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222 戦い済んで


[フン、俺に勝とうなんざ、百年早いわ。…と、言いたいところだが実際に首を斬ったのはアイシャで、斬られたのは俺だ。]


 武神は苦虫を噛み潰したように口を引き結んだまま、喉の切り口から声を出している。

 試合は寸止めで決着とも、殺せば勝ちとも事前に決めていなかった。アイシャも、ゴメンナサイとは言ったが、負けましたとは言っていない。


 彼としては、相手を本当に殺しては本末転倒なのでこういう幕引きを選ばざるを得なかった。しかしアイシャの方はカムラン流の神殺しの剣を真似すれば、武神を殺して勝利することもできたかもしれない。

 勝利条件が互いに異なる戦いなど、いくらでもあることだ。その意味で武神はアイシャに情をかけられたといえなくもない。



[引き分けだな。]

「えぇ~!?」

[続けるか?]

「結構です。」


 ふぅ、とあらためて一息つく2人。

 脅迫で勝敗を曖昧にした武神は自分で衣服を修復し、どこか満足げな表情で立つ。

 アイシャは丸裸になってしまった上に髪の先がところどころチリチリになってしまっているが、やりきった顔で座り込む。そこに、聖女付きの侍女が決死の表情でローブをもってきてくれたので、はじめて己の恰好に気付いて赤面しながらいそいそと羽織る。


[で、勝負してやったぞ、アイシャ。どうだ。]


「うーん、体を動かすと心がスッキリしますね。」

[この期に及んで健康体操の気分か、どうしようもないな。なら、健闘を称えて褒美をくれてやる。]


「欲しいもの……金貨100枚。」

[ふざけるな。]

「あ、じゃあ、今後盛り上げのために変な犠牲者を出さないようにお願いしたいです。」

[褒美に、軽くてスゴい神の剣をやろう。]

「ブー!」


[あぁ、それからな。神力を使うのはほどほどにしておけよ。使っていると気持ちよくなってボンヤリしてくるだろう。そのまま続けていると空気に溶けて消えてなくなってしまうぞ。]


――――――――――――――――――――――


 一瞬、空気が揺らいだ気がした。気がついたら手の中には剣があって、武神さまの姿は見えなくなっている。


 剣は1メートルほどの長細いもので、飾り気のない白木の柄と、同じく白木の鞘に収まっている。重さはほとんど感じない。男爵丸より長いけれども細く軽いので、使い心地は良さそう。

 借りた男爵丸は試合で燃えてしまったから、男爵には替わりにこれを返して我慢してもらおう。飾りをつけないとダメかな?


 最後に大事なことを聞いたような気がする。でも、何を聞いたかハッキリしない。頭がむやむやする。半神パワーをたくさん使うといつもこうだ。これからは控えよう。



 あらためて試合の後の周囲を見渡してみる。

 牛神様像の前半分が燃えて溶けてしまった。床が、所々割れたりヒビが入って、これも直さなきゃだ。弁償……できるとはさすがのわたしでも思えない。逃げよう!


 と思って入口の方を振り向くと、聖女様たちが半円でわたしを囲んでいる。その後ろで、ヤクタがふてくされたようにあぐらで座り込んでる。

 そういえば、聖女様たちとお話をしに来たんだった。

 どうする!? 弁償を回避できるか、借金漬けで聖女仕事に一生勤しむことになってしまうのか。

 ひと仕事終わったと思ったら新たに強大な敵の訪れだ。もう泣きそう。



「…あのぅ……超、聖女様?…今の御方は、いったい……それから…えぇと……」


 聖女様がたたちのなかからいちばん若そうな聖女様が、ジャンケンで負けたか権力で負けたか、震えながらおずおずと近づいて生きた。

 無理もない、こんな育ちの良さそうなかつてのお嬢様には、生バイオレンスなんて初めて見たのかもしれない。わたしなんか山猿だ。


 山猿としては「コワクナイヨ~、チッチッチ」とか言われながらエサを差し出してほしいものだけれど、弁償を勘弁してほしいわたしとしてはあつかましいアクションをとれない。

 ああ、説明しろって言うのね、もう馴れたよ、説明するの。



 ヤクタには礼拝スペースでのんびりしていてもらって、手慣れた範囲とはまた別の説明を始める。


 あの大男こそは、この塔を “牛神様の偉大さを知らしめるために” 建てて自らも神になった武神様であること。わたしは、その武神さまの使徒になってオーク軍と戦っていたこと。

 この塔の観光に来て牛神様の超☆聖女と呼ばれたことには戸惑って逃げてしまった。でもオーク軍と戦うには都合が良かったので、申し訳ないけれど最大限利用させてもらった。本当に申し訳なかったので、オーク族を退治したから超☆聖女の肩書きを返却しに来た。

 さっきの戦いは、オーク族との戦い方について武神様と意見の相違があってモメたことがあったから、そのせいでケンカになっちゃった。


 我ながらちょっと都合よくアレンジしたお話が滑らかに口から出ることに感心する。



「なので、超☆聖女は引退させていただきます。ありがとうございました。帰りますね。」


 言い終わる前に猛然と飛びついてきたのは、老女☆大聖女様。

()めて()めないで! 跡を継いで私に辞めさせて! 嗚呼~っ!」


 肺腑(はいふ)(しぼ)るような嘆きの声。元田舎娘が40年以上を豪華な牢獄に閉じ込められて、希望の光が不発に終わろうとしている悲しみ。これを理解してあげられると言ってはいけないだろう。でもなぁ。

 代わってあげることなんてできない。いや、できなくはないけれど、代わりたくない。大聖女様がイヤなものなんて、わたしもイヤだ。


 ならば、わたしから言ってあげられることはシンプルだ。


「じゃあ、聖女の仕組みをなくしちゃいましょうか!」


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