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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第三話 オーク

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28 再び、森の中 


 日が暮れ、闇に沈もうとしている森の中の古塚の広場。ヤクタが黙って焚き火を起こし、簡単な晩ごはんの用意をしてくれています。



[聞きたいことがあるのかね。]

「あーハイ、いくつか。まず最初、わたしの未来で、暴力叔父さんから助けてくれる、衛兵の、二番目の旦那様。名前、わかりますか?」


[そんなことか。そいつの名は、ジュードだ。]

「ジュード様! 覚えました、ジュード、ジュード……あ……」


[丸まって、どうした。]

「美男子じゃなかった…あの門番さんだ……悪い人じゃないけど。いい人だけれど! …夢がない」

[そうかね、望みでなければ、別の男を探せばいい。アレに縛られる必要もない。]


 うーん、美男子を選べるなら、あの時のファリス子爵くらいの美人さんがいいな。

[武神流に不可能はない。好きな男を殴って、手籠めにしてしまえ。]


 肩透かしの連続で気力がゼロになったところに、おいしそうな匂いが漂ってきました。いつも役に立つ、ヤクタだ。


「何だか知らんが、悪いオーラが漂ってるぞ。飯を食え。腹が減ってるから(ロク)なことを考えねぇんだ。」

「わたしだって美人だと思わない?」

「そうか?」


 用意してもらった食事は、堅パンと干し肉を(あぶ)ったものと、ワインをお湯で割って蜂蜜を混ぜたもの。カチカチのパンをお湯ワインに浸して食べて、口中に唾液が出てきたところでガチガチの干し肉を一生懸命シガシガと齧ります。まだ肌寒い晩春の夜でも汗をかくくらい、カロリー消費がある食事です。

 一息ついて、あらためて武神様に。


「ところで、武神様は銃ってご存知? 剣、折られちゃったんですけど。」

[見てた。俺の時代にはなかった工夫だ。いくさのあり様は変えるかも知らんが、玩具だな。お前でも、一度見たからには次は何とでもできよう。]


「じゃあ、魔法は? 悪の魔法使いと武神様が対決したことはあるの?」

[あれは、未熟者をだまくらかす詐術(さじゅつ)だ。まともな実力があれば、問題にならん。少なくとも、俺の時代ではな。]


「お父ちゃんたちが今どこにいるか、わかる?」

[そんな事は感知しない。俺は、なるようになった先を見たいだけだからな。]


 やっぱり、善い神様じゃないよね、この人。

[武神だからな。武に関係ないところに神性は働かないな。]

 でも、考えてるだけのことがわかるんだ。やぁねぇ。 


「先日の王子様って、オーク族の人と、もう戦って、勝った?」

[いや、しばらくは睨み合いを続けながら交渉していたようだ。ぶつかり合いになるのは明日あたりだな。]


「明日って…。情報屋さんが、王子様が勝っちゃうと泥沼の戦争になるって言ってたけど、武神様はその方が嬉しかったりする?」

(いいや)。争いごとなどこの800年間にも、その前にも途切れもせずあるものだからな、興味深く眺めることはあっても、いちいちに俺が手を出すことはないな。]



 どうにも、ご利益がピヤッとしない神様です。どうしたものだか。ああ、もう眠ーくなってきました。昨日ほとんど寝てなかったですし。うぅーん。


「おい、アイシャ。あ、寝るのか。アタシは水を汲みに行ってくるから。そこから動くなよ。」

「お願ーい。ありがとぉ……」



「ゔー。」

 朝日を浴びて体を起こす。地面に転がって寝ていたせいか、体中が痛い。それに、体中アブラっぽい。体を拭きもせずに寝たせいだ。きっと今、わたしはくさい。


「おー、お寝坊さん、起きたか。」

「どうしようヤクタ、わたし、死にたい。」

「早まるな、何があった。」


 朝食に優先して武神様の塚に一応のお別れを済ませ、正しい方向の水場に向かって、今回は()むを得ないのでヤクタの石鹸を借りて体を洗う。一度は憧れたワイルドライフも、どうやらわたしには向いていないらしい。

 水浴びを終える頃に、ヤクタも朝食を完成させてくれていた。本当に気が利く女だ。あのまま領都に置いていけば、きっとモテモテ女になったに違いない。しかし、そんなことはわたしが許さない。


「? 何か? メシが粗末だとかいうなよ。普通、こんなもんだ。」

「ちがうよ、別に不満とかじゃないよ。いただきます。あー、おいしそうだなー!」


 朝食は、干し肉と“食べられる草”のスープ。それと堅パンだ。

「しくじった! 武神様に果物を作ってもらうんだった! 武神様、今からでもお願いします!」


[断る。食い物があるなら、そっちを喰いな。いまさら敬語を思い出しても遅いわ。]


 吝嗇(けち)な武神野郎ですね。あ、まだ武神様がいるならもうひとつ聞くことがあった。


「本来、ここが武神様が用意してくださった水場だったなら、その場合の案内人はヤクタじゃなかったんですか?」

[そうだな。うむ、武神野郎は良いな。強そうだ。それはさておき、あのとき俺が用意した案内人はウンディーネとかシルフとかいった、妖精的な、魔物的なものだ。ヤクタが有用な人材なら、お前の手柄だな。]


 うーん。ヤクタの顔を見て、妖精さんを想像して、うぅーん。


「? 何か? この顔にご不満でも?」

「ちがうよ、別に不満とかじゃないよ! もうわたし、ヤクタがいないと何にもできないよー。ヤクタにどうやってこの感謝を伝えようかって悩んでたんだよぅ。」


「べっ、別に! いいよ、そんなン! あ、相棒だからなッ、だろォ!」



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