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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第三話 オーク

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35 突撃・オーク軍


 朝食はアイシャの得意料理、そのへんで採れた花蜜で甘くした、そのへんのハーブと干しチーズ入りパン粥。


「…草味。」

「このハーブはそれがいいんだよ。クセになる。」

「なっていいのか? コレ。」


 寝ぼけ眼でぶちぶち言うヤクタをなだめているうちに朝日が昇り、火の始末をしてから出発することに。今日は快晴だ。早朝独特の輝く青灰色の空が前途を照らすように広がっている。



「あれが、オーク族の陣だ。向かいの、あの辺にあるのが、もと王子の軍勢の陣。わかるか?」

「うん。もうどうしようもない空気もわかる。困ったねぇ。」


 昼前。少し迂回して、丘の上の木に登って、遠くを眺める。これぞ武神流・木登り。普通のわんぱくな子なら普通にやることだけれど、先月のわたしには梯子で木に登るのも大冒険だったので、これも武神流の技のひとつなのだろう。


 オーク族の陣は前にも霞がかかるほど遠くだけれど、横にもかすんで奥が見えないほど長く築かれている。アレが本陣だと指さされた辺りは、かつて村だっただろう石垣のある高台だ。その周りの畑をつぶして、さらにその外側にまで天幕と逆茂木が立ち並んでいる。

 対して、現在地から街道を経て、反対側の低い丘に王子様の軍隊が逃げて集まっている陣がある。あるが、明らかに規模が小さい。それに、なぜだかその周りの空気も淀んでいる。この調子では、オーク軍が街道沿いに動き出しても遠巻きに見ているしかない、そんな雰囲気だ。


「で、どうするよ。」

「難しいことはわからんですよ。街道沿いにまっすぐ敵本陣まで歩いていく。それから出たとこ勝負。ヤクタは、ついてこなくてもいいよ。」


「…そう、言われてもなぁ。」

「あ、思いついた。ヤクタは別行動で、夜になったら本陣に近づいてきて。それで、わたしが殺気を短く3回飛ばしたらそっち方向に助けに来て。殺気を1回長く飛ばしたら、逃げていくからその辺りで待ってて。」


「それ、本当にわかるかなぁ。」

「無理っぽかったら、逃げてね。それこそ、無理することはないんだから。」



――――――――――――――――――――――


 1人、道をポクポクと歩いていきます。お昼下がり、うららかな陽射しが眠気を誘います。さっき、お昼ごはんに食べたビスケットに、成功を願って蜂蜜の残りもつけて、ワインの瓶も開けて、お腹がポカポカ、ごきげんなお昼です。ああ、このまま皆で歌って踊って問題が解決すれば、どんなにいいでしょうか。


 丘からのんびり1時間ほど歩いて、敵陣の姿も目の当たりに見えてきたころ、槍を持って立ちふさがる、門からのんびり歩いてきた2人の敵兵の影が。


「Min int! Jekk int mibgħut militari, ippreżenta l-identità tiegħek.」

「何者だ、軍使ならば身の証を差し出せ。」


 ワォ、ここまで来れば門兵さんもバイリンガルだ。でも、話ができるなら好都合。話してみせましょう。


「わたしは、地元住民です。戦争で迷惑をしているので、司令官さんに文句を言いに来ました。取次をお願いします。身の証、えぇっと、これ、はい。」


 巫山戯るんじゃない、帰れ、ころすぞ。そう言いかけた門兵さんは、身分証に差し出した懐剣ずんばろう丸をひったくって眉をしかめ、「ついて来い」とだけ言ってきびすを返して歩きだす。もう一人の門兵さんは、こちらの言葉がわからないのか、噛みつくように問いただしているけれども、わからん、わからん。


 わたしの武装は、懐に忍ばせたミラード号、刃渡り20センチほどの、ずんばろう丸と大差ない短剣一本。服装は、実家で着替えたすこし薄手の外歩き用のワンピース。あと、カバンに入れた半分ほどになった食料と雑多な手荷物。



「ここで待っていろ!」


 本陣、というか元・村の入り口の空堀(からほり)の見張り小屋を拡張した詰め所に押し込まれ、放置された。



「お茶ー! お茶も出さないのね、モンゴーラの人たちはー! ティー、プリーズ、アーハン!?」


 15分ほど放置されて、外では何をしているのか忙しげにしている気配を見ていたけれど、さすがに退屈してきたので大声を出してみた。内容は特に何も考えてない。

 すると、扉の隙間からこちらを伺う目線が。


「ヘーイカマーン、これって何語だったっけ、なんでもいいや、お兄さん、ちょっとおしゃべりしましょう! できれば茶菓子もください!」


 目線の主は十数秒躊躇(ちゅうちょ)した後、扉を開けて部屋に入ってきた。わぉ、美少年。年の頃はたぶんわたしと同じくらい、切れ長の細い目と全体的にシュッとした顔立ちが印象的な男の子だ。


「アー、オマエ、アナタ、ウルサイ。」


 ごめんなさい。


「Cause meta jien daqshekk busy Ikolli nagħmel dan!(何だってこのクソ忙しいのに俺がこんなことしなくちゃなんねえんだ)? Jien se noqtollek.Dak il-ħin(今に見てろあの野郎。それにしても…),Dan... huwa sabiħ. Hija tidher qisha xebba ċelesti. Shit, dan it-tifel se jkun proprjetà tal-kbar guys, shit! ħaqq għal!(なんだかゴニョゴニョ言ってる)……コレ、クエ、マテ。」


 なんだろう、雰囲気で怒ってる感じは伝わりましたが、本当に茶菓子を持ってきてくれたみたいです。言葉が通じないのはもどかしいものですね。こればかりは武神流の奥義をもってしてもダメみたい。ニッコリ笑顔でもうすこしお話しようと試みると、男の子は顔を真っ赤にしてそっぽを向いちゃう。この反応には覚えがあります。カワイイな。

この子を利用して問題を大きく……は、したくないかなぁ。



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