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218 王都再訪 2


 王都の中央区にまで到着して早々に、何者かの襲撃を受けたらしい。

 らしい、というのは、未遂で撃退したからだ。で、犯人の一人を捕まえたら、舌を噛み切ってしまったんだって。これから、その治療をする。


 見物客が増えてきたので、手早く済ます。

 舌を切られると死ぬというけれど、残った部分が喉を塞いだり、血がたくさん出て、それでダメになっているようだ。それを、回復してあげよう。

 うわぁ、ドレスが汚れるの、イヤだなぁ。でも、死なれるのも気が悪い。出血を止めて、舌の筋肉をリラックスさせて、ヤクタに拾ってこさせた部分を気の力でつなぐ。

 触りたくないよぉ、イヤぁ。なんてヤクタと2人で半泣きになりながら、施術は完了。ちなみにシーリンちゃん夫婦は見物客のラインまで下がって、恐恐(コワゴワ)と眺めている。非情だ。



 群衆がワッと叫んで、奇跡の技に感嘆し、成功を祝う。見物料でも取ればよかったかもしれない。

 男は気絶しているので、縛り上げておく。ここでようやくヤクタと爺やに経緯(いきさつ)を説明すると、誘拐や暗殺の常套手段であるとのこと。馬を暴れさせて、周りを混乱させて、別の屈強な男が助けると見せかけて、悪いことをするんだって。


 誰が、なんで、わたしにそんなことをしたいの? ベ太郎はどこ?姿を消しちゃった。アイツ、腕を上げたね。ちぇっ、何がしたいのやら。



「こんな、末端のザコは何も知らないでしょう、と、言いたいが舌を噛み切る覚悟を見れば、案外ワケ知りかもしれませんな。かといって、連れて歩くわけにも。」


 頼りの爺やも首をひねるこの状況。打開案を出したのは、なんとメガネくん。

「この先の通り道に冒険者ギルドがあるので、そこで相談して預かってもらっては?」


 それだ。さすが、王都っ子。

 それはそうと、いまの一連のアクションで、わたしが聖女であることが明らかになってしまった。


「超☆聖女さまのお帰りだ!」「道を開けろ! 聖女様がお通りなさる!」「暗殺者さえ許して癒やす、ああ! 真の聖女!」

 もう、そういうのはいいから。超☆恥ずかしい。でも、その群衆の中にいた服屋さんと洗濯屋さんのお世話にはなりつつ、先を急ぐ。



「おや、アーちゃん聖女様! お帰りの噂は聞いてましたよ! もうお越しいただけるなんて、感激です!」


 ギルドで出迎えてくれたのは、担当のお姉さん。いつ行っても彼女が居る。本当に、お休み無いのね。あと、アーちゃん呼びってどこから仕入れた昔のアダ名だろう。

「うちの妹が用事あるみたいなんで、呼んできていいですか?」って言われても、今日は急ぎで危なっかしい用事があるから、誰だか知らないけれどもまた今度ね。

 で。



「なるほど。聖女様の暗殺ないし誘拐未遂。族滅(一族皆殺し)級の暴挙ですね。神祇庁のイマーン副長あたりがいかにもやりそうな。…いや、お任せください。

 お陰様で、わがギルドの冒険者は聖女様の尖兵との呼ばれも高く。お役に立ちたい者が千人も順番待ちなのですよ。きっと、お役に立ってみせます。あと、うちの妹もぜひ!」


 どれだけ妹ちゃん推しなんですか。聖女は用事が済んだから辞めるけれど、それでも良かったら。あ、侍女役は昔の友人の予約があるからそれ以外でなら。ね。

 じゃあ、犯人の身柄を預けていくから、事情聴取と身辺警護をお任せしますよ。


 聖女を辞める、と聞いて受付さんは目口を大きく開いてものすごい驚愕の表情をしていたけれど、“聖女は恋愛禁止”の(オキテ)は甘受できない。辞めますとも。聞いてるでしょ、サッちゃんとの仲。

「それその情報を!情報を!」と叫ぶ声を後に、くれぐれも頼みましたよ、と言い置いて最速で行程を再開。


 沿道からの聖女様コールを受け流し、昼過ぎには目的地に到着。

 まさかあのコールの中でお昼ご飯休憩もとれなくて、なかなかやるせないお腹の状況のなか、さあ、ここからはシーリンちゃん、あなたの出番ですよ。



 目配せを受けた“旧・神の子”はひときわ堂々と、知り合いばかりが門の向こうで動揺しているなか進み出て、声高く言い放つ。


「カーレン男爵にお目通り願います! 用件は、直に話させていただきましょう!」


 これはまた立派な、家出娘の帰還宣言。男爵さんへ報告に走る人がいる一方、いそいそと門を開いて美しき愛娘ちゃんを勝手に迎え入れる人もいる。

 こっちでも革命が起きるだろうか?



「アイちゃんは客間で待ってて。5割方、家出続行になるから。」

 また、情の(コワ)いことを。わたしはこの人の、こうと決めたことは譲らないところを尊敬しているけれど、親御さんは大変だよな、こういう娘さんを持つと。

 

 わたしたちを待機させて、シーリンちゃんとメガネくんが決戦に赴く表情で別室に消え、夕日の時刻からとっぷりと日も暮れ、もう夜更けといってもいいのではないかという頃。

 2人が帰ってきた。満面の笑顔で。



「完全勝利! やったねアイちゃん!! あぁ、もうホント、あなたにはどれだけ感謝しても足りないわ、私の聖女様! ほら、メガネくんもお礼いって!」


「聖下。男爵様は全面的に私たちの言い分を受け入れてくださいました。ご家族にもお喜びいただき、俺を料理長にした料理店に投資していただけると。

 活躍の場と、失っていただろう命と、新たな人生までも貴女はくださった。妻とともに、このご恩に報いるため邁進していく所存です。」



 喜びは伝わったけれど、メガネくんは硬いね。普通に素直な感じでお願いしたい。それより、もう遅い時間だけれど、これから(うたげ)を所望します。


「シーリンちゃん、結婚式には呼んでね。」

「呼ぶもなにも、全面的に半神半人の元聖女様に婚姻を誓う形の式を予定してるのよ。日取りは来月のどこかになっちゃうけど、よろしくねぇ。」



 わたしの見聞きした範囲では、不思議に幸せ夫婦がいない。第1号として期待してるんだからね。…と、いうのはいいけれど、知らない間に仕事が生まれている。これは、いいことだろうか? それとも、面倒ごとだろうか。イベント屋の鬼マネージャー、シーリンちゃん。

 いや、彼女は料理店の女将さんになるんだ。いいことじゃないか。その先は、別の話。


 で、わたしは、どうしようか。


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