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227 腑抜け


 観衆さんたちに手を振り振り、この場を離れて城門をくぐる。

 マリカちゃん姫も一緒に? あ、そうなの。


「貴女、訪ねて来るなら来るでお言いなさいな。」


「言うって、どうやって?」


「カミラにつながる魔法道具。下賜(かし)したのではなくってよ。お返しなさい。」


 聞いた瞬間、頬が真っ赤になりながら顔が真っ青になる。そうだ、あれがあった。あった? あ、シーリンちゃんに持っててもらったままだ! やっちゃった! いや、でもわたしが持ってたらそれも燃やしちゃったから、よかったんだ。



「返事!」

「はいっ! カシじゃない……帰ったらお肉も付けてお戻しします!」


「?…意味がわからないわ、どういうこと?

 まぁ、それはいいの。よくはないけど。それよりも、サディク兄様よ。急にお1人でお帰りになられてから、すっかり腑抜(フヌ)けてしまわれたの。なにがあったのかしら?

 貴女、…お兄様との仲を認めたわけでは全っ然ないけれど、お気持ちをちゃんと聞き出していらっしゃい。貴女のせいでもあるのよ、おそらく。きっと。絶対に、そう!

 責任重大よ、失敗は許さないわ。」


 一息にまくしたてられて、目が回る。前で歩いている門番さんも「うへァ」みたいな顔をしてる。

 でも、問題はサッちゃんがフヌケ?になっているという。言葉の意味として知らなくはないけれど、実際どういう状況だろう、フヌケ。



 前回はお城の横っちょの小さい通用門から忍び込むように入って狭い道をくねくね歩いて庭に出たんだった。花園の記憶が鮮やかで、悪くはない記憶だ。

 今回は、正門から大きな道を、左右にとんでもなく背が高く窓がたくさんある建物に挟まれ、見下ろされる気配を感じながら進む。広かった道がだんだん狭くなってきているのも、前回大将軍が言っていた防備の構えだろうか。


 さらに豪華だけれど簡易な門をくぐれば、美しい広場。たくさんの噴水や花々で飾られていて、いかにもな貴族様が気ままに憩う空間だ。

 正面には頭上高く、巨大な政庁の塔がそびえ立っている。でもお堀と背丈3つ分の高さの段差があるので、横に道をそれてまたぐるぐると登っていかないとたどり着かないんだ、きっと。

 それで、わたしたちはどこに連れて行かれようとしているの?



 どうやら、サディク王子はお城の奥の方で来客も断って、自主謹慎状態であるとのこと。

 自主的なものだからサッちゃんが私と会うというなら止める理由はないんだけれど、そういう中途半端なのもどうかと思う。と、マリカちゃんはわたしを睨む。


 もう、そんなに遠くはないらしいのに、見知ったサッちゃんの気配はない……アレか?

 いつも張り詰めていてお堅いのがサッちゃんの特徴だったので、近いけれどフニャッとしてるあれは別の人、詩人の第2王子さんだと思ってた。わたしもまだまだだね。


 

 サッちゃんの部屋は、宮殿とは別棟の瀟洒な建物。いまは誰も使っていない、王族の子供が暮らす“小御所”をとりあえず暮らせるようにして住んでいるとのこと。

 彼も子供時代はそこで寝起きしていたということで、ならば今は子供部屋お兄さん。英雄のなりそこないにはちょっと辛いポジションだね。


 音高くノックして。「サッちゃーん、あーそびーましょー。」



 のっそりと、サッちゃん本人が直接ドアを開いて昼なお真っ暗な室内から姿を現した。が、なんということでしょう。丸っこい。ゴツゴツしていた頬がふっくらしている。それは尖った雰囲気より好印象だけれど、目が死んでいるのが気になる。

 髪もモサモサだし、服装もどこがどうとはいえないけれど、戦場にいた頃よりもなんというか、雑だ。


「……アイシャ、苦労をかけたな。できる限りで歓迎しよう。マリカは呼んでいないぞ。」


 声にも張りがない。どうしたものだろう。元気づけてあげればいいのかな?

 門番さんはここまで案内してくれて、急いで帰っちゃった。なので、部屋にはサッちゃんとわたしとマリカちゃん姫。

 侍女も使用人もいない、身軽なものだね。後で聞いたことでは、人数を多くするとまた何か企んでいると疑われかねないから、という気遣いらしい。わからなくはないけれど、やりすぎではないかと思う。


「お兄様、つれないですわ。仲間はずれにしないでくださいまし。この娘の歌う『サディク伝』を(わたくし)はさわりしか聞いていませんのに!」


「なんだ、それは。」

「あーっ、あー。それより殿下さん、任務やって来ましたので報告と、あと相談があるんですけれどっ!」


 油断も隙もない。あの歌はお遊びなんだから、本人バレは困るよ。はやく本題に入ってごまかそう。と思ったところ、


「そうだな、仕事を頼んでいたんだった。マリカ、これは部外秘だ。しばらく席を外せ。そうだ、この部屋には茶菓子もないんだ。とってきてくれないか。」


 サッちゃんも乗ってきてくれたので、マリカちゃんはほっぺを膨らませて足音も荒く出ていってくれた。ひとまずはよかったけれど、わたしの心象は大丈夫かしら。



 報告することは、叔父にはしっかり会って、ひとまず軽挙妄動はしないようには言い渡したこと。そのかわり勝手にサッちゃんとの会談を予約しちゃった。どう? お話できそう?

 

「難しいな。アイシャの身内でなければ、呼び出してノコノコ現れたところを逮捕してしまえば話が早いんだが。」

「別にそれでもいいよ。」


「いいのか? いや、ちょっと考えさせてくれ。急ぎか? …まだ時間があるなら、事情が変わる可能性がなくもないからな。

 それでも、ひとまず暴発を止めてくれたんだからいい判断だ。礼を言う、アイシャ。言う以外にしてやれることがあればいいのだが! 」



 うーん、彼の雰囲気が重いのは前からだけれど、重いながらも活き活きしていたのに比べると、いまは重()しい。

 なにがあったんだろう?


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