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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第三話 オーク

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44 麗人

「できればぁ、王都まで、せめてイルビースまで、送っては頂けませんでしょうかー?」


 そう持ちかけてきたのは、同じ天幕に泊まっていた民間人女性。若いけど大人びた、おっとりした美人さんだ。名はシーリンさん。

 お家の事情で、いまオーク族に占領されている隣の領都でかつて働いていて、そこから避難中に迷って、連れとはぐれて、足を怪我して、二進(にっち)三進(さっち)も行かなくなって街道に座り込んでいたところをこの軍に拾ってもらっていたらしい。で、軍隊も移動するからいつまでも居座れないし、怪我も良くなったから、同行したいんだって。

 わたしとしては、親近感が持てるどんくささ、嫌いじゃない。イルビースまで送ってくくらいは、やぶさかでない。

 


「なにっ、帰ってしまうのか?」


 と、謎の驚きを示したサッちゃんこと王子殿下様。一体なにをしに来たんだ、って、あなたを助けに、だよ。戦争をしに来たんじゃないんですからね。


「……うむぅ、父御(ててご)のためとあらば仕方ない。だが、昨晩言ったことは本気だぞ。それにはアイシャの力が必要だ。所用をすませたら、なるべく急いで戻ってきて力を貸して欲しい。」


 お小遣いがもらえると聞いて喜んだ反面、これからはサッちゃんのほうが何くれとお金が必要な状況なはずなので、銀貨と銅貨を100枚ずつもらいます。「余の身代金代わりが、銀貨に、銅貨か」とショックを受けている人もいるけれど、金貨なんてなかなか使いにくいもの。庶民にはこちらが嬉しかったりします。



 当座の行動予定。まずヤーンスの自宅を確認して、まだ父が帰っていなければ、普通に街道を引き返して領都イルビースに戻る。で、ミラード叔父さんを訪ねて、父の行き先に心当たりがないか聞く。その先はそれから考えよう。

 シーリンちゃんはとりあえずイルビースまで送っていく。それでいいよね、ヤクタ。


「まぁ、そんなとこだろうな。」


「妙な顔してないで、言いたいことがあったら言ってよ。ヤクタになんの得もないことをやってる自覚はあるんだから、」


「いや、アタシがアイシャについて行ってるんだから、そこはオマエが気にするところじゃないさ。シーリンのことも、好きにやればいいし、フォローもするよ。」


 なんだろうね、このイケメンっぷり。もうヤクタが男だったらよかったのに。


――――――――――――――――――――――



 そういう成り行きで同行者になった、シーリンという人物。

 歳は19歳、ヤクタと同い年だ。のんびりしていたら婚期を逃しかけていて、この戦でさらに遠のいたという。見かけでは20代半ばにも見える、落ち着いた風情がある。

 背丈はちょうどアイシャとヤクタの中間くらい、丸顔でちょっぴりふくよかな印象だが、肥満ではない。とはいえ運動能力は普通に低そうだ。

 髪は暗めの金髪で緑っぽくも見える、山鳩色。その長い髪を三つ編みにして頭に巻き、帽子に収めている。あまり似合っていないとアイシャは思ったが、自分でできる旅装の結い方がこれだけだということ。目は細く、瞳は葡萄色。こんな状況でこんな状態であるにも関わらず品が良く、ただものでない雰囲気がある。


 そんな新しい仲間も引き連れ、朝のうちに王子から下っ端まで忙しく走り回る戦備(いくさぞな)えの陣を後にして、まずはヤーンスを目指して出発したアイシャたち。しかし歩きだして間もなく、いくばくかの問題が発生した。


「そっか、普通の速さで歩いていかなきゃだよね。」

「ああ、あの早歩きにシーリンはついていけねぇだろ。」

「なんでしょうか、わからないけど、すみませぇん…。」


 行き道は、武神流の歩法で倍以上の歩速を出していて、ヤクタも問題なく同じ速さで進めた。帰り道、見るからに非戦闘員のシーリンにはついていけそうもない。


「そうすると、1日以上余分にかかるから、ご飯が足りなくなるかもだよ。」

「なるほど、確かに。どうしたもんだか。」

「後でお礼はするから、ここで捨てないでぇ……」


 今からでも食料をもらいに引き返すかとアイシャが振り向きかけたとき、ヤクタが気楽に言い放った。


「行きしなの、あのスパイ小屋に寄ってなにか分けてもらおうぜ。」


 建設的な意見だ。オーク族のスパイに向かって、オーク族を焼き討ちしてきた帰り道だということを知られなければ。


「ナイスアイデアだね、さすがヤクタ。それがいい。そうしよう。」


 “分けてもらう”ことについて、アイシャの発想とヤクタの企みはかなり異なるのではないか。シーリンには疑問が発生したが、まだそれを指摘できるほどお互いを知っていない。


「大丈夫なんですか? 大丈夫なんですよね、頑張って歩きますから、私!」



 かくて、ちぐはぐな一行はいまだ余燼(よじん)(くすぶ)る戦場を後にして、ピクニック日和の草原を行く。歴史の大きな流れに興味も感心もない2人連れに、もう一人妙な人物が加わった行き先は右か、左か。アイシャが無自覚に投げ入れた小石は、歴史の流れのなかでどっちに跳ねるか。予想できる材料が揃うのはまだずいぶん先のことだ。






新キャラが登場しましたが第3話【オーク】がここまで。

特に間をおかず、次回から第4話【村と街と人】になりまぁす。


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