか普通に食べられるんじゃない?シナモンは無理? へぇ。あ、いや、話しますとも。あ、晩ごはんも出るの?ありがとう。で、ですね。



 まあ、普通にモン…ナントカオーク帝国軍の正面玄関からお邪魔して、ちょっと待たされたけど、スパイさんたちから報告が上がってたから、総司令のメレイさんが会ってみたくなったっていうことで、通してくれたんですよ。

 それで他愛もないお話をして、金貨100万枚でメレイさんの部下にならないか、って誘われたんですよ。100万枚ですよ? すごいですよね。なんて言ってたっけ、これが帝国主義だ、皆で豊かになるんだ、みたいな。

 でも、ちょっと考えさせてください、みたいな話にしたら、急に護衛の人たちが襲いかかってきて。困ったから、メレイさんをちょっと脅かして、逃げようとしたんです。そうしたら、何でかわからないけどメレイさんの側近の人が、メレイさんを殺しちゃって。ええ。アサシンだーって自分で言いながら、自分でメレイさんを刺したんです、あの人。


 そうしたら、まあわたしも逃げなきゃいけないから、灯籠とか松明とか倒しながら逃げて、ついでに王子様も助けて、そうしてるうちに火が広がって、火薬庫まで延焼したみたいで本陣が大爆発して、びっくりしました。

 で、逃げ回ってたら、ヤクタお姉ちゃんが王子様の味方の軍隊を引き連れて助けに来てくれて、わたしとサッちゃんは助かって、王子様軍が暴れたのでモン帝国は隣領まで逃げて、今に至るわけです。たいへんでした。


――――――――――――――――――――――


 いけしゃあしゃあと都合良い省略を含みながら、あまり上手でない説明で昨日の出来事を話すアイシャ。

 理解に苦しむ可怪(おか)しい部分は全体的に多々あれど、あんまりにも全部が怪しいので疑いだせば信用できる部分がひとつもなくなる。


「つまり? 俺たちの報告のせいで、獅子身中に人喰い虫を入れちまった。ってことになるのか?……なんて、こった。」


「そうなの? ヤクタ。」


「アタシに聞かれても。その総司令を刺した側近?辺りがどっかに責任転嫁するなら、そうなるだろうな。あっはは、スパイなんてそんなもんさ。」


「酷い話だね。シーリンちゃんはどう思う?」


「へ?私? あー、そういうことだったらぁ、お兄さんの報告のお陰でサディク殿下を助けられたわけですから、前から殿下の味方だったぁって殿下に言えば、この村のお手柄になるんじゃないですか?」


 意識の外から腹黒さ漆黒レベルの提案がなされて、一同が黙り込む。そのまま、言葉少なに夕食も平らげ、村長宅の客間の寝室に入る。



 夜。

 季節は初夏に向かっており、旅の外套を脱いで浴びる夜風が心地よい。

 アイシャたちは村の夜の散歩を楽しんでいる。アイシャは思う所あって1人で歩きたがったが、ヤクタがアイシャ単独行動を言下に却下し、シーリンは仲間はずれを拒否し、3人でゾロゾロ歩いている。


 月が出ているとはいえ、夜歩きのプロと言ってもいいヤクタと違い、シーリンはあちらで蹴躓(けつまず)き、こちらで何かにぶつかり、そのたびにヤクタが手を貸している。不思議に、アイシャが土地勘があるようにスイスイ歩いている。


「やっぱり、この村、知ってる。あっちの川に渡してあるボロボロの板橋のちょっと先まで行きたいけど、来る?」


「なんだよ、面白そうだ、道道、喋れよ。」

「板の橋?…それどうやって渡るの? ヤクタお姉ちゃぁん、頼りにするねぇ。」「同い年だろうが、シーリン。」「アイシャちゃんずるーい! 自分だけお姉ちゃんつくって、ずるっこだー」



 架けたてピカピカの“ボロボロの板橋”を渡り、目的地、つい先日まで人が住んでいたように小綺麗な“あばら家”の前に到着した一行。シーリンの足元はずぶ濡れで、恨みがましい目線が注がれるのにも気づかないアイシャが独りごちる。


「ここがネズミ婆の(つい)棲家(すみか)だよ。20年も放浪するっていうから余程遠くまで行ったのかと思ったら、こんなにヤーンスの近くで。」


 なぜ、流れる涙を止められないのだろう。アイシャは目から溢れるものをポロポロこぼしながら、思考を麻痺させて立ち尽くすばかりだった。



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