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224 聖女さんの関係者


 新しい聖女体制についての議論は盛り上がって、その日は塔の中で一泊することになりました。なんと、お風呂付き。

 真夏に半日動いた後にバトルまでして、これがなかったら泣くところだったよ。巡礼者宿には浴場なんか無いからね。


 水や燃料は絶対に姿を見せない仕組みになっている下男さんが毎日運んでいるらしい。

 細かく気が利いている。みんなの不満は大きくても、支えがしっかりしてるから続いているんだ。新体制も、ちゃんとやらないと負けそうだ。

 

「アイシャ様お若うございますわ~」なんて妙齢のお姉様方におもちゃにされるのも、今後の人望のためのサービス。

 ヤクタは見た目で怖いから、こういうときに孤高になる。


 でも、ヤクタは普段わたしを愛でる側だからね。不機嫌になられても困る。だいたいヤクタはぐちゃぐちゃの混乱期間を喜んで、それが終わると物足りなそうにムッスリする癖がある。

 それが間違いだとはいわないけれども、いわゆる悪癖だとは思う。平和な世界に生きていけない相方って、どうしてあげたもんだろう。

 


 翌朝早くに塔を出る。朝の勤行(ごんぎょう)の時間があるとやらで、一緒にお勤めをやっていくよう強く勧められたけれど、ノーサンキューで。

 そういうのもイヤならしなくていいんじゃないの、って言ってみたら、別に嫌ではないのだと。わたしは、朝はゆっくりしたいのに。真面目だなぁ。


 塔の門を押し開いて外に出ると、夏の早朝の湿気と花の香を含んだ清冽な空気と日差しが押し寄せてくる。そして、まだ数は少ないけれど参拝者の視線。もう慣れたぜ。

 むしろ、事情に詳しくない人は不審者を見る目を向けてくるのが不満。もうすっかり目立ちたがり屋になってしまったみたい。


 なので、光ってみる。何度もやったからコツがわかってきた。

 今回は刺繍模様の雰囲気で背中に丸く光る花模様を浮かび上がらせて天使の光輪(ヘイロー)っぽくしてみた。お気に入りのラナンキュラスの花を牛神様の麦で囲んだ図案。かわいい。

 今度、聖女さんたちにもやり方を教えてあげよう。そういえば武神様がなにか注意してくれていたような。なんだっけ。…使いすぎると、溶けて消えてしまう。自分が。


 いまさらそんなのってアリ!?



 光が消えちゃった。急に思い出してビックリして、無意識に消してしまったんだろうか。

 自分が消えたくはないからね、仕方ないね。たしか、武神様とカムラン神が言い争いしてたときにもそんなことを話してた。神様界では、人は空気に溶けるものなんだろう。とても付き合いきれない。

 …でもなぁ。お客さん、喜んでたなぁ。いまも、光が消えてちょっとがっかりさせてしまってる。わたしも、お洒落としての光輪は良かったので安全ならぜひ取り入れていきたい。


 でも、どうやら新しい聖女だと受け入れてもらえてるようだ。一度光ったのに加えて、服装をマジモノの聖女さんの服を借りて、お端折(はしょ)りして着てる効果もあるみたい。着て来た服が燃えてしまったからだけれど、宮殿でもらった豪華な聖女服より普段着ぽくて軽くて涼しい。こっちのほうが快適で馴染む。


「なんと、若聖女様!ありがたや!」

「本当だ!ちょっとスカートが短くあらせられる!」

「俺は昨日から出待ちしていたんだ、確かにあの娘…あの方だ! 昨夕、塔からものすごい音がしてスゴい光ってたんだぜ! きっとモノスゴい儀式があったにちがいない!」


 ざわめく声のなか、後ろにヤクタを従えて歩く。悪くない気分だ。

 そこに、立ちふさがる豪奢な人影。それも、2グループ。



「超聖女様、お迎えにあがりました。神祇庁からの使いの者です。」

「聖下、大神殿に参りましょう。役所などにご用はありますまい。大僧正猊下がお待ち申しております。」

「超聖女様、陰謀まみれの破戒僧どもの巣窟に飛び込んではなりません。王城にて御身をお守りさせていただきたい!」 

「聖下、讒言をお信じになってはいけませぬ。神祇庁の木っ端役人どもこそは対オーク降伏派の先頭に立っていた奴ばらです。腹いせに何をされるかわかったものでは。」


 豪華な馬車が左右に1台ずつ。それぞれに数人の従者。そして1人ずつの代表者のおじさんがいて、のっけから喧嘩を始めた。

 はじめましての挨拶もなしに、どっちもどっちの失礼な人たちだ。でも、せっかくだからひとこと聞いておこう。


「昨日、わたしに暗殺者を送ったのはどっちかしら?」


 見守っていたギャラリーが、信じられないことを聞いたみたいに息を詰める。目の前の2人も知らなかったようで、ためらいなく隣を指さしあう。

 そういう感じなら、もう用はない。


「ヤクタ、行っちゃおう!」



「アタシは武神流じゃねぇから無茶はできねェんだけど!」と渋るヤクタに、

「わたしを担いで正面に走ってくれたら、後はなんとかするから、お願い!」と言っておく。


「チェッ、上手くやってくれよッ!」って、舌打ちひとつでわたしを背負って走り出してくれる。信頼関係があるって、いいよね。おっと、それでどうするか、だ。

 神力の光のアレは、使いすぎると良くないらしい。じゃあ、これはどうだ。モルモル流の瞬間移動!


 走るヤクタごと、彼らの馬車の向こうまで瞬間移動(ワァっぷ)


「お!? おぉッ! すげェ! あれか、決闘相手の小僧がヒュンヒュンやってたヤツだ!

 …おいアイシャ、大丈夫か、それ…何ていうか、大丈夫か!?」


 叫びながらも足を止めずに、どよめきの中を走り去る頼もしいヤクタ。

 雰囲気でいえば、モルモルの魔法も神力の光も理屈は同じもののようだけれど、使ったらすぐさま溶けるとか消えるとかいうわけでもなさそうだ。ちょっと安心。


 背後の役人さんや神官さんは群衆から石を投げつけられて逃げ惑ってる、いい気味だ。

 さあ、ヤクタ、(アシュブ)ちゃんを引き取って帰還するよ!


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