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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第三話 オーク

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29 ヤーンスの町 


 爽やかな晩春の朝の森。というには鬱蒼みが深く、歩みは軽やかにはならない。

 アイシャとヤクタは、ゆっくりめの朝食を済ませた後、街道に戻るべく足を速める。


「鹿でもいたら銃の試し打ちをしてやろうと思ってたんだが。武神流で獣の気配、わからねぇ?」

「動物の考えは人よりボンヤリしてて掴みにくいんだよ。馬とか犬くらい人と付き合いが深くなるともう少しわかりやすくなるんだけど…。

 逆に言えば、鹿くらい何も考えてない人は武神流で気配が追えないかもしれないね。お父ちゃんの気配が見つからないのは、ひょっとして…」

「オマエな、」「冗談だよ!?」



 2人は比較的スムーズに街道に戻る。武神流歩法で急げば、今夜じゅうには町の実家に帰りつけるだろう。意気込みの割に平和そのもの、順調に旅は進んでいる。父の馬車の足どりがつかめていないことを除けば。


「こんな目と鼻の先の往復で、毎回毎回、事件も事故も迷子もあったもんじゃねェや。親父さんも、よっぽど急いで飛ばしたんだろ。行こう、行こう!」


 悩んでも特にできることが増えるわけでもなく、とにかく進むことになった。そのまま、昼頃に一度小休止をとり、日暮れ前にヤーンスにたどり着いた。



――――――――――――――――――――――


「あぁ、懐かしの我が家! …灯りがついてない。お父ちゃん、まだなのかしら。」


 町外れにある、花畑の庭付き一軒家。こぢんまりしているけれど、機能的で清潔な、わたしが生まれ育ったお家! 今は静まり返って、宵闇に沈んでいこうとしている。

 人が住まなくなった家の独特のうら寂しさが、十数日の間にもう漂い始めていることにやるせなさを感じてしまう。


「ひょっとして、鍵がねぇから入れねェの?」

「申し訳ないヤクタ、今日はお家の前で野宿です。」

「扉とか窓を壊して入るとか。」

「本当にゴメン、今日だけはまだ待って。」


 不承不承、焚き火の用意をするヤクタに、せめて私は近場の井戸から水を汲んでくることを請け負い、軒先に残していた桶を担ぎ出していると、聞き慣れた声が。



「あれま、アイシャちゃん、どうしたの?」

「あ、イーナスおばちゃん、おひさ!」


 隣人の老夫婦で、うちの母が亡くなった後、わたしと、男手で娘を育てる父の面倒をよく見てくれた恩人の、イーナスおばちゃん。娘は遠くに嫁ぎ、避難するあてもないからこの町に骨を埋めるよ、と残ることを決めた人だ。


 話を聞くと、やはりまだお父ちゃんは戻ってきていないらしい。が、実は何かあったときのために家の合鍵を持ってもらっていて、幸運にも、我が家の軒先で野宿する辛い運命を(まぬが)れました。

 隣人に恵まれることは、幸運と人徳のどちらが欠けても成立しないらしい。おばちゃんとのご縁はお父ちゃんの人徳が発揮されているところだけれど、わたしもまあまあ人徳はある方だと思う。思っています。



「ん、いい家だな。いかにもアイシャ、って感じの家だ。」


 家に入って明かりをつけると、妙にくつろいだ雰囲気の大女が良くわからないはしゃぎ方をしている。よく考えると、この女、カタギの生活に縁の遠い暮らしをしてきているので、もの珍しさに浮かれているのかもしれない。

 かわいそうなので優しくしてあげよう。


 ニコニコ笑顔で、特別にお父ちゃんが隠していた上等の蒸留酒を出してあげる。ヤクタもニコニコ、ご相伴にあずかるわたしもウフフ。これこそ平和だと思いませんか。


 今ごろ、遠くでは王子様が戦争をしているのかしら。もう終わったかしら。顔をあわせて言葉を交わした人だから、そりゃあ景気よく勝ってもらって、一緒に喜べたらいいなあって思うけれども、情報屋ナヴィドさんは、そうなったら戦争の本格化が避けられなくなるっていう。もし、そんなことになったらわたしがひと暴れしてあげるのも、やぶさかではないな。


「アイシャ、アタシは明日、この辺回って親父さんを探すよ。オマエの方が気配を探れて便利だろうが、入れ違いになっちゃいけねぇ。ここで待っててくれ。」

「ウフフ、そうだねぇ。わたしがんばりますよ。酔ってないですよ。」

「ああ、そのザマじゃ二日酔いになるだろうから、ゆっくりしてたらいいよ。」

 


 翌日。ああよく寝た、爽やかな寝覚めだ! と勢いよく起きて、窓を開けたら真昼でした。久しぶりの我が家、馴染みのベッドですっかりリラックスできたせいでしょう。


 ヤクタはいない。そういえば、昨夜なにか言っていたような? 書き置きでも残してくれたらよかったのに。でもあの子、読み書きはできるのかしら。盗賊でも首領なら多少はできてもいいはずだ。今度聞いてみよう。

 わたしは今日、町を散策することにした。お店は開いているだろうか。お小遣いは持っているのだ。上街でオーク族の刺客を退治したときに、特別ボーナスが出ていたらしく、わたしの取り分ということで少なくない額を銅貨でもらっている。


 お気に入りの日傘をさしてお出かけ。服がおしゃれ着じゃない厚手の旅行着なのは残念だけれど、平和な日常に戻れたようで上々の気分だ!



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