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234 無双ちゃんの賦(うた)

 大僧正さんは「聖女の祝福というのは、定まった様式があるのだ。来い! きっちり叩き込んでやる!」とおカンムリだったので、わたしは逃げ回らなきゃいけなかった。

 大聖女様は「いいわぁ……花嫁、いい……」と失われた青春に憧れるキラキラの目でべそべそと泣きっぱなしだった。これから良いことがたくさんあるといいね。


 王太子アッちゃん様は「なんだか、スマンな。」とわたしにひとこと言った以外は当たり障りない祝辞しか口にしなかった。政治の問題の何かだろうか。大変そうだ。


 そんなトップレベルのお偉方も、しがない冒険者も、騒ぎを聞いて駆けつけた近隣の中小貴族さんも、元盗賊の怪しい大女も、それぞれに笑顔で過ごした宴もお開きとなった。



 そしてまた日常が訪れる。武神様から武術を受け継いで101日め。

 考えてみれば、その間日常とか平穏が少なかったから、急にやることがなくなって戸惑う。

 シーリンちゃんは、塔の神様と祖霊に結婚の報告?神様、いたじゃん。それとは別? まあ、わたしもついて行ってあげよう!



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 これで、この旅のお話はひとまずおしまい。


 語り残した事件も、進行中の問題もたくさんあります。むしろ解決した物事のほうが少なくて、けれど、この先はまた題を改めて、別のお話として語るべき物語になるでしょう。


 ふわふわした浮浪の道のりを越えて、地に足をつけた物語。あるいは、また新たな旅が始まるかもだけれども、次はもう帰りたい家も守るべきものも抱えて、目的を身体の前に据えて後ろから前につつーっと進む、お仕事。


 後悔することは後ろに山のように積んであります。崩れてきて押しつぶされることしばしば、そのうち死んでしまうかも。

 でも、こんなに恵まれた女の子も世の中に少ないに違いないでしょ。仲間たちに感謝、死んじゃった人たちともなにかの形でまた巡り合って、友だちになれますように。



 ここから少し後のことまで手短にまとめて、締めくくりと致します。 かしこ。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 秋。メガネくんのレストランが無事に開店。そのお祝いとはまた別に、ヤクタの20歳のお祝いもやる。

 ヤクタの誕生日はまったく不明だけれど、盗賊の懐も暖まるこの季節にお祝いをしていたのだとか。プレゼントできるものなら、もっと温かみのある人生を彼女にプレゼントしたいものだ。


 それと並行して、先日の暗殺未遂事件にようやく動きがあったらしい。

 らしい、というのはサッちゃんに雇われたベ太郎がこっそり敵アジトを急襲、悪事の証拠品を押収していたのを後から聞かされたからだ。

 わたしの出番だと言われても嫌だったけれど、蚊帳の外に出されているのもなんだかなぁと思う。サッちゃん的には、わたしに汚れ仕事はさせたくないらしい。それなら、まぁ、そうなのかもね。


 秋も深くなってからようやくケイヴァーンことミラード叔父さんが、右腕キミヤーさんや、わたしとの折衝担当プーヤーくんも引き連れて参上。こちらはもうサッちゃんに一任。べ太郎の下で汚れ仕事をしてもらって試すんだって。別に教えてもらわなくても結構ですよ。



 冬。

 宰相とオーク軍の交渉はなかなか具体的な成果が上がらないけれど、敵軍はひとまず国境の外まで引き上げているそうだ。

 オーク軍の占領地で起きている反乱は“シャンサーバニーの解放軍”を名乗って意気を揚げているいるものの物資も規模も足りなくて決定的な感じにならない。でもオーク軍残党が本腰入れて叩きに行こうとしたら後ろからハーフェイズ軍が攻めかかる構えなので、膠着してる。


 シャンサーバニーってマフディくんが決闘のときに名乗ってた名前だ。なんと、反乱軍的には彼の英雄的反乱でイライーダが倒れたということになっているらしい。

 その影響で精一杯盛り上がっているのに、反乱できる若い男がすでに払底しているから勢いに乗りきれない。


 そこで我らが宰相殿としては、いっそのこと彼らの頭を飛び越えてモンホルース皇帝に直談判で和平交渉しに行く案を一番現実的なものとして練っているのだそうだ。


 捕虜さんたちは元気に無為に過ごしていたのだが、ある日、グリゴリィさんが忽然と姿を消していた。と、べ太郎が言っている。公式には病死したと報告が上がっていて、かなりの大問題だ。

 何があったか知らないけれど、魔法が使えるように回復したのかな。いやぁ、問題だ☆ また会えるかな?



