33 名探偵
戦場へ向かう途中、雨宿りにたまたま立ち寄った小屋はスパイの集会所だったもようです。
びっくりですが、皆よく見ると戦闘力が高く、しかもたわむれに取り出した銃に殺気を込めた視線を集中させましたので、クロと判断しました。
容疑者は【農夫:武力38】【旅人:武力60】【行商人:武力44】のお三方。かけられた容疑は、
【A. オーク族の密偵】
【B. 第3王子軍の偵察部隊(主戦派)】
【C. 国の間諜(和平派)】
【D. 単に物見高い人】
【E. 情報屋さんみたいなヤクザの人】
全員バラバラかもしれず、2人がDで1人がEとかのハズレの可能性もなくはない。でもそれはないと思う。とりあえず、いちばん露骨に不審だった行商人さんと話をしよう。なんて切り出そうかな?
「あー、行商人さん。王子様、オークに負けちゃったらしいですね。やっぱり銃が強かったからですかね?」
「は!? 銃は、まだモンホルースも数を揃えられてない、新兵器だ。戦の大勢が変わるほどじゃない。」
「あぁ、そうなんだ。普通に王子様が弱くて負けたんだ。」
「ブレイモッ、いや、何でもない、そうかもしれんな。」
露骨すぎてどうかとも思いますが、行商人さんは【B. 第3王子軍】の可能性が強いかも。それはそれとして、謎の暗号を喋っていましたね。
「モンホルースって、なに?」
「アナタがオーク族って呼んでる人たちの国のことデース。オーク族ってワルい言葉だから、使っちゃあいけまセーン。」
横から、旅人さんが入ってきました。言葉に奇妙な訛りがあります。この発音を聞かれたくなくて黙ってたんですね。でも、申し訳ないことですが怪しい訛りで憎きオーク族のフォローをするのは怪しさマックスです。
ちょっと突っついてみましょう。
「そうは言われても、お帰り願いたい厄介さんですからねぇ。よく思われたきゃ、それなりの態度でいなきゃ。この銃を持ってたの、毒蛇部隊だっけ。弱かったから懲らしめ「えッ!?」て、これを取り上げたけど、毒蛇って名前は…ん?」
話の途中で妙な声を出したのは農夫さん。やっぱりあなたもか。それにしてもこの人たち、迂闊すぎない?
かなり下品に挑発しちゃって我ながら赤面ものだけれど、旅人さんはプルプル震えてうつむいてる。彼はオーク族?モンホルース人?オークでいいや。それっぽいね。
最後に、毒蛇部隊の話で動揺を隠せなかった農夫さんだ。
この人は、見た目も雰囲気も完全にこの辺の人だったので、銃に関心を示したのも単に物見高い人な気もしていた。さて、敵かな? 味方かな?
「農夫のおじさんは、迷惑な戦争が近づいてきてるみたいだけど、どう思います? 」
「…ああ、ウチは親父の代から50年、この畑を作って広げて、不作の年は餓えて豊作の年は皆で喜んでやってきたんだ。俺の目が黒いうちにこの土地は荒らさせねぇ。」
思っていたよりもシリアスな返事が来て面食らいます。
なるほど、中途半端に抵抗して土地を荒らされるよりは、先んじて国を売ろうという判断。無しとは言い切れません。…みたいな感じでしょうか?
面食らっていると、農夫さんからこちらに逆質問だ。
「こちらの事情はそんな所だ。けど、あんたは誰なんだ。何のために戦場に向かって、ここに通りかかったんだ。」
ですよね。不思議だよね。返答を選んでいると、横から行商人さんが一言漏らした。
「死天使…噂は本当だったんだ。」
旅人と農夫がびっくりした顔で目を見合わす。え、なにそれ。ヤクタは口を抑えて、しかし目は大爆笑している。なんとも器用な女だ。
「死天使? 失礼な。わたしは、戦火が広がらないように出来ることがないかって、戦場を見に行く途中なだけです。この小屋に来たのは、全くたまたまです。農夫さん、あなたも密偵とかそんなんなら妙な人を呼び込んじゃダメでしょう!」
「雨に降られて困ってる人がいたら普通に招き入れるだろう。何か役立つ情報を持ってるかもしれん。まして女の子なら、多少の助平心もあるからなおさらだ。まさか噂の人喰い死天使だなんて思うわけないだろ!」
「また、死天使っていう! ちゃんと、いい名前を考えてあるんだから! いま、ちょっと急に出てこないけど……「武神天使だろ」武神姫! ヤクタうろ覚えすぎ!
…そういうわけですので、上役のひとにはちゃんと、武神姫アイシャちゃんが来たって報告するように。…ヤクタ、それでいいかな。」
「いや、アイシャがそれでいいなら、いいと思うが。アイシャは、何がしたかったんだ?」
何って、そりゃ、ここの男3人が敵のスパイだったら退治しなきゃ、って話だよ。3人揃いも揃ってボンクラ揃いだったからペースを奪われちゃったよ。
で、スパイクイズの回答編。【農夫】【旅人】【行商人】はそれぞれどの陣営に属しているでしょう。べつに、退治はしなくてもいい気がしてきたんだけど。
ヤクタは、クイズとはパズルに乗ってくれないタイプ? 盛り上げ役くらいやってくれてもいいんじゃないかな。ダメ? わたしは結構乗っちゃうタイプ。だから、だんだんわかってきたよ。




