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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第三話 オーク

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37 面接


 目標の足下に潜んだ刺客がとる戦法としては、下から短槍で刺すか、落とし穴に()めて斬るのが妥当だ。しかし、今は主の客に対しての示威行動であるため、目標の背後に出現して喉元に刃を突きつける。刺客の判断はマニュアル的に間違った行動ではない。


 アイシャが、さりげない風を装って、座ったまま椅子をゴトリと揺らす。瞬間、メレイ総司令が見たのは、床を弾け飛ばして飛び上がった刺客が、回転しながらさらに上昇し、天井の梁に引っ掛かって気絶した姿を晒すところだった。



「その椅子は、動かせる造りにはなっていないのだがね。」

「ちょっと揺らすくらいなら、なんとか。地下の下の方まで仕掛けみたいのがあったから、ガタッとやって、そこの人の頭を揺すって持ち上げました。こんなに飛んでくれると、ちょっと気持ちいいですね。」


 メレイ総司令は思う。忍ばせた護衛たちに彼女が付けた点数は、妥当な数字だ。そして、いま派手に吹き飛んだ刺客。実力の程はまるで見えないが、理屈を超えた何かがあるとしか思えない。


「それは、この国の牛神の力だろうか。」

「や、別の神様です。武神流の武神様の技。理論さえ勉強したらできる人にはできるらしいですよ。私はズルして覚えましたけど。」


 武神流……と、メレイは何かを確かめるように口の中で呟いているが、アイシャにはわざわざここまで来た目的がある。


「あの、お願いがあるんですけど。」

「ん、失礼。言ってみたまえ。」

「えーっと、迷惑だからお国まで帰ってもらえませんか。あと、捕まったっていう王子様も返してもらえたらなって。」



 今まさに侵略している国の子供の素直な言葉を耳にして、総司令官はしばし目をまたたかせ、のち、呵々大笑する。


「そういうわけには、いかんな。我々が行くも帰るも、大都に(いま)す至尊の君。ただお一方の胸の内にのみ、ある。それより、貴女はこの部屋を見てどう思うか。」


「きれいですね。天国みたい。椅子もきれいでフカフカして、こんなにいいものが世の中にあるって知らなかったですよ。わたしも偉くなって、お家にこんな椅子がほしい!」


「素直でよろしい。それが、世界帝国の富だ。」

「世界帝国。」

「そう。君たちは、知らないものを恐れているだけに過ぎない。我々の内に入って、我らの一員になれば、皆がこのような豊かさを享受できる。初めは苦労もあるだろうが、貴女のように才覚があれば、私のような立場に出世することは全く夢ではないのだ。」

「出世。」

「それこそが、帝国主義。」

「帝国主義。」


「私も、故国をモンホルースに焼き滅ぼされたクチだ。子供の頃はずいぶん憎んだものだが、今、せめて、なるべく殺さぬように軍を進める仕事をすることが私に課せられた役割だと感じている。どうだ、貴女が今何の仕事をしているかは知らぬが、見切りをつけて私に仕えないか。」


 情報の洪水をワッと浴びせられて、頼りのヤクタもおらず、思考が追いついていない。いつの間にか勧誘されている、その事に気づいているのかいないのか、今にもよだれを垂らさんばかりの弛緩した表情のアイシャ。だが、心の奥底に引っかかるものがある。


 貴女のように才覚があるものは、と目の前の男は言うが、才覚らしきものの薄い父ユースフのような人はどうなるのか?

 自分の父親に対して失礼極まりない発想だが、それですこし目が覚めたアイシャは、考えをまとめる。

 とりあえず「いま仕事はしていないです」と言おうとしたが、ちょっと格好悪い気がしたので、それは思いとどまった。


「この国を侵略するお目当ては、銃に必要な硝石が安くたくさん取れるからなんだよね? もっと他の国を侵略するための。」

 いつの間にか敬語を消していくのはアイシャなりの処世術だ。眼の前のメレイも気にした風がないので、案外優れた術なのかもしれない。


「よく勉強しているね。もちろんそれはあるが、それだけじゃない。国が広がれば、経済圏も広がる。1人じゃ生きていけない田舎の女の子とかも、都会に出て職人になれれば、1人で身を立てられる。今のファールサ国のままで、女の子に結婚以外の幸せな未来はあるかい?」



 なにか詭弁がある。しっくり来ないものを感じつつ、否定できない部分もある。頭をグラグラさせながら、

「ちょっと、考える時間をください。協力、できるかもしれないから。」


――――――――――――――――――――――


 いま言われて、急に国を裏切る判断なんか出来っこない。という口実で、一旦下がらせてもらう。じつは、この部屋に来る道すがら、王子様の気配を捉えて居場所をだいたい察知しているのだ。武神流の技で一番役に立つのって、この気配を読む術かも。


 司令官室を退出した後、最初の門番小屋ではなく、もっときれいな客間に通された。ずいぶんな厚遇だ。

 あの毒蛇の隊長さんが思っていたよりも大物で、それに勝ったということで、わたしを部下にするために今は甘い顔をしているらしい。将軍さんが言ってたことをまとめると、そうなる。


 甘い顔をされるのは大好きなので、気兼ねなく絨毯や椅子やベッドのフカフカさを楽しむ。司令官室のものに比べると質は落ちるけれども、いままでに体験したなかで2番目に良いものだ。どうにかして持って帰れないものか。

 半時ほどそうやってうだうだしていると外からの警戒も薄れてきたので、気配を断って部屋を忍び出て、行動を開始だ!



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