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209 怪しい人

 サッちゃんからの依頼で、叔父の悪巧みを止めようとやってきた革命家の集会場。そこで、死んだ、あるいは行方不明と聞かされていた兄・ライがいて、なぜか将軍を名乗っているという。

 疑わなかったわけじゃない。でも、本当にお兄ちゃんだったら、本当に嬉しすぎるじゃないか。

 不安と期待に頭がおかしくなりそうになりながらも、遂に対面の時が訪れた。そして、目の前にいるのは、ライと呼ばれる知らない大男。

 これには、説明を求めねば。



 重い沈黙が流れている。色々事情通らしいキミヤーさんも「聖女の兄のライ」が偽物だったことは知らなかったらしくポカンとしている。

 偽物さんは部屋に入ってきた時の勢いはどこへやら、目線をさまよわせながら黙りこくって、気まずい様子。才気煥発・口が上手とはいえないあたりは本物に似ているだろうか?

 プーヤーくんはじめ、その他の人々も状況を掴みかねて、この場を見守る判断をしたようだ。


 間もなく、最後の一人。ボスのケイヴァーン先生とやらが姿を現した。

 こちらは、おなじみのミラード叔父さんで間違いない。あーぁ、こっちのほうが偽物ならよかったのに。



「来ちゃった☆」

「アイシャ。君は、いったい……。」


「ハイ、先生、僕です! ヤーンス方面からの情報で、“サディク王の聖女様”がいらっしゃるとあったので是非にもお招きいたしました!」


 呆然とした叔父さんに、得意気にキミヤーさんが挙手して起立してから発表した。さっきまでより声が高い。褒めて!褒めて!と言葉ではなく魂で伝わってくる。

 それに対して“先生”は苦り切った表情。ノリが悪いね。



「ア……聖女君、別室で少し、話をさせてくれないか?」

「ここでいいよ。じっくり、お話しましょ?」


 叔父さん、額にも、握りしめた拳にも青筋を浮かべて、そうやってワナワナと震えていると暴力男の本性が透けて見えるよ。

 いまさら、額に手を当てて溜め息をつかれても知らない。部下にも言えないようなことをしているのが悪い。それで人望を失って革命がダメになったら、期せずしてサっちゃんからの任務達成だ。

 そろそろ、この場のみんながケイヴァーン先生と聖女さんの間に個人的な何やらがあることを感づいている。右腕さんもやらかし(・・・・)仕出(しで)かしたらしいと理解して、不安そうだ。


「ちょっと込み入ったことでもあるし、ここではお茶も出せないからね、」

「だから!!! いいって言ってんでしょ!!」 



 なおも穏便に運ぼうとする彼に対して、思わず叫ぶような金切り声じみた声を上げてしまった。自分のなかに、そのことに驚いている冷静な感情と、真っ赤に塗りつぶされた情動がある。

 そうだ、わたし怒ってるんだ。カッとなってガーッとなって、抑えが効かない。どうしたらいいんだろう。


「落ち着きたまえ。みんな、彼女をひとまず…」

「寄るなッ!」


 プーヤーくんを含むこの部屋の人達が戸惑い気味、ためらいがちに近寄ってくるのに対して、わたしの両手から無数の光の糸が湧き出る。

 これはもうただの光じゃない。たちまちに全員を縛り上げ、床に引き倒す。



 驚愕、恐慌。

 皆一様に、うめき声さえあげる余裕もなくして震えながら転がっている。

 自分でも、夢中でやってみたらできてしまったので、驚きのあまり怒りがすっ飛んでしまった。繰り返すが、暴力はいけない。暴力男だと嫌っていたミラード叔父に怒りのまま乱暴してしまっては筋が通らない。



「叔父さん。わたしもたくさん悪いところはあったよ。お父ちゃんのお葬式から逃げたりとか。でも、コレはないよね。人として。

 …本当のライお兄ちゃんは、どうしたの?」


「う、アイシャ。聖女って、こんな……いや、違う、君を騙そうとしたんじゃない。ちゃんと話そうとは思っていたんだ。大人の社会には必要なことなんだ。」


「話し合えばいいってもんじゃないでしょ。そうしたって順番が逆だし。それに、」


「ライの行方がわからないのは本当のことだ! 信じてもらうことは今となっては難しいだろうが、今のこの社会で手を尽くして見つからないということは、おそらく、最悪の事態を考えなければならない……。

 だがもし、彼がどこかで健在で、彼の名をした者が有名になっていることを聞けば、いずれ我々の元へ名乗り出てくれるだろう。それも期待して、」



 よく言うよ。さっきも考えたけれど、もしお兄ちゃんにそんな器用さがあれば。

 ライお兄ちゃんは名乗り出るような人じゃない。こんなこともわかってないのか。

 でも、怒りはしたけれど、ここにいるのが偽物なら、もうここはどうでもいいんだ。用を済まそう。



「叔父さん、こうなったらわたしの用件だけ言うよ。

 サディク王子さまの代理人で来ました。王子さまは革命家が暴れかねないことに迷惑しています。ケイヴァーンを探して止めさせろ、と名指しで命令されました。ので、大人しくしていてください。」


 例の王家の指輪を、倒れ伏している目の前に突きつけて、なるべく冷たい声を作って話した。

 しゃがみ込む姿勢だし、今日は少しおしゃれ目の平服でスカートも膝上丈なので王家の代理人に相応しい威厳は出なかったかもしれない。なにぶん、急な話だったからね。

 あと、何を言おうか。そうだ。


「文句があったら、王子様に直接言ってね、わたしじゃわからないから。取り次ぎくらいはしてあげれるよ、たぶん。」



「お、王子様が、サディク殿下が、数ならぬ僕の名を、知っていてくれている…!?」


 急に、泣きながら震えてらっしゃる。どうしたの? 周りの革命家さんたちも縛り転がされたまま、恍惚として泣いてる。プーヤーくんだけは理解できていないみたい。あ、わたしも理解できない。


「行く。行くとも。是非にもお目通りをお許しいただきたい、聖女様!」


 気持ち悪い。身分差別反対のはずの革命家さんたちがそんなことでどうする。とは思いつつ、任務が完了してしまったのかな、これ?







少し長めになった【第十三話・革命の灯火】、ここまで。思っていたよりも妙に字数ばかり伸びてしまいました。

次から【第十四話・王都凱旋】。メインクエストクリア後の隠しボス展開です。


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