 冬至のお祭りまではみんな揃って楽しく過ごせた。でも、迫りくる嫌な影。

 ついに、ヤクタ使節団(これは、わたしだけがそう呼んでいる)の編成と準備が現実のものとなって進んでいるのだ。


 わたしの髪上げ式、いわゆる大人の仲間入り式は普通だと、次の春分の日に行われる。

 でも親がいないからしなくていいや、と思っていたのに、サッちゃんが「それなら俺の母に代理を頼もう」とか無茶を言い出すので、王妃様なんて遠慮したいので馴染みの大聖女様に頼んでしまった。そうしたらまた異様な乗り気で話が進んでしまって、ヤクタの出発前に済ましてしまう運びになってしまった。

 決闘で切られた髪も、いつの間にか頭巾で隠す必要もないくらい長く伸びていて不足がない。でもなぁ。



「いやだー、大人になんかなりたくない!」


「オマエ、ずーっとオトナになりたいって言ってたじゃねェか。」


「それは、言ったからってすぐにはならないことがわかってたからだよ。ダダこねだよ。今はずっと子供でいたーい!」


「おいおい、去りゆくアタシに晴れ姿を見せてくんねぇのかよ。次見れるもんじゃないんだからさ、頼むよ。」


「縁起でもないことを。でも、本当に3年かかったらヤクタが会うのは18歳のセクシー美女に成長したアイシャ様だもんね。しょうがない、キュートアイシャちゃんの晴れ着姿を見せてあげよう!」



 救国の超☆聖女のちょっと早い成人式は、なぜか国を挙げての一大イベントになっちゃった。特別に戦地からハーさん・ゲンコツちゃんもファルナーズ大将軍もわざわざこのために駆けつけて祝ってくれた。

 武神流六人衆は自分たちこそがと暴れたけれど、パワーアップし続けているゲンコツちゃんが1人で制圧して言うことをきかせたのだとか。頑張れ、六人衆。


 そのゲンコツちゃんは元々チリチリの天然パーマを短く刈り込んでいたので髪上げもしていなかったけれど、一度死んでから髪質が変わったので、ハーさんとヤクタ使節団に混じって帰ってきてから髪上げ式をやって、それから結婚する予定なんだって。

 19歳の髪上げ式ってどうなの、って思ったけれどそんなの人の自由だ。わたしも俗っぽいな。



 花が空に渦を巻くほどに撒かれるなか、どこまでが自分でどこからが衣装で、椅子と輿(こし)と舞台の境目も曖昧なほど飾り立てたわたくしに、王様はじめ地の果てまで埋まってるんじゃないかと思うほどの観衆が見守るなか、大聖女さまの手によってお化粧とヘアメイクが施されていく。

 ひょっとして神力でもってお父ちゃんやお母ちゃんの霊もやって来てくれるんじゃないかと期待があったけれど、そんなこともなく儀式は普通に過ぎていった。


 ところで現状、超☆聖女は引退できてない。非常勤聖女として、曖昧に好き勝手させてもらっている。塔の内装の修理の諸々の手配がようやくできたので、全てこれからだ。



 うん、本当に、これからだよ。別に、この先サッちゃんに捨てられていまだすれ違いもしていない3番目さんに拾われたりするとしても、いろいろあって結局どんぐり拾いのネズミ婆になるとしても、今なら予言も何も関係ない自分の選択の結果だと胸を張って受け入れられる。

 ただ、一生懸命やろう。死ぬ時、非業の死だとしても今みたいに晴れやかな気持ちでいられるよう。


 明日にはたぶんまた違うことを考えてると思うけれども、その時はその時だ。とりあえずは3年後のヤクタを魂消させるいい女に、わたしはなる。いい目標じゃないか!

 

 衝動のままに両手を広げて空に突き出すと、牛神様も祝福してくれたみたいに金色の波が天空を満たす。

 ヤクタもシーリンちゃんも、知ってるひとも知らないひとも、みんな笑顔だ。


 先のことはわからないけれど、みんなに幸あれかし!


 自分でも何を言ってるのかわからないまま口をついた言葉が、集った人々に唱和される。幸、あれかし!

 何があっても、何が待ち受けていても、幸せを感じられていますように!



(完)











さて、どんなふうに受け取っていただけるものか見当もつきませんが、物語はこれでお仕舞いです。もしリクエストがあれば短編、中編、いくらでも広げられましょうが、主人公の物語としてはひとつの完結。

短編扱いで反省会の駄文をひとつ連ねております。こちらもどうぞ。


反省会場

https://ncode.syosetu.com/n6719ji/


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