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233 結婚式


「姫様! 姫様! 今日は、何をなさいます!?」

「あぁ、テマリちゃんおはよう。今日も背が伸びてる? さあ、今日はどうしようかな。」


 侍女のお仕着せをバッチリ着こなしているテマリちゃん11歳。かわいい。

 まぁ、知らない間に細長い女の子に成長しちゃって。ヤーンスにいた頃は赤ちゃんが抜けきらないような顔をしてたのに、今じゃ背丈も追い抜かれちゃってる。もう昔のアダ名では呼べないね、って思う機先を制されてテマリちゃん呼びを続けろと強く要求された。

 すでにこのお屋敷のなかで、カミラ侍女先生の愛弟子になった彼女のほうが力関係でわたしより強い。でも、家族をなくして故郷もあんなことになっちゃって、この子が側にいてくれていることは素直に気持ちが休まる。ありがたい。



 ロスタム爺やは孫娘をわたしの侍女にしようと教育中。

 孫娘さんも、ようやく尊敬する祖父がお屋敷の殿様ではなく執事さんであることがわかって、屋敷住みを続けるために渋々勉強中。テマリちゃんとは同い年だけれど、昔から好きでやってた人との差は歴然で、爺やは頭を抱えている。

 追い出したりはしないから、程々にね。


 ヤクタは最近、火薬の調合や鉛玉の鋳造を熱心に学んでいる。頑張ってほしい気持ちもあるし、もっと構ってもらいたい気持ちもあってどうにも落ち着かない。

 ある日、鉄砲の筒がちょっと歪んでるとかいって恐ろしげな道具をたくさん揃えてきて、自分でトンテンカンと直したりしてた。何でもできる人って、本当に何でもできるんだ。すごい。

 彼女はこの秋で20歳になるらしい。それも盛大にお祝いしなくちゃいけない。


 シーリンちゃんは十字軍の一番ややこしい時期にひっそり20歳になっていたことをサラリと認めた。何故、言わない。仕事が大事? わっからないわぁ。

 結婚も、まだ20歳なら何も急ぐ必要はないと思うのだけれど。彼女は武術を必要ないと決めたのも家出を決めたのも、とにかく判断が早い。このスピードがなければ十字軍はのんびり空中分解していたかもしれない。とうてい真似できる気がしない。すごい。



 かつての決戦からひと月も過ぎた頃になると、現地解散した十字軍団員も王都に帰り着いて耳ざといものからお屋敷に挨拶に来る人が現れだした。

 もっとも、名指しして訪ねてくる相手はメガネくんやヤクタ。わたしはちょっと超然と浮いていたので、すこし距離感がある。嫌われては、いないよね?


「シーリンママを射止めたのはメガネ」なんて元も子もない噂が冒険者ギルドを賑わせるようになるとなんとなく浮かれたムードも広がって、急な予定ながら祝賀の参列者も充分そうな潮目も見えてきた。

 基本的にはシーリンちゃんの人脈とメガネくんの冒険者仲間。わたしの友人? いないわ、とは言いにくい。そうだ、大聖女様たちを呼ぼう。刺激に餓えてる人たちだからきっと来てくれるはず。サッちゃんはどうかな。

 ヤクタの酒友達は、呼ぶのやめとこうよ。ガラ悪そう。ジュニアだけなら呼んでもいいけれど、そのお友達は無しね。


 だいたい、貴族の結婚式ならドレスつくるのに半年かけるとか、無いの? あ、お姉さんより立派にはできないのか。意外に気を使ってるのね。

 でも、この国の聖女総出でお祝いするから、多分すごいよ。わたしだってすごいはず。覚悟しておいてね。


――――――――――――――――――――――


 この地方の気候は良くも悪くも雨が少ない。

 かつて“神の子”と呼ばれかけた男爵令嬢・シーリンの結婚式が催されるこの日も、底抜けの快晴。()しくも、アイシャが旅に出て武神の技を引き継いだちょうど100日後だ。

 しかし式場になる彼女らの屋敷はてんやわんやしていた。

 てんやわんやというのも今どき大時代な言葉だが、それも相応(ふさわ)しいような格調を要求される事態の混乱ぶりを表している。


 アイシャが前乗りで前夜に大聖女様ご一行をお連れしたのは予定通りだが、そのやりたい放題にしびれを切らした大神殿側から、トップの大僧正が自ら乗り込んできたのだ。お付きの者も100人ついてきたのはなんとか10人にまで絞ってもらったが、婚姻を大神殿からも祝福すると言われては断るすべもない。


 また、夜が明けて設営準備もたけなわの頃、「何故余を呼ばない」とサディク殿下が登場。

 それは、実家の派閥の問題です。申し訳ないです。アイシャが代表して接客に回るが、「アスラン兄も昼から来るから大丈夫だ。マリカともう一人も来るぞ」とさらなる爆弾発言。

 もう、王様が来ないならいいや。それにしても彼は落ち込む時はとことん落ち込むのにケロリと治るよね、すごい。…と、内心ではしつこく引きずる性質のアイシャは感嘆の視線を送るが、客観的には似た者同士だ。

 まさか神様は来ないよね。などと迂闊な言挙げをして妙なものを呼び寄せてしまった超☆聖女の耳に返答が飛び込む。


[俺はさすがに関係ないが、カムランの阿呆はなにか言いに来る予定のようだぞ。]

「ごめんなさい、相手しきれません。()めてもらえませんか。」

[俺がいったら余計に意地になって派手にやって来ると思うが?]

「しばき倒してとどめてください!」

[お前、神をなんだと思ってるんだ。]


 そんなやり取りがあったにも関わらず、式中では見覚えのある巨漢とない巨漢が2人で会場隅で腕組みして立っていた。大人しくしてくれてはいたけれども、巨漢といって済ませられる体格とオーラではなかったので勘弁してほしいほど目立っていた。


――――――――――――――――――――――


 式の進行は質素ながら男爵家の威信をかけて花嫁は美しく、花婿は凛々しく、慎ましく行われるはずだったのに。

 貴賓席には王子たちと王女が並んで、大僧正と大聖女が花嫁花婿を祝い、若き超☆聖女が無邪気に光の花を撒き散らす祝福を披露する。部屋の隅では謎の神々しい男たちが仁王立ち。

 それでなくても花嫁はとんでもなく美人だし、細々(コマゴマ)と働いているテマリちゃんもヤクタも麗しい。わたしだってなかなか可愛らしいはずだ。



 総じて、ドルリお婆さんや新郎(シーリン)新婦(ユーバフ)の旧友さんたち参列者の皆さんには一生の語りぐさになるものをお見せできたと思う。その上で、この豪華ゲストはわたしたちが旅で築いた人脈によるもの。その集大成を演出できたんじゃないか。


 こうやってそれを形にしたことで、わたしの旅にひとつの結末ができた。と、そんなことを強く意識させる出来事にもなった。

 これからも楽しいこと、厄介なこと、ときめくこと、悲しいことはうんざりするくらいずっと続いていくことだろう。でも、今日だけは楽しもう! わたし、お疲れ様!


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