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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第三話 オーク

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27 森へ 


 アイシャとヤクタ、2人で十数日前に来た道を逆にたどっている。

 予定よりも火薬と弾丸の完成が早かったらしく、数時間の余裕を持って出発できた。ここまでは順調だ。これから、父と兄が消息を絶つ予言を覆すべく、急ぎ、後を追わねばならない。

 とはいえ、馬車で先行する父と兄を徒歩で追うわけであるから、簡単に合流できるとは思えない。おそらくは、町の家にたどり着いて、持ち運ぶべき荷を整理しているところにのこのこと現れるくらいが関の山であろう。ただ。


「カラの馬車を襲う盗賊もいないと思うけど、もし、そうなっていた場合に一分一秒でも早く駆けつけたいから、のんびりはしてられないんだよ。」


「うん。心がけは立派だけどさ。今の歩く速さではいつまでたっても追いつけないと思うぜ。」


「しょうがないじゃない。わたしの足の長さじゃ、ヤクタのペースでチャッチャカ歩けないんだって。どうしたもんでしょう。」


 父と兄を追う他にもうひとつ、ついでの用事もある。


「あと、カディンの森の古塚で武神様も探すんだろ? その時間も必要だし。…あ、武神流の技で空飛んでピューンって行けねぇ?」


「さすがにそれは、もう剣術じゃないよ。でも、武神流ダッシュ、いや、歩法があるね。試してみよう!」

「なんか、あるのかよ。他の旅人の目もあるから程々にな。」



 武神流・戦闘歩法とは、敵中を単独で歩む際にあらゆる脅威から身を守るべく編み出された護身の技である。360度どこからの奇襲にも対応できる柔軟な姿勢が最大の特徴だが、今回、アイシャが活用しているのは武神流の身体の運用術。これにより、普通よりもキリッとした姿勢で、普通に歩くように見せて数倍の速さで進むことができる。

 傍目(はため)にはなかなかに気味悪い動作だとはいえ、多くの旅人は奇妙なものとすれ違ったとしても危険性がなければ目にも止めないか、目の錯覚で済ますものだ。これにより、旅の効率は格段に増した。主な手柄は、その速度についていけたヤクタにある。


「あー、疲れた! この歩き方だと、黙々と歩いてるしかなくて辛いねぇ。どれくらい歩いただろう?」


「……。オマエも。3時間、小走りしてみるか? …ふぅー。いいくらいに森の中に入ってきたな。親父さんか神さんの気配はあるか。」


「お父ちゃんの気配は、まだだねぇ。どこまで行ったのやら。武神様の気配は近くなったよ。今日中にもう少し進んで、できればこっちの要件は済ましたいな。」


 どこまでもマイペースなアイシャに合わせ、ただ、歩みは普通に戻して進む。時刻は昼下がり。もうじき夕刻に差し掛かり、野営をするならそろそろ準備を考えるタイミングだ。

 しかし、先を急ぐ旅だ。もう少し進むことにする。


――――――――――――――――――――――


「アイシャたちが盗賊に最初に襲われた場所、ってか、アタシらが襲ったのはこの辺だな。どうだ。」


 空が茜色になる頃、街道脇の森を指さしたヤクタが薄笑いで何かいい出した。どうだ、って言われても、別に。


「薄ぼんやり、覚えがあるような…? ちょっと森の方へ入ってみよう。」

「今から入ったら、森のなかで夜明かしになるぜ。」

「いいと思うよ、それで。」


 森の中なんてどこも同じに見えるけど、たしかに武神様の気配を察知! このまま進むと前回と同じくらいの時間になりそうだけれど、今さら引き返すのも面倒なので、進むしかないです。

 ヤクタは嫌そうな顔をしながらも、ついてきてくれるのは正直ありがたいところ。ここで放り出されたら、帰りは確実に迷うので。


 やがて日が沈み、足下が危なっかしくなってきたなと思っていると、急に視界が開け、広い空間が現れた。ああ、あの、ズンばらりと断ち斬った古塚だ!

 今になって思い出した、あの夜、盗賊さんを2人ほど転がしたままにしていたはず。だけれど、その姿は見当たらない。もし残っていたら気まずかったな。森の動物さんか、膝を砕いた盗賊さんが持って行って埋葬してくれたのでしょう。せめて安らかに眠り給え。



[わざわざ、ここまで来たか。御苦労なことだ。]


 突然、頭の中に何度も聞いた声が響きました。武神様だ。ビンゴ! ヤクタには聞こえてる? 聞こえてない?それは残念。


[先日は、森を抜けると月に一度しか話ができなくなると言ったが、どうやら隣のヤクタには巫女の才能があるようだ。一緒に居れば、半月に一度は話せるようだ。だから、来てくれずとも明日辺りには普通に話ができただろうにな。]

「なーにー、それぇ!」


 腰が砕けてへなへなと後ろに倒れそうになるのをヤクタが支えてくれて、暖かくて柔らかくて幸せ。もう今夜はこのまま甘えていたい。


[月イチというのも、アイシャ、お前聞いとらんかっただろう。俺にはどうでもいいことでも、お前には必要なことかもしれんのだから、他人の価値基準を鵜呑みにしないように!]



 面倒くさい上に説教臭いことを言われた気がしますが、もう今日の営業はお終いです。また明日。


「おい、聞きたいことがあってここまで来たんだろう。もういいのか?」

 かそけきやる気のすべてが蒸発して地面にくずおれているわたしを抱えて揺さぶってくれているヤクタですが、

「あとは寝ながら話します。ヤクタごめん、晩ごはん、お願い。」


 用意してもらっていた毛皮にくるまって、地べたにゴロゴロ。なんだか癖になりそう。ゴロゴロ。



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