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223 就職活動


「ヤクタ。……ヤクタ!」


「んぁ、ハナシ終わったか。長かったな。」


「そう。長かった。でも喜んで! ねんがんの、就職が決まったよ!」


――――――――――――――――――――――


 アイシャと武神の戦いは、結末こそ曖昧だったが死闘と呼ぶにふさわしい、バトル門外漢の聖女たちさえ夢中にさせるハイレベルなものだった。

 そして巨漢のほうが消え失せ、勝負は引き分けたようだったが少女のほうが褒美の品を得るという展開の後、仔細を尋ねる聖女たちとアイシャの会話が始まる。


 ヤクタは、毎度の説明を始めるのかと聞きもせずゴロ寝していたのだったが。



「スマン、説明してくれ。」


「んもー。じゃあ説明するね。」



 問題はシンプルで、現・聖女様たちもこのままずっと聖女であり続けることを望んでいない、そもそも前例からいって聖女の任が数十年の長きに渡るものだと思われていなかった、これはおかしい。彼女らはそう訴えている。

 だが、それをアイシャに言われても困る。

 誰が聖女を続けろと言っているの、と聞けば、新しい奇跡が起きていない以上、神様がそう言っている。と、国の神祇庁や大神殿の偉い人たちが判断しているのであるらしい。知らんがな、と言いたい。


 ところで神祇庁の偉い人という肩書きに、アイシャにはごく最近の聞き覚えがある。昨日、わたしを襲おうとして草ちゃんに危害を加えかけた悪人の親玉、かもしれないと冒険者ギルドの人が言っていた悪の組織だ。

 なるほど、敵だ。戦おう。



 ひとり盛り上がりかけたアイシャだが、この敵は侵略者ではなく、やくざ者や革命家でもなく、国のお役所だ。倒せば解決するとは限らない。政治、この場合はサッちゃん案件だ。


 …だとしたところで、いま目の前の問題を放置しては帰れない。おばちゃまたちにしがみつかれて、まさか倒して屍の上を越えてゆくわけにはいかない。

 そこで、漠然と思いついたアイディアの片鱗を披露する。


「じゃあ、聖女の仕組みをなくしちゃいましょうか!」



 アイシャの思いつきは、こうだ。

 聖女に恨みがあるわけではないし、たくさんの人が熱心に信心していることもわかった。けれども、肝心の現役聖女が続けたくないというのであれば、どうにかすべきではないか。

 自分は後を継ぎたくないので、いまの大聖女様に「この条件なら続けられる」と思ってもらえるように仕事内容を変えてしまうのがいい。


 どう変えるかはサッちゃんに相談だが、前もって考えていた案があるのだ。

 


「だからさ、ヤクタ。塔の中まで誰でも観光で入れるようにして、お金を稼げるようにしたら国や神殿の言うことを聞かなくても自分たちの好きにやっていけるでしょ。

 それで、いまの聖女さんは事務員になってもらって恋愛も外出もオッケー。わたしは、チケット売り場のお姉さんになって立派に働いて生きていくの。」


 どうだ、いいでしょ。と満面の笑顔で胸をそらす超☆聖女。


 聞かされながらヤクタは天地が崩れ去る感覚にとらわれている。あれだけの、あの冒険をくぐり抜け、少なからぬ敵も味方も命を落として、そうして得たものが入場券売り場の係員の職だと?

 悪い夢ではないのか。おそるおそる、アイシャの頬をつねってみる。ムニっとしたいい感触がする。アイシャは痛がっている。現実か。


「痛いでしょー! なんでヤクタが溜め息つくの!」


「落ち着け、殺すぞ。……サディクっちの嫁になるんじゃなかったのか。」


「なるにしても、まだ早いよ。何年か先、25歳くらいでいいんじゃないかな。いや、27歳くらいでもいいよね。」


「ああ、そういう…… なら、いいのか? いや、しかし…」


「サッちゃんのお嫁さんをこのあと80年以上やってく自信がないんだよ。サッちゃんを信じる自分を信じきれない。

 でも仕事ができたら、結局お嫁さんがダメになってもどんぐり拾い以外で生きていけるでしょ。大事なことなんだよ、わたしには。」


 思いつきで遠大な計画をぶちあげるのが得意なアイシャだが、これは極めつけだ。続く寝言をさておいても、古くから続く聖女制度をめちゃくちゃにしてしまおうというのだから、本当に結婚する暇ができるまで十年以上かかってしまうかもしれない。


「サディクっちの禁欲は高僧に届くレベルになるな。」


「なんでそんな笑ってるの。禁欲…何だっけ。あれ、聞いた気が……?」


「記憶喪失になるくらいショックなことなら忘れてたらいいさ。

 それよりオマエ、チケット屋の姉さんが爺やと馬を養える給金だと思うなよ。クビ宣告と馬を売り払うのは自分でやれよ。アタシは知らんぞ。」


「! なんでそんな大事なことを黙ってるの! お賃金交渉してきます!」



 アホは元気だなぁ。微笑ましく、駆け去る背中を見送る。聖女はそんな話をできないだろう、と思っていたら侍女の方と交渉しているようだ。と見る間もなく、2,3言 交わして嬉しげに帰ってきた。


「お屋敷に20人の小間使いと月に3着のドレスを仕立てられるくらいの収入はあるはずだって☆」


 あっちもお嬢様か。経済観念が屁のようなバカどもが独立などおこがましい。

 つい採点が辛くなるヤクタだが、彼女らが楽しそうなら水を差す義理もない。あの勢いと最終手段・暴力があれば何だって出来るかもしれないしな。


 キャピキャピと皮算用の絵図面を引いていくアイシャたちに優しい眼差しを送りつつ、溶けてしまった牛神像はどうするつもりだろう。と問う気にもなれない元盗賊だった。









【第十四話・王都凱旋】、話が広がったところで、ここまで。

登場人物まとめを本日夜に更新してから【終話・旅のおわり】。

自分はラストスパートの後のクールダウン期間が長いタイプの話が好みなので、自然とこうなっています。最後までどうぞお見捨てなく。


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